たぶん愛は世界を救う

ももくり

文字の大きさ
9 / 45

私の過去⑥

しおりを挟む
 
 
「俺な、4つ上の兄がいて。…いや、もう『いた』って過去形になるがな。これがメチャクチャ優秀だったんだよ。一流の大学を出て、証券会社に就職してさあ。

 対する俺はいつも兄貴と比較されて、たたでさえダメ人間だったのがその反発心からもっとダメダメになっちゃって。遊び歩いて高校も出席日数ギリギリになって、親にメッチャ叱られた挙句ヤケクソで二流の大学に入ったってワケ。

 まあ、大学に入ってからも遊んだねー。あっちフラフラこっちフラフラ。そうこうしているうちに、親から電話が有ってさ。

 兄貴が死んだんだと。

 知ってるか?証券会社も結構エグイらしくて、ノルマとか結構厳しいらしいんだわ。達成しないと上司から罵声の嵐で、『死ね』や『役立たず』は挨拶代わりだとさ。まあ、全部の証券会社がそんなはず無いけど、兄貴の会社ではそうだったらしい。何時間も正座を命じられたリ、土下座したりな。

 そんな毎日だったってさ。

 たぶん俺だったら心ン中で舌を出して、『いつか見返してやる』って思っただろうなあ。それかもしくはスグに転職を決意する。だけど兄貴は今まで生きて来たなかで、挫折っつうもんを知らなかったんだよ。常に称賛され、敬われ、順風満帆の人生で。苦労知らずがモロ顔に出ててさあ、それがきっと上司にはムカついたのかもな。

 残業疲れで駅のホームでフラつき、そのまま電車に轢かれて死んだんだけどさ、俺はたぶん自殺じゃないかと思ってる。親には見せてないんだけどな、兄貴のパソコンの中に日記みたいなファイルが有って、そこに延々と愚痴が吐き出されてたんだよ。

>自分ばかりに辛く当たる理由が分からない。
>何故こんなに憎まれているのだろうか?
>いったい自分はどう変わればいいと言うのか。

『なぜ、どうして』その言葉で埋め尽くされて、結論はどこにも出ていなかった。

 まあ、それで俺も人並みに考えてみたワケだ。たぶん理由なんて些細なことだったんだろうな。それを兄貴が真剣に受け止め過ぎちゃっただけ。

 こう言っちゃなんだけど、兄貴が死んでも別にその上司は屁とも思って無い様子だったし、残念だけど兄貴の死に損だったんだよなあ。

 いいか、中林。物事なんて自分の受け止め方次第で、180度変わってしまうんだ。我慢ばかりしていても何も改善しない。自分のために、自分で闘わないと。

 お前はこれからもっと強くなれ!」


「うっ、ぐ、ひっ…く…」


 返事は嗚咽に遮られ、それでも意思を伝える為、私は先生の腕を力いっぱい握って何度も頷く。こんなに泣けるんだ?と自分でも感心するほど後から後から涙が溢れて止まらない。

 そう、これは解放の儀式だ。

 私はずっと感情を殺していた。…親友からの悪意や、その他大勢の誹謗中傷、継母による際限がない嫌がらせ。そんなものから身を守ろうと自分で自分を殺し、何も感じないよう暗示を掛けていたのである。

 全ての非は自分に有ると思い込み、罪を背負って殻に閉じ籠ることを選んだのに。お前は何も悪くないよって、だから堂々と殻から出ておいでって。

 そんな風に言われている気がしたのだ。

>この人と一緒にいれば自分は変われる。
>この人がいれば自分はもっと成長出来る。

 とにかく私は富樫先生に心酔し、その行動は暴走し始めた。

 高木くんにはすぐ別れを告げ、残り僅かな期間を少しでも一緒に過ごそうと人目も憚らず先生に纏わりつき。強引に自宅アパートまで押し掛け、拒絶されても平気で通い続けた挙句、先生を窮地に追い込んでしまう。

 後で聞いたところ、安藤さんを担ぎ出せたのは富樫先生が学校での立場が悪くなることを承知の上で、ウチの父に直談判してくれたお陰らしく。

 そんな異分子的な存在の男が、問題の女生徒と個人的に会ったりすれば処分の対象となるのは当然で。しかも、父の耳に入れば社会的に制裁を下されるのは間違い無かったのに。

 教育実習は3日を残して突然打ち切られ、慌てて向かった先生のアパートはもぬけの殻。

 ドアに私宛ての手紙が1枚だけ挟んで有った。

>気にすんな、前にも言ったと思うけど、
>俺はもともと教師には向いてない。

>早くイイ女になれよ!
>そしたら付き合ってやってもいいぞ。

 ようやく見つけた私の神様は、こうして風のように姿を消した。

 …『さよなら』も告げずに。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...