270 / 607
第七章 天竜国編
第23話 宝の湯
しおりを挟むいつにない史郎の奮闘で、宝物庫改め湯殿は着々と仕上がっていった。
まず、宝の部屋にある宝物を全て点収納に入れ、ゆりかごの部屋に移した。
そして、いよいよ、部屋の改造にとりかかる。
部屋の2/3を浴槽、残りを洗い場とする。なぜかここの床には土魔術が効かなかったので、浴槽は点魔法で作った。
浴槽の縁は角を取ってある。
温泉水が出るアーティファクトは100程もあったので、そのうち10個を使う。浴槽にお湯を入れるのに5個を使い、残りはシャワー用とした。
シャワー用のアーティファクトは、壁のいろいろな高さに埋めこんであり、竜の成長に合わせて使えるようになっている。
俺が「宝の湯」と名づけた湯殿は、ほんの三日ほどで完成した。
大まかなところは、3時間ほどでできていたのだが、俺が細部にこだわったため、完成が遅れたのだ。今日は、いよいよ竜王様へのお披露目である。
『ふむ。
お主がなぜこのようなものにこだわったか分からぬが、とりあえず入ってみるか』
俺は、竜王様に、壁にはめこんだアーティファクトを使って体の汚れを落とすよう勧めた。
竜王様は、身体を魔術で守っているから汚れてなどいないのだが、将来生まれてくる真竜達に入浴の仕方を教えることになるからね。
浴室には、やや少な目に湯を張ったのだが、彼の巨体が入ると、かなりの量があふれてしまった。
『おー、なんじゃこの感覚は!
いままで味おうたことがないぞ』
どうやら、気に入ってもらえたようだ。
『体のこわばりが解けていくようじゃ。
これはよいの~』
どうやら、骨の身体にも温泉は効いたようだ。
『この香りはなんじゃ、よい香りじゃの』
「それは、竜人の国で採れるスラミという果物です」
スラミは、ミカンに似た果物で、味と食感がイマイチなので、食べるのには向かない。しかし、湯に浮かべると、その皮に含まれた油が素晴らしい芳香を放つのだ。
『(´з`) ご主人様は、こんなものばかり探してるんだよねー』
まあ、点ちゃんはそう言うけど、これってあると無いとじゃ、大違いなんだよ。
『(・ω・)ノ 冒険者としての仕事にこそ、そのくらいこだわった方がいいんじゃないですか?』
いや、そう言われると、返す言葉もございません。
竜王様が満足された後、せっかくだから俺達も入浴することにした。
お湯が溢れてかなり減っていたが、浴槽は竜用に深く作ってある。お湯の深さは俺達にちょうど良いくらいだ。浴槽の内と外には、人族用のステップもきちんと作っておいた。
その日、たまたま真竜廟を訪れていた天竜の長も誘って入浴する。
すでに水着を作っている俺、ルル、ナル、メル、コルナ、ミミ、ポルは、それを着て入浴する。水着が無い、リーヴァスさん、コリーダ、イオと天竜の長は、体に布を巻いてもらった。これはポンポコ商会で服を仕立てようと用意していた生地だ。
「うは~、なんか普通のお湯よりいいです」
ポルがさっそく気持ちよさそうな声を出す。
「うミャ~」
ミミが猫モードになっている。
「うーむ、こうなると酒が呑みたいですな」
リーヴァスさんが言ったので、「フェアリスの涙」をグラスに入れて出す。湯に浮かべた断熱性のお盆に載せ、水魔術で冷やしたコップに入れてある。
「なんと、これは至れり尽くせりですなあ」
あまり見ないご満悦顔のリーヴァスさんだ。
コップはもう一つ用意してあり、こちらは天竜の長用だ。
「なるほど、これを飲むんですな……。
な、なんですか、この酒は!」
さすが幻の銘酒だ、天竜すら感動させるとは。
ナル、メルは、イオに泳ぎを教えている。イオは、泳ぎにくいからだろう、布を脱いでしまっている。まあ、湯気で見えないからいいけど。
ルルとコルナはコリーダを浴槽の角に追いつめていた。
「な、何をするの?」
コリーダが怯えたように言う。
「フフフ、その膨らみが本物かどうか確かめるのよ」
コルナの悪い声が聞こえる。彼女は相変わらず、紺色のワンピースで胸の所に「こるな ちゃん」と書いた白い布を貼っている。
この前、バカンス島で泳いだ時に注意すべきだったがもう遅い。
「これは、とても大切なことです」
ルルのきっぱりした声が聞こえる。
「や、やめて。
どうしてそんなことを……」
どうやら、コリーダは着やせするらしく、その大きな胸がコルナとルルの興味を引いたようだ。そのまま聞いていると、俺の身体が一部やばいことになりそうなので、風呂の反対側に行く。
「シロー殿、これほどのものを造られるとは、さすがじゃな」
天竜の長が、褒めてくれる。
点ちゃん、分かる人には分かるんだよ。
『(=ω=) やれやれ、どうしようもないご主人様だよねー』
点ちゃんが話しかけているのは、二匹の猫だ。普通、猫は水が苦手なのだが、正体がスライムだからか、二匹はお腹を上に向け、お湯にぷかぷか浮かんでいる。とても気持ちよさそうだ。
点ちゃんに俺以外の話し相手が出来たのは喜ばしいが、どうも点ちゃんは、俺に対する愚痴を二匹に話してることが多いみたいなんだ。
早く何とかしないと、子猫から軽蔑されそうだ。そういえば、昨日コケットに横になったら、白猫が俺の顔の所に来て、肉球でぺしぺし頬を叩いていたっけ。
もう、手遅れかもしれない。
こうして、真竜廟では、忙しい中にもくつろぎのある毎日が過ぎていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
328
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる