260 / 607
第七章 天竜国編
第13話 天竜国のダンジョン6
しおりを挟む史郎達は、階段を上がり、真竜廟の第三層に到達した。
この層は、第一層、第二層と、その様子が全く異なっていた。
通路も部屋も見られない。広々とした空間が広がっているのだ。
空間には、森の様な部分、草原の様な部分があり、小川すら流れていた。
魔術的に出来た空間であることは明らかだ。そうでなければ、これだけの広さを支柱無しに支えられるはずがない。
天井は高く、遥か上にあった。そして、その天井全体が光っている。
俺達は、しばらくそのあり得ない光景に見いっていた。
-----------------------------------------------------------------------
「あれなんだろう」
ミミが何か見つけた様だ。
彼女が指さした方を見ると、草原の草陰から小さな毛皮が見える。背中の丸みから見ても、ウサギに似た魔獣だろう。よく見ると、すぐ近くにも何匹か同じ魔獣がいる。
顔が小さいのを除くと、やはりウサギに似ている。
その時、森の方から草がサササと波立った。
ウサギ型の魔獣がてんでに飛びはねだした。
その内の一匹が、草の上にひょいと出てきたまま、空中に上がっていく。
ウサギ型魔獣の身体は、巨大な蛇に咥えられていた。
「きゃっ!」
ルルが俺の背中に掴まる。
「ルル、大丈夫かい?」
生理的な嫌悪感はどうしようもないからね。
大蛇は身をひるがえすと、草の中に身を沈め、森の方向へ去った。草の動きで、そう推測されるだけなんだけどね。この草原をルルに歩かせるのは酷だな。
俺は足元に点ちゃんシールドを置くと、それを森の方へ伸ばした。シールドがある部分は、草が寝ているので蛇はいないと確認できる。これならルルも安心して歩けるだろう。
「シロー、これはさすがに甘やかせすぎではないでしょうか」
リーヴァスさんが、渋い顔をしている。
あれ? 俺、まだまだシールド使うつもりだったのに。
じゃ、しょうがないからこの辺にしとくか。
史郎達は、シールドでできたカーペットの上を、森に向かって歩きだした。
-----------------------------------------------------------------------
森の木々は、史郎達が今まで一度も見たことが無い種類だった。
葉は円を二つくっつけたような形をしていた。木の幹も、光沢があり、つるつるしているように見える。
通常の森に比べ、やや木々が密であるように見える。
俺達は比較的木の間隔が広い場所を選び、森の中へ入っていった。
第三層に出てきた入り口の反対側に出口があると予想し、奥へと向かう。
森に入り10分ほどしたところで、点ちゃんから報告があった。
『(Pω・) ご主人様ー、さっきの蛇がついてきてるよ』
なるほど、やっぱりそうなるか。
点ちゃん、蛇はどこにいるの?
『(・ω・)ノ 木の上にいるよー』
上から来るのか! これは厄介だぞ。
すぐに、念話でみんなに知らせる。
リーヴァスさんの指示で、やや開けた場所で大蛇を待つことにした。
俺達は円形の陣を立てる。
ミミ、ポル、リーヴァスさんが外側に立ち、その内側にコルナ、ルル、俺が立つ。俺達は、上方を警戒しながら敵を待った。
「来たっ!」
ミミの上方から大蛇が襲いかかる。開いた巨大な口は、大人ぐらいなら簡単に飲みこめそうだ。
噛みつき攻撃は躱したが、蛇の下あごが肩の辺りを掠めたミミは、木立の中に跳ねとばされた。
「ミミッ!」
ポルが、倒れたミミに駆けよる。
ミミは、意識を失っているようだ。
ポルが、大蛇とミミの間に立ちふさがる。
大蛇は倒れたミミに再び襲いかかろうとした。
ポルの身体が膨れあがる。あっという間に10mを超す大熊になった。
大熊は大蛇の首を右手で易々と掴んだ。
左手で頭を握る。
大蛇の首は、めきめきと音を立て、胴体から離れた。
コルナが、ミミに駆けよる。
治癒魔術の光がミミの肩を包んだ。
「大丈夫、肩を少し痛めているだけ。
気は失っているけど」
「物理防御の加護が役に立ちましたな。
ルル、ミミの強運に感謝しなさい」
リーヴァスさんが、いつになく厳しい声で指摘する。
ルルは、ミミのすぐ後ろにいた。ただ、蛇への生理的嫌悪から、一瞬動くのを躊躇ってしまったのだ。ルルは、深刻な顔で、唇を噛みしめていた。
体が元に戻ったポルが、両手両ひざを地面について息を荒げている。
「ポル、大丈夫か?」
「シローさん、ミミは?」
「ああ、肩にかすり傷を負ったが、大したことはない。
気を失っているだけだ」
「よ、よかった」
ポルの大熊への変化は、一度使うと半日は使えない。パーティとしての取っておきが一つ減ったのは痛い。
体調が優れないミミは、ボードに載せるしかないだろう。
もし、このダンジョンが5層以上あるなら、途中でキャンプする必要がある。
史郎は、予想以上に手強いダンジョンに気を引きしめるのだった。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる