たぶん愛は世界を救う

ももくり

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絶体絶命のピンチ

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 私なんかだと、『見合い=ホテルのロビー』という図式が頭に浮かぶのだが、さすがあのハゲ親父と鼻息ピュルピュル親父だ。いきなり光貴の住むマンションへ行けと。いや、正確には彼の住むタワマンの共用ゲストルームで対面しろと言われたのである。

 …うん、これはきっとアレだな。自分自身に価値が無いことを知っているから、付加価値で女を釣ろうとしているに違いない。

 なんだこの無駄に豪華なマンションは?!コンシェルジュは勿論、フィットネスルームにバーラウンジまで有るってどういうこと??しかも分譲でしょ??一概のサラリーマンが、どうしてこんなところに住めるのよッ。

 …という疑問を顔に出すと、きっと万里の長城よりも長く果てしない自慢話が始まると思い。根性で薄ら笑いを貼り付け、何も考えていないフリをしていたのに。唐突に光貴の方から自慢話を繰り出してきた。

「いいだろ?このタワマン。共用施設がかなり充実しているんだぜ。マルチサウンドルームにファミリーラウンジ、パーティールームにキッズルームなんてのも有るんだ。当たり前なんだけどスパも付いててさ、岩盤浴まで出来るワケ。傑作なのはさ~、茶室。誰が使うんだろうな、そんなモン。あ、ワインセラーなんかも…」

 なげえな。
 そんならもう、このマンションのパンフレットでもくれればウチに帰ってソレ読むからさ。

 息継ぎを忘れるほどに自慢しまくった光貴は、ゼエゼエ言いながらコーヒーを何口か飲んだ。しかし、そこまで私も鬼では無いので、場繋ぎに質問なんぞしてみる。

「このマンション、随分と高かったでしょう?何年でローンを組んだの?」
「は?」

 微かに人をバカにしたような表情で、彼はゆっくりと口を開いた。

「もちろん一括だよ。ローンなんて組まないさ」
「へえ…よくそんなお金が有ったわね。あっ!まさかお父さんに出して貰ったとか?!嘘々ごめ~ん。そんな恥ずかしいこと出来ないよね。社会人にもなってパパにおうちを買って貰うなんて…私だったら恥ずかしくて死ぬわ」

 シーン…。
 やはり図星だったか。

 適当に嘘でも吐いておきゃいいのに、そんな遠い目をしたらバレるっつうの。でもまあ、ある意味隠し事が出来ないのは利点だと好意的に解釈してあげよう。

「い、いや、そんなことより早速本題に入ろうじゃないか。コトリもさあ、俺を逃したらもう次は無いだろ。…だからさ、いいぜ」

 きっとこの時の私の表情は、過去最高にドラマティックで劇画調だったはず。

「なに…を…?」
「ごめ~ん、分かり難い言い方をしちゃったか。俺、コトリと結婚してやってもいいぜ」

 は?はあ?はあああっ??
 もう一丁オマケに、はああああっ??

 あまりにも驚き過ぎて、クシャミが出た。

「ハクショオッ!!」
「あはは、コトリ~お前ってば顔は可愛いのに。そんなオッサンみたいなクシャミはダメだぞォ」

 おいこら、自分だけ勝手にカップル成立モードに突入して甘ったるい喋り方をするなッ。ちょ、やだ、手とか繋ごうとしないでよッ。

 一方的に繋がれた手は、そのまま引っ張られた。急に光貴が立ち上がり、私も一緒に立たせようとしたからだ。

「な、何?そんなに引っ張ったら痛いんだけど」
「取り敢えず俺の部屋へ行こうか。だってほらアッチの相性も知っておきたいから」

「アッチって…」
「分かってるクセに~。お前の好きなアレだよ」

 私は再び劇画調で呟く。

「なに…を…?」
「ふふふ」

 だから何度も言うように、家庭問題のせいで一時期荒んだ生活をしており。当時はとにかく男と遊びまくった。高校生であるにも関わらず、クラブに通いつめ、一晩限りの関係なんてしょっちゅうで。

 大学生になるとそれがもっと大っぴらになり、平気で仲間内の男友だちともノリで一晩過ごすなんてザラだったのである。

 でも、もう改心したから。

 今の私はオシドリの如く…ん?いや、オシドリって本当は仲が悪いんですってね。むしろあの黒くて気味の悪いカラスの方が夫婦仲が良いと。

 一度ツガイになるとその相手は一生変えないらしいよ。子育ても一緒に頑張るんだって。常にパートナーを気遣い、相手に危険が及ぶと飛んで来るんだって。いいよね、そういう関係。

 …てなことを熱弁してみたが、如何せん、共用スペースということもあり、周囲にポツポツと点在している人に聞こえないよう小声で言ったため説得力に欠けたらしい。

「は?なに言ってんの、お前」
「ぐっ」

 この男にそんなハートフルな話は通じなかった。しかも、予想外に腕力が強くて。グイグイと私をエレベーターに乗せ、逃げさせてくれない。

『助けて』と叫んでも、どうせどこもかしこも防音になっていて、誰も出て来ないことは予測出来た。中林コトリ、絶体絶命のピンチである。

 最上階の角部屋のドアを手際よく開けて、光貴は私の肩を握り潰しそうなほど力強く押し出し、強引に部屋の中へと放り入れる。

「…し、しない。そういうのもうヤメたの!」
「は?嘘吐け、このビッチが。お前さあ、なんでヨシキとか翔平にはヤラせたクセに俺にはさせてくんなかったワケ?俺、すっごく傷ついたんだぞ」

 気付けよ。
 お前のことが大嫌いだったからだって。

 しかし、そんなことを正直に言おうものなら、あの包丁振り回しハゲ親父の息子だ。猛り狂って何をされるか分かったものでは無い。ここは穏便に、そっと丁寧に対処しなくては。

「あの…ごめん。何と言うか、私…」
「ああ、でもいいんだ。だって、本当は好きだったんだろう?俺のこと。気を惹きたかったんだよな?だからこうして父親経由で結婚話を…」

 およよ??なんだその神がかったまでのポジティブ思考は。

 これは何もかも鼻息親父が勝手に決めたことで、しかも光貴を選んだのは『跡取りじゃない方が気楽』とかいうクソみたいな理由なのに。

 ダメだ、もうストレートに伝えるしかない。
 そう決心した私は勇気を振り絞って言う。

「あの、私、光貴と結婚する気は全然無いの。父親が暴走して勝手にこの話を進めたんだよ。ていうか、これっぽっちも好きじゃないし。ていうか、むしろ大嫌い?ごめんね、生理的にムリなのッ」

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