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第七章 天竜国編
第13話 天竜国のダンジョン6
しおりを挟む史郎達は、階段を上がり、真竜廟の第三層に到達した。
この層は、第一層、第二層と、その様子が全く異なっていた。
通路も部屋も見られない。広々とした空間が広がっているのだ。
空間には、森の様な部分、草原の様な部分があり、小川すら流れていた。
魔術的に出来た空間であることは明らかだ。そうでなければ、これだけの広さを支柱無しに支えられるはずがない。
天井は高く、遥か上にあった。そして、その天井全体が光っている。
俺達は、しばらくそのあり得ない光景に見いっていた。
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「あれなんだろう」
ミミが何か見つけた様だ。
彼女が指さした方を見ると、草原の草陰から小さな毛皮が見える。背中の丸みから見ても、ウサギに似た魔獣だろう。よく見ると、すぐ近くにも何匹か同じ魔獣がいる。
顔が小さいのを除くと、やはりウサギに似ている。
その時、森の方から草がサササと波立った。
ウサギ型の魔獣がてんでに飛びはねだした。
その内の一匹が、草の上にひょいと出てきたまま、空中に上がっていく。
ウサギ型魔獣の身体は、巨大な蛇に咥えられていた。
「きゃっ!」
ルルが俺の背中に掴まる。
「ルル、大丈夫かい?」
生理的な嫌悪感はどうしようもないからね。
大蛇は身をひるがえすと、草の中に身を沈め、森の方向へ去った。草の動きで、そう推測されるだけなんだけどね。この草原をルルに歩かせるのは酷だな。
俺は足元に点ちゃんシールドを置くと、それを森の方へ伸ばした。シールドがある部分は、草が寝ているので蛇はいないと確認できる。これならルルも安心して歩けるだろう。
「シロー、これはさすがに甘やかせすぎではないでしょうか」
リーヴァスさんが、渋い顔をしている。
あれ? 俺、まだまだシールド使うつもりだったのに。
じゃ、しょうがないからこの辺にしとくか。
史郎達は、シールドでできたカーペットの上を、森に向かって歩きだした。
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森の木々は、史郎達が今まで一度も見たことが無い種類だった。
葉は円を二つくっつけたような形をしていた。木の幹も、光沢があり、つるつるしているように見える。
通常の森に比べ、やや木々が密であるように見える。
俺達は比較的木の間隔が広い場所を選び、森の中へ入っていった。
第三層に出てきた入り口の反対側に出口があると予想し、奥へと向かう。
森に入り10分ほどしたところで、点ちゃんから報告があった。
『(Pω・) ご主人様ー、さっきの蛇がついてきてるよ』
なるほど、やっぱりそうなるか。
点ちゃん、蛇はどこにいるの?
『(・ω・)ノ 木の上にいるよー』
上から来るのか! これは厄介だぞ。
すぐに、念話でみんなに知らせる。
リーヴァスさんの指示で、やや開けた場所で大蛇を待つことにした。
俺達は円形の陣を立てる。
ミミ、ポル、リーヴァスさんが外側に立ち、その内側にコルナ、ルル、俺が立つ。俺達は、上方を警戒しながら敵を待った。
「来たっ!」
ミミの上方から大蛇が襲いかかる。開いた巨大な口は、大人ぐらいなら簡単に飲みこめそうだ。
噛みつき攻撃は躱したが、蛇の下あごが肩の辺りを掠めたミミは、木立の中に跳ねとばされた。
「ミミッ!」
ポルが、倒れたミミに駆けよる。
ミミは、意識を失っているようだ。
ポルが、大蛇とミミの間に立ちふさがる。
大蛇は倒れたミミに再び襲いかかろうとした。
ポルの身体が膨れあがる。あっという間に10mを超す大熊になった。
大熊は大蛇の首を右手で易々と掴んだ。
左手で頭を握る。
大蛇の首は、めきめきと音を立て、胴体から離れた。
コルナが、ミミに駆けよる。
治癒魔術の光がミミの肩を包んだ。
「大丈夫、肩を少し痛めているだけ。
気は失っているけど」
「物理防御の加護が役に立ちましたな。
ルル、ミミの強運に感謝しなさい」
リーヴァスさんが、いつになく厳しい声で指摘する。
ルルは、ミミのすぐ後ろにいた。ただ、蛇への生理的嫌悪から、一瞬動くのを躊躇ってしまったのだ。ルルは、深刻な顔で、唇を噛みしめていた。
体が元に戻ったポルが、両手両ひざを地面について息を荒げている。
「ポル、大丈夫か?」
「シローさん、ミミは?」
「ああ、肩にかすり傷を負ったが、大したことはない。
気を失っているだけだ」
「よ、よかった」
ポルの大熊への変化は、一度使うと半日は使えない。パーティとしての取っておきが一つ減ったのは痛い。
体調が優れないミミは、ボードに載せるしかないだろう。
もし、このダンジョンが5層以上あるなら、途中でキャンプする必要がある。
史郎は、予想以上に手強いダンジョンに気を引きしめるのだった。
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