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第一章 大晦日の出会い
02 幼馴染みのゆき
しおりを挟むゆきとは所詮、お隣さんという間柄だ。
特に母親同士の仲がよくて、それこそ幼稚園の頃から兄妹のように一緒に育ってきた。だから、俺たちは互いのことを称するとき、幼馴染みと言っている。
好きなものも嫌いなものも。得意なことも苦手なことも。お互いに知らないことの方が少ないくらいの長い付き合いで、それは高校生になっても変わらなかった。
一応、年頃の男女だし、そもそも俺とゆきでは学年がひとつ違う。だんだんと疎遠にでもなりそうなものだったが、中学の頃は偶然にも委員会が同じで顔を合わせる機会は普通にあったし、高校生になってからは同じ部活動に所属していたのもあって、俺もゆきも相変わらずの距離感だった。
「私、来年が前厄なんだよ~! だから、茅の輪くぐりをしておきたくて」
不満ですとばかりに、唇を尖らせながらゆきは言った。
そういえば、女性の厄年は早いんだっけな。
きゅ、きゅ、と雪を踏みつけながら楽しそうに前を歩くゆきのせいで覚えた知識が、ふいに俺の頭の中に浮きあがってくる。
ゆきは来年の四月で高校二年生になる。六月の誕生日を迎えれば十七歳だけれど、数え年ならば十八歳だ。そして、女性の一番最初に訪れる本厄は数え年で十九歳。なるほど確かに彼女の言う通り、来年の彼女は前厄に当てはまる。
今日は大晦日だから、神社では年越の祓がある。大きく口を開けて待っているだろう茅の輪を八の字に三回くぐりぬけて、これまでの厄を祓う行事だ。その茅の輪くぐりがゆきの目的らしい。
ゆきが行きたがる理由の納得はした。したのだが。
「……それ、今年にやって意味あるか?」
数え年は新年を迎えることでひとつ増える。つまりまだ十二月が終わっていない現在、ゆきの数え年はまだ十六だ。前厄を祓うという目的ならば、一日早いのではないかと思う。
そもそも前厄だの本厄だのとわざわざ数え年と一緒にピックアップされて、さらに神職にわざわざ払ってもらうその厄が、茅の輪くぐりでなんとかなるのか。
純粋な疑問符は、わざとらしく拗ねたゆきに打ち返された。
「あるよ! まあ、確かに広瀬の言う通り前厄は祓えないだろうけど、それまでの余計なものを祓いに行くの!」
つまり、前厄とかいう重たいものを背負う前に、細々した厄だの穢れだのを一度落として綺麗さっぱりしたいというのが、改めて俺が確かめたゆきの主張のようだった。相変わらず俺にはない思いつきだ。
「……とりあえず今度から直接うちに来るんじゃなくて、先にメッセージを一言送ってからうちに来い」
「えー。直接広瀬の家に行った方が早いじゃん」
そういう問題じゃないのだが。ふるり、と体を震わせるゆきを見ながら、俺はマフラーの下で唇をへの字に曲げた。
さて。ゆきが目的地に選んだ神社は、朝凪神社という地元の大きな神社だった。
敷地も建物も大きなその場所は、俺たちの通う高校への通学路となっている大通りを抜けた先にある。学校が近いこと、何よりその神社が学業成就や必勝祈願を掲げているためか、受験シーズンや高体連が近くなるとより人で賑やかになる場所だ。
俺やゆきの家から大通りの道に出るには、傾斜がゆるいが遠回りになる坂道を下るか、傾斜はきついが近道になる階段を下るかのどちらかを選ぶ必要があった。急がば回れとはよく言うけれど、車通りが多いわ歩道は狭いわで、結局雪が降ろうが雨が降ろうがまかり間違って槍が降ろうとも俺たち二人が選ぶのは絶対に階段の方になる。両側にある手すりにはこんもりと雪が積もって、積雪量を俺たちにわかりやすく教えてくれていた。
手袋越しに手すりを掴み、一歩一歩を恐る恐ると踏みしめるゆきが誤って足を滑らせないように、俺は反対側の手を握って降りるのを支えてやる。
階段を下り終わってすぐのところで、俺は見慣れた顔を発見した。
「あ。広瀬、待ってたよ」
出たな、と思った。
そんな俺の内心を見透かすみたいに、そいつはキツネみたいな目をさらに細くして笑った。
我妻伸也。クラスメイトで、同じ部活仲間。
俺にとっての、厄とまでは言わない。
けれど正直な話。俺は、こいつが苦手だった。
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