神様なんていない

浅倉あける

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誰かの独白

きみの答えを

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 私の目には、夏の終わりが見えている。

 落としてしまったスマートフォンの画面のようなひび割れが、放課後を迎えてもまだ青さを残す空に大きく広がっている。空を覆うような蜘蛛の巣というよりは、スケールの大きいステンドグラスのように見えるそれは、世界を覆う季節の殻だ。
 残暑はまだ私たちに纏わりついている。けれどあの空が割れて、透明なガラスの欠片がゆっくりと地上に降り注いだのなら、ぬるく重たい夏の風も徐々に涼やかなものへと変わり、そわそわとしていた木々たちが慌ただしく舞踏会のドレスを選び始めるのだろう。

 立ち尽くすは屋上。普段誰も立ち入ることのないこの場所に、私と二人ぼっちであの子は向き合ってくれていた。
 苦しそうに細められた瞳は困惑を波立たせ、ゆらゆらと水面のように揺らめいていた。けれど決して目を逸らさない水底に、私は宝石のような眩い光を見る。
 あの子は、私を前に言い切った。

「……神様なんていない」

 世界がじわじわと斜めに傾く。強くもないはずの風が耳元でごおごおと唸る。学校のチャイムの音が、壊れたスピーカーと一緒にぐにゃりと歪んで、ぐわんぐわんと世界に反響する。
 私の身体の中に出来た洞の中に、それらはいっきに詰め込まれてしまう。

 ――ああ、ああ。それでも。それでも私は。

「だって――」

 たくさんの変化があった。
 たくさんの生き様があった。
 それから、たくさんの祈りがあった。
 それらの全てが腹の底から憎らしくて、けれど同時に狂おしいほど愛おしかった。

(……だからこそ、私は)

 あの子が最後に見せた、たったひとつの表情と答えを。
 私に与えられた、最後の夏を。

 私の人生を。

 ――この輪郭が朽ちようとも、絶対に忘れない。
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