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可愛くなりたかった

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可愛い女の子になりたかった。

そうしたら彼は私を異性として見てくれるから。
ゲームばかりして男友達の様に貴方に接してしまう私には、不可能に近い話ではあるけれども。

今更になって化粧とかダイエットとかおしゃれとか頑張っちゃってバカみたい。
髪とかも染めて色気づいてバカみたい。

「最近可愛くなったね」

貴方はそう言葉をかけてきた。
その言葉で舞い上がってしまう私は、単純で呆れるほどにバカだ。

「突然どうしたの?」

笑って私は彼といつも通り話をする。
どうして「ありがとう」って言えないのだろうか?ここで素直になれない私が嫌いだ。

「今日時間ある?」
「帰って推しのイベント走るから無いかな」

ここであるよって言えたら良いのに、私の口は本能が優先してしまった。
彼はそう言うと悩んでいる。
いつもなら「そっか、頑張れよ応援してる」くらいで終わるはずなのに。

「じゃあ俺も一緒にイベント走るわ」
「…このゲーム興味ないんじゃなかったの?イケメンアイドル育成より俺は、美少女アイドルを育成するって言って無かった?」
「別に…興味が湧いただけだし…?」

こちらを先程まで見ていた視線は何処を見ているのか分からない。
とりあえずゲームを起動して推しイベを走るためにとりあえず一人の諭吉さんを生贄にした。

「あのねぇ、そこまでして私と一緒にゲームしたいって…今までして無かったでしょう?何か企んでることでもあるの?」
「何も企んでないけど、別に一緒に遊びたいだけ」

貴方の耳が少しだけ、赤くなっている気がしたけど見間違いだと思った。
そんな顔見た事ないから驚いた。
どうして貴方に対して片思いしている時の私のような表情をしているのだろう?

「ほーう?まぁ、良いけどさ」

私がそう言うと彼は嬉しかったのか声を出して喜んでいた。
それを見て私は、少しだけ面白くて小さく笑ってしまった。

だけどどこでゲームするのだろうか?

「通話でいい?」
「俺の部屋来れば?」

私は目を見開いて彼を見た。

「お前彼女とかいないの?」
「いたらお前の事誘ってないけども」

それはそうなのだが、付き合ってもいない男女が部屋で2人っきりになる状態はよろしくないのではと思っているが…まぁ今まで友達としてしか接してないしそういう漫画みたいな展開にはならないだろうと思って承諾した。

彼の部屋は大量のゲーム機とソフト、漫画が並べらていた。
私はそれに「おお!」興奮気味に見ていた。

「これ、幻の初回生産版…!!」
「これが分かるってお前相当出来る奴だな…やっぱり誘って正解だった」

とりあえず適当に床に座ってゲームをする。
ガチャを200回して完凸させた推しは達成感をくれるけどイベントを走ってやっと私の心は満たされる。
この時間だけは女の子らしさとか好きな人が隣にいるっていう緊張感を忘れることが出来る。

「ボーナスありでこれなら…今回はもう1万入れれば…イケる!」
「本当に好きなものにはためらいなくお金入れるよな」
「何か文句でも?」

それはそれは可愛い顔では無かった。
それどころか鬼みたいな顔をしていたに違いない、これで私の恋が終わったらそれは完全に私が悪い。

「ないって」
「それならよろしい、私と遊びたいならさっさとチュートリアル終わらせてランクを10になさいな」
「分かってるけどさ…ここが結構難しいから終わらないんだよ」

そう言って彼はスマホの画面を見せてきた。
確かにここは、ただ適当に編成して何とかなるレベルではない。

「これはね…」

私は立ち上がって彼に近づいた。
彼の画面を見ると編成はやはり適当だった。

「属性があるから…これとかっ…?!」

画面を触ろうとしたときに私の思考は一気に現実に引き戻された。
彼の指に自分の指が当たってしまったからだ。
それに近い…!私から近づいてしまった…?!

「ごめんっ!今、離れるから…?!」

慌てて離れようとしたら足がもつれてかれの胸に飛び込む形になってしまった。
もうそのせいで頭はパニック状態でジタバタと暴れる。

「お、落ち着け!!」
「この状況で落ち着ける人がいるかっ…だって…好きな…あ」

私は自分で言った言葉でサーっと血の気が引いて頭が冴えていく。
これって告白しているも同然なのではないだろうか?
今まで友達でいた異性(私)がそういう目で彼を見ていたと、下心があったということを知られてしまう。
せっかく今まで楽しくゲームとかしていい関係を築けていたのにこんな形で私から壊すようなこと…。

「今のは…?」
「忘れて!私、帰る!」

もう彼と遊べない。
寂しさもあるけれど、私はこの場から離れたくて身支度を済ませる。
イベントはオート周回を選択して歩き出す。

「話はまだ終わってないから帰んないで」

捕まれた腕を振りほどく事は出来る。
彼の力は壊れ物を触るように優しかったからだ。

「口すべらせて何言うかと思えば、もう少しムードとか考えろよ」
「言うつもり無かったし…だから忘れてって言ってんじゃん」
「で、いつちゃんと言うつもりだったの?」

私はうつむいて小さな声で彼の問いに返答した。

「言うつもりは無かった…これは本当、です」
「ふーん…そりゃ言ってくれてありがとうな」
「これからも友達でいてくれる…?」

恐る恐る彼に聞くと、きょとんと彼は首を傾げている。
私は予想外の彼の行動に目を丸くした。

「友達に戻れると…?」
「だよね…今まで仲良くしてくれてありがとう…」
「なんか勘違いしてない?むしろこれからよろしくって感じなのに俺?」
「は?」

意味が分からなくて私は、低い声で「は?」って言葉が出てしまった。

「いやーにしても、俺から言いたかった…悔しい」
「へ?あ、あの…?」
「少しづつ仲良くなれたのは良いけど、ゲーム友達という関係からどーも抜け出せないというか躊躇があったんだよね」

良かった良かったと嬉しそうに彼は言った。

「これからは恋人同士でゲーム一緒に出来るじゃん」
「は…え?!それってつまり…」
「両想いってことだろ?」

私の恋や努力は予想外に実ったのです。
恋人になった後の事だが、私はフッ切れて彼を巻き込み夜通し推しのイベントを走って、ランキングが5本の指に入ったのはまた別の話である。
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