たぶん愛は世界を救う

ももくり

文字の大きさ
上 下
20 / 45

モテモテ浦くん

しおりを挟む
 
 
 …ハゲ親父から光貴と私が見合いすると聞いた茉莉子さんは、確実に阻止しようとまず浦くんに会いに行ったそうだ。そして、一緒に光貴のマンションへと乗り込み、私を攫って逃げるつもりだった…のだが。

 浦くんがそれを拒否した。

『自分は名家に生まれたワケでも無いし、容姿もごくごく普通で、学も無い。食うに困らない程度の給料は貰っているけどコトリさんに贅沢をさせてやれるかというとそれは無理です。

 だけど諦め切れなくて。あの人を一番幸せに出来るのが自分だとイイなってなんかもう、自分では必死に頑張っていて。金が無いなら、無いなりに与えられるものが有るんじゃないかなって。恥ずかしいんですけどね、愛情をですね、捧げまくってるつもりなんですよ。

 なのにコトリさんは見合いすることを選んだ。

 あの性格だから、断ろうと思えば断れたはずで、渋々でもソレを受けたってことは、彼女の中で『もっと幸せになれるかも』という可能性の芽みたいなモノを追い求めているんじゃないかな。

 なんか俺、分かっちゃったんです。人間には『選ぶ側』と『選ばれる側』がいるんだって。残念ながら俺は『選ばれる側』だから、彼女が見合いをすると決めたのなら、納得いくまで自由にさせてあげたい。そして最後に俺を選んでくれたなら、最高に幸せだと思う。

 とにかく俺は、コトリさんの邪魔はしません。それが俺の愛し方だから』

 とか言ってたクセに、当日、蓋を開けてみるとわざわざタクシーでやって来たらしい。それを聞いて、私は思わずボソリと呟いた。

「なんだソレ」
「ほんと、なんだソレって感じだよね」

 そして茉莉子さんと同時に再び呟く。

「ったく、カワイイな」
「うん、クソ可愛い」

 カッコつけて私を泳がせると宣言したものの、結局は我慢出来なくて様子を見に来たのか。

「コトリさんが光貴に襲われそうになってたの、もっと早く助けられたんだけど。ちょうどその時に浦くんから電話が掛かってきてね。そのせいで遅くなっちゃったの、ゴメン」
「いやいや、何を仰いますやら。何もかも面倒を掛けちゃって悪いわね」

 自慢では無いが、とっても女ウケの悪い私と、同じく女…いや、人間ウケの悪い茉莉子さん。なぜかこの2人に友情らしきものが芽生え始め、最近、会う頻度が異常に高くなった気がする。

「あら、いいのよ。だって私が榮太郎とギクシャクした時、コトリさんが真相を話してくれたお陰で関係修復したんだもの。これはいわゆる恩返しのつもりなの」
「茉莉子さんったら義理堅いわねえ」


 たぶんこの頃が過渡期だったというか。

 過渡期とは簡単に説明すると“移り変わる途中の時期”という意味で。最近、榮太郎様がこの言葉を頻繁に使用するから私もちょっと使ってみたくなっただけなのだが。えっと、とにかく、この辺りから私と浦くんの関係が徐々に変化し始める。その序章として、ある日突然、浦くんが

 モテモテになってしまうのだ。

 モテを10段階で表すと、3モテだったところがいきなり9モテになったほどの勢いで。そう、あと1モテでフルチャージである。いや、その前にモテるとはいったい何なのか?たぶん異性から好意を持たれる事なのだろうが、そこまでのプロセスと言うか、仕組みは謎だ。

「えーっと、私の研究では片想い中のモテと、両想い中のモテとでは微妙に違う気がします」
「ほほう。さすがはコトリ研究員!ヨシ、じっくり聞きましょう。先を続けて」

 …あの見合い騒動の1カ月後。

 相も変わらず私は、茉莉子さんとランチなんぞ楽しんでおり。しかも、今日は久々に浦くんの勤務先である例の店に来たのだが、なぜかホールにちょいちょい顔を出す彼に若い女性客が嬉しそうに話し掛けたり、中には連絡先を書いたメモらしきものを渡す人までいる始末。

 その姿を見て、モテについて語り出した次第だ。

「恋をした途端モテ始めるってよく聞くでしょ。私の説では人には元々“愛され機能”が有るの。まあ大抵の人は好きな相手がいない時期に愛されても面倒なだけだから機能OFFにしていて。それが恋をした途端、ONにしちゃうんだな。

 片想い中の人はそれが全開モードだから、四方八方の人に愛されちゃうんだけど。両想い中の人は意中の相手にだけ向けて細く長く愛されようと思っているから、特定の人にだけその機能が発揮されるのね。

 ていうかさ、まだ私、浦くんをお試し中で彼氏に本採用していないから彼の愛され機能は全開モードなワケよ。だから無差別にモテまくっているんじゃないかなあ」

 …ん。なに言ってんのか自分でも意味不明。しかし茉莉子さんは、私の話をいつも掻い摘み、適当に流してくれるので何とか会話は続くのだ。

「へ?なに呑気なことを言ってんのよ」
「え?」

「試してる場合じゃないでしょ、さっさと本採用にしなさいって。そんなことしてたら誰かに奪われちゃうわよ」
「だって、好きは好きだけど、まだ本気の恋愛をするのは怖いと言うか、その…あの…うう、あと少しだけこのままの状態でいたい…かな」

 だって、富樫先生が消えたあの時の喪失感。あれをもう一度味わったら私は確実に死ぬ。

 もしも浦くんが心変わりしたら?
 もしも浦くんが私に興味を無くしたら?
 もしも浦くんが…。

 そんな押し問答を繰り返し、結局は現状維持を選んでしまうのだ。

「ほら、コトリさん。またどこかの女がちょっかい出してるわよ」

 それは単に本日のメニューを確認しているだけなのかもしれないが、女性客の表情は明らかに獲物を狙っている狩人のようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー

夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。 成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。 そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。 虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。 ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。 大人描写のある回には★をつけます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

処理中です...