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第七章 天竜国編

第23話 宝の湯

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 いつにない史郎の奮闘で、宝物庫改め湯殿は着々と仕上がっていった。

 まず、宝の部屋にある宝物を全て点収納に入れ、ゆりかごの部屋に移した。
 そして、いよいよ、部屋の改造にとりかかる。
 部屋の2/3を浴槽、残りを洗い場とする。なぜかここの床には土魔術が効かなかったので、浴槽は点魔法で作った。
 浴槽の縁は角を取ってある。

 温泉水が出るアーティファクトは100程もあったので、そのうち10個を使う。浴槽にお湯を入れるのに5個を使い、残りはシャワー用とした。
 シャワー用のアーティファクトは、壁のいろいろな高さに埋めこんであり、竜の成長に合わせて使えるようになっている。
 俺が「宝の湯」と名づけた湯殿は、ほんの三日ほどで完成した。

 大まかなところは、3時間ほどでできていたのだが、俺が細部にこだわったため、完成が遅れたのだ。今日は、いよいよ竜王様へのお披露目である。

『ふむ。
 お主がなぜこのようなものにこだわったか分からぬが、とりあえず入ってみるか』

 俺は、竜王様に、壁にはめこんだアーティファクトを使って体の汚れを落とすよう勧めた。
 竜王様は、身体を魔術で守っているから汚れてなどいないのだが、将来生まれてくる真竜達に入浴の仕方を教えることになるからね。
 浴室には、やや少な目に湯を張ったのだが、彼の巨体が入ると、かなりの量があふれてしまった。

『おー、なんじゃこの感覚は! 
 いままで味おうたことがないぞ』

 どうやら、気に入ってもらえたようだ。

『体のこわばりが解けていくようじゃ。
 これはよいの~』

 どうやら、骨の身体にも温泉は効いたようだ。

『この香りはなんじゃ、よい香りじゃの』

「それは、竜人の国で採れるスラミという果物です」

 スラミは、ミカンに似た果物で、味と食感がイマイチなので、食べるのには向かない。しかし、湯に浮かべると、その皮に含まれた油が素晴らしい芳香を放つのだ。

『(´з`) ご主人様は、こんなものばかり探してるんだよねー』

 まあ、点ちゃんはそう言うけど、これってあると無いとじゃ、大違いなんだよ。

『(・ω・)ノ 冒険者としての仕事にこそ、そのくらいこだわった方がいいんじゃないですか?』

 いや、そう言われると、返す言葉もございません。


 竜王様が満足された後、せっかくだから俺達も入浴することにした。
 お湯が溢れてかなり減っていたが、浴槽は竜用に深く作ってある。お湯の深さは俺達にちょうど良いくらいだ。浴槽の内と外には、人族用のステップもきちんと作っておいた。
 その日、たまたま真竜廟を訪れていた天竜の長も誘って入浴する。

 すでに水着を作っている俺、ルル、ナル、メル、コルナ、ミミ、ポルは、それを着て入浴する。水着が無い、リーヴァスさん、コリーダ、イオと天竜の長は、体に布を巻いてもらった。これはポンポコ商会で服を仕立てようと用意していた生地だ。

「うは~、なんか普通のお湯よりいいです」

 ポルがさっそく気持ちよさそうな声を出す。

「うミャ~」

 ミミが猫モードになっている。

「うーむ、こうなると酒が呑みたいですな」

 リーヴァスさんが言ったので、「フェアリスの涙」をグラスに入れて出す。湯に浮かべた断熱性のお盆に載せ、水魔術で冷やしたコップに入れてある。

「なんと、これは至れり尽くせりですなあ」

 あまり見ないご満悦顔のリーヴァスさんだ。

 コップはもう一つ用意してあり、こちらは天竜の長用だ。

「なるほど、これを飲むんですな……。
 な、なんですか、この酒は!」

 さすが幻の銘酒だ、天竜すら感動させるとは。

 ナル、メルは、イオに泳ぎを教えている。イオは、泳ぎにくいからだろう、布を脱いでしまっている。まあ、湯気で見えないからいいけど。

 ルルとコルナはコリーダを浴槽の角に追いつめていた。

「な、何をするの?」

 コリーダが怯えたように言う。

「フフフ、その膨らみが本物かどうか確かめるのよ」

 コルナの悪い声が聞こえる。彼女は相変わらず、紺色のワンピースで胸の所に「こるな ちゃん」と書いた白い布を貼っている。
 この前、バカンス島で泳いだ時に注意すべきだったがもう遅い。

「これは、とても大切なことです」

 ルルのきっぱりした声が聞こえる。

「や、やめて。
 どうしてそんなことを……」

 どうやら、コリーダは着やせするらしく、その大きな胸がコルナとルルの興味を引いたようだ。そのまま聞いていると、俺の身体が一部やばいことになりそうなので、風呂の反対側に行く。

「シロー殿、これほどのものを造られるとは、さすがじゃな」

 天竜の長が、褒めてくれる。
 点ちゃん、分かる人には分かるんだよ。

『(=ω=) やれやれ、どうしようもないご主人様だよねー』

 点ちゃんが話しかけているのは、二匹の猫だ。普通、猫は水が苦手なのだが、正体がスライムだからか、二匹はお腹を上に向け、お湯にぷかぷか浮かんでいる。とても気持ちよさそうだ。

 点ちゃんに俺以外の話し相手が出来たのは喜ばしいが、どうも点ちゃんは、俺に対する愚痴を二匹に話してることが多いみたいなんだ。
 早く何とかしないと、子猫から軽蔑されそうだ。そういえば、昨日コケットに横になったら、白猫が俺の顔の所に来て、肉球でぺしぺし頬を叩いていたっけ。
 もう、手遅れかもしれない。

 こうして、真竜廟では、忙しい中にもくつろぎのある毎日が過ぎていった。
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