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第七章 天竜国編
第17話 天竜国のダンジョン10
しおりを挟む史郎達の前に現れた、巨大な骨のドラゴンは、口を上に向け開くと、咆哮を放った。
グゥオオーンン
巨大な銅鑼の音のような声が、空間を振動させる。腹の底が震えるような音だ。
いくら何でも、これとは戦えないだろう。俺がそう思った瞬間、頭の中に声がした。
『試しの儀をおこなう者よ。
その勇気を讃えよう』
え? じゃ、戦わないで済むの?
俺の思考を読んだようにテレパシーが続く。
『我を倒すまで、この部屋からは出られぬ。
お主らが持つ全ての力を使い、我を倒して見せよ』
ええ、分かってましたよ。どうせそんなことになるって。
俺達は、リーヴァスさんの指示で、竜を取りかこむような陣形を取った。まだ本調子ではないミミは、俺の後ろにいる。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、キュンッて消しちゃわないの?』
簡単に言ってくれるね、点ちゃん。しかし、さっきこの竜が言ってた「試しの儀」という言葉が俺の予想通りなら、その戦い方はできないんだよね。
『(^ω^)ノ 分かったー、別の方法で倒そー』
この絶体絶命の状態で、相変わらず軽いな点ちゃんは。
しかし、その点ちゃんの軽さで、俺は至って冷静になれた。
巨大竜の身体をよく観察する。青く光る骨の部分は、どうみても攻撃が通りにくそうだ。そして肋骨の内部、本来心臓があるだろう場所には、ことさら強い光があった。
小さな太陽の様に見えるそれは、周期的に小さくなったり大きくなったりを繰りかえしている。
もしかすると……
俺は、全員に念話を飛ばし、作戦を伝える。
その間にも、ドラゴンは、首を後ろにぐっと引いている。何かの予備動作のようだ。
「ドラゴンブレスが来ますぞ!」
リーヴァスさんが、警戒を促す。
俺は、素早く全員の前に三層の点ちゃんシールドを展開した。
竜の首が、前に突きだされると、開いた口から、猛烈な炎がほとばしった。これに比べたら、「焼殺の魔道具」など線香花火に過ぎない。
直径1mは越える炎の柱が、部屋中を蹂躙する。
展開したシールドの二枚までが破られた。点ちゃんシールドが壊れたのは、これが初めてだ。
「ブレスは連続して打てない。
各自、隙を見て攻撃!」
リーヴァスさんのアドバイスが頼もしい。
俺は、各自のシールドを5枚に張りますと、少し下がって準備に入った。
その間にも、ドラゴンが振った骨の尻尾が、シールドを何層か叩き割る。
パーティメンバー各自が骨竜の尻尾や足に攻撃を加えているが、ほとんど効いていないようだ。しかし、これは俺達の作戦の一部だ。
俺はバイク型の点ちゃん4号を出すと、それにまたがる。手には、点魔法のシールドで作った長さ2mほどの馬上槍がある。
ドラゴンが吐く二発目のブレスを凌いだ俺達は、総攻撃に出る。ミミと俺を除く全員が攻撃を始めた。
ルルは、スリングショットで頭部を狙う。
コルナは、黒い霧を竜の頭部にかぶせ、視界を奪う。
ポルは、骨の尻尾を避けながら、足に攻撃を集中する。
リーヴァスさんが、見えないほどの速度で動きながら、同じく足を狙う。
巨大竜が一瞬ぐらつく。その巨体ゆえに、一度バランスを崩すと体勢を立てなおすのが難しい。それでも、骨のはねをばたつかせると、ドラゴンは浮いた方の足を無理やり地面に着けた。
今だ! 行くよ、点ちゃん。
『d(`^´)b ゴー!』
点バイクは、蹴飛ばされた様に走りはじめる。一瞬で竜の所まで走りきった。
重力付与で、バイクが空中に躍る。
俺が乗ったバイクは猛烈な勢いでドラゴンのあばら骨にぶつかった。
空中でバイクから離れた俺は、点魔法のランス(槍)を光る球に突き刺した。
思ったより硬い手応えから返ってくる衝撃に、ランスを手放しそうになる。俺は必死でランスの柄にしがみついた。
パリン
何かが割れるような音を立て、竜の心臓を成す光球は辺りに散った。
空中でバランスを崩した俺は、慌てて自分に重力付与を行う。ガラガラと崩れていく骨の上に静かに降りたつ。
「お兄ちゃん、また無茶をして!」
コルナはプンプン怒っている。
ルルは笑って俺とハイタッチした。
ポルは、「は~、怖かったー」と腰を抜かした形だ。ミミは、そのポルの頭を撫でている。
リーヴァスさんが、ぐっと俺の手を握った。
「やりましたな」
俺も、その手を握りかえす。
「なんとかなりましたね」
リーヴァスさんは、もう一方の手で、俺の肩をポンポンと叩いた。
「さて、いよいよですな」
数多くのダンジョンを踏破したリーヴァスさんは、これからの展開が予想できているらしい。再び骨の周りから遠ざかるように指示を出す。
俺達は、骨の山から少し離れた所に集まり、リーヴァスさんの後ろに控えた。
骨の山が、再び光りだした。
-----------------------------------------------------------------------
崩れおちていた骨は音を立てて組みあわさり、再び竜の形になった。
『挑戦者よ、見事であった』
骨の竜は、三度頭を下げる仕草をした。
『試しの儀を果たしたお主らに、報酬とお願いがある』
俺は、まずお願いの方を聞いておくことにした。
普通に声に出して話しかける。
「まず、お願いをうかがいましょう」
『この部屋の奥にある「ゆりかご」と神樹を解放して欲しい。
そして、真竜の子らを守って欲しい』
「守る?
あなた以上の守り手は、いないように思いますが」
俺は、当然の疑問をぶつけてみた。
『我はこの部屋から離れられん。
「ゆりかご」をこの部屋に出してほしいのじゃ』
「その「ゆりかご」とは、何です?」
『かつて、我ら古代竜が、多くの種族の標的となった時代があっての。
その時に、保護した子供達が入っておる』
「古代竜の卵が入っているんですね」
『そうじゃ。
種族維持に十分なだけの数がある』
「しかし、そんな数が一度にかえったら、俺達には世話ができないと思いますが」
『それはこちらでコントロールする。
子供達がこの山から外に出た後、保護してやってほしいのじゃ』
成程、そういうことか。
『我が、子供達の教育も行うようになっておる』
ああ、この広い空間は、古代竜の子供達にとって学校となるわけだね。
その風景を思いうかべた俺は、少し嬉しくなった。
「お子さん達が外の世界で生きるときのサポートは、こちらに当てがあります」
『外で子供達に与える食事の用意も、お主らを頼ることになるが大丈夫か?』
「一度に沢山の卵がかえらない限り、大丈夫です」
『我を倒したその力で子供達を守ってほしい。
くれぐれも頼むぞ』
「分かりました。
ところで、神樹様というのは?」
『おお、「ゆりかご」は神樹によって守られておってな。
「ゆりかご」をこちらの部屋に移すことにより、その役目から解放してもらいたいのじゃ』
「やり方は、ご存じなんですね?」
『ああ、お主らが協力してくれたら簡単じゃ』
「分かりました。
お引きうけしましょう」
『かたじけない。
以後、我の事は「竜王」と呼ぶがよい。
それが、生前の我が名であった』
「分かりました」
俺は、一人一人、仲間の名前を竜王に伝えた。
『シロー、リーヴァス、ルル、コルナ、ミミ、ポルナレフじゃな。
では、報酬についても話しておこう』
体調が優れなかったミミの目が輝く、報酬という言葉を聞いて、一気に元気になったようだ。
『もう一つの部屋には様々なものが置いてある。
人の身ならおそらく一生掛かっても使いきれぬであろう。
子供達の行く末に使うものを除き、全て好きなようにいたせ』
うーん、古代竜が成長する過程で何が必要になるか分からないから、実質宝物は使えないな。まあ、古代竜の子供達に役立つなら、それで構わない。
『宝物は、お主らの知らぬものも多かろう。
その時は遠慮なく我に尋ねよ』
「ありがとうございます」
『では、まず「ゆりかご」への扉を開けるぞ』
巨大な空間の奥に、縦横10mくらいの正方形の扉が現れた。その金色の扉が、こちら側に開きはじめる。
向こう側の空間から虹色の光が溢れだした。
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