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第七章 天竜国編
第7話 困りものの可能性
しおりを挟む翌日、まだ皆が寝ているときに、天竜の長が史郎を起こしにきた。
朝のひと時を邪魔されるのは、俺が最も嫌いなことだが、この世界の命運が懸かっているとなると、そうも言ってられないよね。
俺と人化モードの長は、それぞれが竜の背中に乗った。
俺と長を乗せた二匹の竜は、一気に空に舞いあがると、下に広がる『光の森』の上を飛びはじめた。遠くに見える山脈を目指しているようだ。
だが、飛行は途中で終わった。横を見ると、竜の背で長が下を指さしている。
そこには、無残な光景が広がっていた。おそらく森であったところが、平地になっている。見渡す限りが平地だ。
二匹の竜が、その平地へと下降する。俺達が、背中から降りると、二匹の竜も人化した。
「これは……」
俺は、言葉を失う。足元は、森の成れの果てである『枯れクズ』である。厚さ1cmから10cmくらいのガラス状の円盤が、地面を覆っている。木が枯れると、円筒形の幹が横にスライスしたように割れるのだろう。
「どうじゃ、何とかなりそうか?」
「調べてみますね」
点魔法を使えば、とりあえずこの散らばっている『枯れクズ』を除去することはできる。しかし、5年から10年で木が枯れることを思うと、到底除去が追いつかないだろう。
俺は、拾い上げた半透明な円盤を点ちゃんに分析してもらうことにした。
点ちゃん、お願いできる?
『(・ω・) やっと出番ですかー。
がんばりますよー』
この世界の命運が懸かっているというのに、のんびりムード。さすが点ちゃんだね。
『(*´∀`*)えへへ』
褒(ほ)めたのかね、今の? まあ、いいか。
5分ほどして、点ちゃんから報告が入る。
『(Pω・) 初めて見る不思議な材質ですね。
これには、光エネルギーを溜める働きがあります』
なにっ!? エネルギーを溜めるだって?
俺は、その可能性の大きさにビビってしまった。地球で、油田を掘り当てたらどうなるか想像したら、俺の気持ちが分かってもらえるだろう。
『(・ω・)ノ〇〇 これは、いくらでも薄くなるから、薄くしたものをお日様に当てるといいですよ』
俺は、つばを飲みこんで、もっとも大事なことを尋ねた。
溜めたエネルギーは使えるの?
『(・ω・)b 使えますよー』
点ちゃん、もう一度言ってくれる。
『(・ω・) 簡単に使えますよー。
そのままでも、灯りくらいになら使えますし、工夫すれば、いろんなことに使えると思いますよ』
凄いことが分かってしまった。きっと利に聡いミミが高笑いするな。
ところで、これは、何度でも使えるの?
『(・ω・)ノ〇 そうでせすよ。
このガラスのような素材が擦り減らない限り、ほぼ永遠に使えますね』
うはー、恐ろしいことになってきたな。
俺は、頭の中で計画を整理してから、竜の長に話しかけた。
「加護をもらえなかった代わりに、何かもらえるという話でしたが……」
長は、俺が今更そんな話を持ち出したので、当惑している。
「ま、まあそうですが、それとこれとどういう関係が?」
「この森の『枯れクズ』を頂きたい」
「なんとっ!!
こんなものをどうするのじゃ?
大体、膨大な量があるのじゃが?」
長は呆れ顔だ。まあ、そうだろうね。普通なら、ただの厄介なゴミだもん。
「天竜の方々には、この『枯れクズ』を集める仕事を頼みたいのです」
「いや、それは必ずしなければならぬ仕事だから構わないが」
「長、報酬は蜂蜜でどうです?」
「なにっ!
是非やらせてくれっ!」
長が勇みたつ。
「ただのぉ、すでにあるこの『枯れクズ』をどうするかが、差しあたっての問題じゃな」
「ああ、それは大丈夫です。
範囲が広い『枯れクズ』は、俺が全部回収しておきますから。
それより、もし、そうやって俺が回収した後なら、『枯れクズ』の除去は可能ですか?」
「ああ、それなら可能じゃよ。
村の若い衆の手が大分割かれるが、世界が滅びるよりマシじゃ」
「恐らく、労働力は何の心配もいらないと思いますよ」
竜人をこの世界で働かせるかどうかの判断は長に任せるしかないが、人手が足りないということにはならないだろう。
「では、すでに散らばっている『枯れクズ』を回収しますから、長は先に帰ってください」
「何ならワシらも手伝うが」
「いいえ、大丈夫です」
俺は、彼に点魔法の一端を見せることにした。
「ちょっと見ていてください」
点ちゃん、いいかな?
『(^▽^)/ わーい、遊べるー』
まあ、点ちゃんにとっては、お遊びだよね。
もう分かってると思うけど、この広がっている『枯れクズ』を点収納にしまって欲しいんだ。
『(・ω・) 森の手前まででいいのー?』
うん、それでお願い。
『(☆ω・) じゃ、いきますよ』
俺と三人が立っている部分を円形に残して、一瞬で大地が現れる。
「「おおっ!!」」
三人の竜が声を上げる。
「まあ、こんな感じですから」
「……凄まじいの。
さすがは真竜様がお認めになったお方じゃ」
「では、後はやっておきますから」
「頼んだぞ」
俺が頷くと、三人は竜の姿に戻った。力強く羽ばたき舞いあがると、くるりと一回円を描いてから、やって来た方向へ飛びさった。
史郎は、点ちゃんと一緒に、宝の山を回収しはじめた。
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