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お試し期間に突入
しおりを挟む「コトリさんの父親は、お金も名誉も有り過ぎたから、愛人なんか囲えちゃったんですよ。しかも娘が苦しんでいたのを知っていたクセに世間体を気にして何も解決しようとせず、膿を強引に封じ込めた。…違いますか?」
「ち、違わない」
「俺、愛人を作れるような甲斐性は無いですし。いや、それ以前にコトリさん以外の女に時間を使うこと自体、無駄だと思うんだなあ。…だって、コトリさん以上に素晴らしい女性はどこを探してもきっといないから」
「でも、私はっ、…その、誰とでも寝てたような女で…だから、何ていうか…嫌じゃないの?き、汚いとか考えたりしない…の…かな?」
ボンッと勢いよく自分の胸を拳で叩き、浦くんは満面の笑みで答えるのだ。
「全然。だって、俺に会う前の話でしょ?あ、もちろん俺と付き合ってからはダメですよ。他の男となんて手を繋ぐだけでも怒りますから。
…でも、過去は変えられないから。俺が付き合いたいのは、過去のコトリさんじゃなくて現在のコトリさんだから、いいんです」
一瞬、息が止まりそうになった。
ああ、もう。ずっと欲しかった言葉をこんな浴びせるようにくれるなんて。いったい何なのこの男ッ。
よくよく考えたら、今迄まともな恋愛をしたことが無かったワケで。尊敬出来るという理由だけで富樫先生に付きまとったり、榮太郎様に迫ってみたりもしたけど。あれは多分、恋では無かった。だからこそ私は真剣に悩むのだ。
全力で私のことを好きだと言ってくれる浦くんの為にも、全力で答えを出さなければ。確かに私は浦くんのことが好きだ。でもこの『好き』がそういう『好き』なのかは全然まったく分からないのである。
榮太郎様の前でだけ急に可愛くなる茉莉子さんとか、新見店長のことを話す時の切なげなアヤさんの表情とか。とにかくあんな症状が1つも出ないという事は、私は浦くんに恋をしていないような気がする。
そう素直に伝えると、クシャミを1つした後にスンスンと鼻を啜りながら彼はこう提案した。
「いいですよ、試用期間ということで」
「試用期間??」
「うん、無期限で俺を試してみてくださいよ。隅々まで使い倒して性能を確かめてみるといい」
「性能…」
脳内でエロい妄想を広げてしまう私は、やはり爛れているのだろうか?
いやいや、だってこの男、全裸だし。
NOと言ってもYESと言っても酷い女のような気がして口元をキュッと引き締めると、その唇をそっと親指でなぞりながら浦くんは微笑む。
「さあ、スタート」
…何を始めるの?なんて訊けるワケも無く。心地良いその指が唇から離れ、胸元へと移る。
「普通、男は自分勝手に快楽を求めて一方的に女を抱くけど、俺は違う。貴女に教えを乞いながら、その望み通りに動くんです。
…ね?どうしたら気持ちいいか言って。俺をコトリさん好みに育ててみてよ」
もう抵抗する気力を失ったのは、その甘い誘い文句のせいだけでは無い。私を見つめるその瞳が、あまりにも熱いから。そう、恋する男の顔をしていたから。
「ん…、浦くん、もっと…もっとキスして」
「コトリさん…好きだ、もうメチャクチャ好き」
「あん、お願い、もっと、ねえ、もっと」
「う、ああああっ、ヤバイ、もう最高だ」
…浦くんの元カノが嘘吐きだったのか、それとも私たちの相性がピッタリだったのか、そこんとこはよく分からないけれども。
「やだ、もう、ダメ…んっ、んん、や、やだァ」
「無理、もう止まらない、ヤバイ、気持ちいい」
「ダメ、ダメ、や、ああッ」
「俺も…う、…あッ」
「ゼエゼエ、う、浦くん、もう寝ないと私たち2人とも明日は仕事なんだしさっ」
「ハァハァ、ええ、睡眠は大事ですからね」
「……(チラチラ)」
「……(モジモジ)」
「えと、やっぱりあと1回だけ頑張っちゃう?」
「お、俺も今ソレを言おうと思ってたとこです」
1回してしまえば、10回も100回も同じだ。そんなワケで、なんとなく勢いに呑み込まれたというか、恋する瞳と性欲に負けたというか。とにかく私たちは、お試し期間に突入したのである。
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