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~ファンタジー異世界旅館探訪~

【第1章】第4話「ファーンラント・アルヴァー」(4)

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 ジャウードに致命傷は与えたが首を完全には落としていない。
 油断せず魔獣デモナビーストの魔力の霧散を確認した。
 戦いが終わると流石のアルヴァーも疲労の色が濃かった。

『今回は、魔水マギアクヴォの特性に助けられた。短握杖SGワンドがあれ程の短時間で充填出来なければ負けていたかもしれんな』

 左手の指に挟んだ2本の短握杖SGワンドは、両方とも水晶体に亀裂が入っていた。
 水中で強引に並列使用した為に破損したようだ。

 ショートソードに付いた血糊を川水ですすぐと、それだけで魔溝マギフェンドが魔力を吸収し使用可能状態になる。

 アルヴァーは、最後の短握杖SGワンドを水中から拾い、水晶体に僅かな魔力を流した。
 予想通り魔力が反発するのを感じると、腰のベルトに戻した。

「考察通り、高純度の魔水マギアクヴォが短時間で希釈された為、魔力伝導率が高くなっているようだ。短時間で魔力を獲得した液体が媒体となって魔力の均一化を促進した結果だが……」

 長考に陥りそうだったアルヴァーだったが、思考を切り替え行動を起こす。

『ジャウードの亡骸なきがらには、それなりの価値がある。何より詳しく検分すれば研究も進むが……ここに放置するしかないな』

 周辺を見回すと安全な場所に移動し地図を取り出す。

『暗くなる前に森を抜けたいが、警戒しながらとなると難しいか……』

 川沿いに下るルートを指でなぞり改めて確認する。
 魔獣デモナビーストは魔力を好む習性がある為、遭遇率が高くなる。
 1本の短握杖SGワンドしかない状況では危険だった。

『確実とは言えないが、来たルートを戻るのが安全だろう。問題は水だが……』

 ここで、アルヴァーは思考を中断せざるを得なかった。
 先ほど倒したジャウードと同じ気配を感じたからだ。
 今日、何度目かの魔力感知の集中に入る。

『……対岸の比較的離れた位置に居るが此方に近づいてくる……んっ!?』

 唐突にジャウードの気配が消え、同時に魔力が霧散するのを感知する。

『倒された? だが倒した相手は……駄目だ感知出来ない』

 魔法攻撃なら魔力感知は出来る。攻撃時に魔力が変質し特殊な波動を発するからだ。
 今回は何者かが自身の魔力を隠蔽して物理的に仕留めたのだ。
 アルヴァーは地図の空白部分の最後に書き込んだ考察を見つめた。
 そこには【結界の綻びの可能性。ファーンラントの結界との酷似こくじ】とあった。

『アールヴの集落がこんな所にあるのか? いや他種族の可能性もある……先程の戦闘でこちらの存在を認識された可能性が高いが……』

 暫く間、警戒していたが向こうからの接触は無かった。

『妙だが、隠された何かが有るのは間違いないようだ』

 アルヴァーは暫し考えた後、対岸へ渡る為に中州へ移動した。

『これからもこの森で活動すれば、相手と接触する可能性が高まる。今なら何らかの痕跡が残っているだろう。……少々危険だが』

 浅瀬を選んで川を渡り中州に上陸する寸前、アルヴァーはさらに濡れるのも構わずにしゃがみ込んだ。
 中州に踏み込んだ何者かの足跡の痕跡を発見したのだ。
 痕跡を消さないように詳しく調べ始めた。

『ここが泥炭状になっているから痕跡を発見できた。間違いなくブーツの痕跡だが、サイズが小さいな』

 中洲に上陸すると腹這いに近い体勢でさらに痕跡を辿る。

『足のサイズと歩幅から身長は低い。が、足場が悪いにも関わらず歩幅はほぼ安定している。歩き慣れているか、元々が身軽かだが……』

 最後に中州にある大きめの岩の上を確認する。

『岩の上に、ほぼ助走無しで飛び移った形跡がある。子供かと思ったが普通の人間には出来ない動きだ。さらに爪先に体重を乗せる独特の足運び。これ等の特徴から子供ではなく猫妖精ケットシーの成人の足跡だな』

 アルヴァーは、結論に達すると相手側との接触を図る事に決めた。

 猫妖精ケットシーは、比較的最近になって交易都市ミラーレに姿を見せるようになった種族で、成人でも人間の子供程度の身長だ。
 隊商キャラバンを組んで遠方からやって来て、友好的な振る舞いが得意だが警戒心も強く交渉が上手い。
 内在魔力は高いが使いこなせる者は少なく、身軽だが腕力には劣るので、傭兵組合メルセオクリーゾからも護衛を多く雇っている。

猫妖精ケットシーの魔法技術は高くない筈だ。ミラーレでの取引も主に魔道具マギアイルロゥの買付けと聞くし、ここには取引に訪れたとすると辻褄つじつまは合うか……』

 猫妖精ケットシーの形跡を入念に辿り移動先を探っていく。

『先程の魔獣デモナビーストは、猫妖精ケットシーの雇った傭兵か取引相手側が倒したか……。この場所はおおやけになっていないだけで、密かにミラーレと交流があると考えるのが自然だろうな』

 アルヴァーは、そう考え森の奥へと歩みを進めた。
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