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第七章 天竜国編
第6話 森の困りもの
しおりを挟む加護をもらった日の夕方、史郎達は、天竜達に、歓待を受けたお返しをした。
広場での食事の後、俺達みんなで、クッキーを焼いたのだ。
本当は食事でお返ししたかったのだが、大量に作っても1匹でぺろりと食べちゃいそうだからね。
人化できる天竜に、これが大うけだった。蜂蜜は、彼らにとって物凄い美味のようで、初めて食べた味に、竜達が感動の涙を流していた。
人化できない天竜の為に、大量の蜂蜜水を作った。水は、洞窟内に湧いている泉から汲んできた。土魔術で、大きめの桶を作り、そこに水と蜂蜜を入れて、よくかき混ぜる。アクセントに、ドラゴニアで手に入れた、ミカンに似た果実の汁を垂らして完成だ。
これも凄い人気で、あっという間に100用意した桶が全て空になる。水の運搬に点魔法を使うので、俺はこちらに掛かりきりになった。
結局、ドラゴニアで商売用に用意した全ての蜂蜜を使いきってしまった。
後で、フラフラしている竜がいたから、もしかすると、蜂蜜は竜にとってアルコールの様なものなのかもしれない。
とにかく、皆が喜んでくれて良かったよ。
寝るために部屋を立ちさろうとすると、長に呼びとめられた。俺に相談したいことがあるそうだ。
史郎は、長の後に着いて、洞窟の奥へと向かった。
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長の部屋は、思ったほど大きくなかった。
竜が寝起きする場所だから、それなりのサイズだが、俺達が借りている大部屋より小さいくらいだ。天井はかなり高いが、広さは10畳程度だろう。
長は巨大な敷物を出すと俺に勧めてきた。これって、明らかに竜が使うサイズだよね。
俺がその上に座ると、彼はまず俺に頭を下げる。
「真竜様の加護を受けられたお方とこうしてお話ができて光栄です」
堅苦しいのが苦手な俺は、手を左右に振る。
「長、せっかく二人だけですから、ざっくばらんに話しませんか」
「そ、そうか。
ワシもそのほうが楽なんじゃ」
俺と気が合いそうなおじいちゃんだ。
「お願いが二つあっての」
「何です?」
「一つは、今日振舞ってもらった『蜂蜜』というものを分けてもらいたいのじゃ」
「あれって、そんなに美味しかったですか」
「長いこと生きとるが、あんな美味は初めてじゃ」
「いいですよ。
持っている奴は、さっき全部出しましたから、ドラゴニアに帰って採ってこないといけませんけど」
「では、ぜひ天竜祭で渡してくれ。
報酬は、こちらで考えておくでな」
「ありがとうございます。
ところで、もう一つの方は何ですか?」
「ああ、先ほどシロー殿が、泉の水を一度に運んでいるのを見てな。
それで、思いついたのじゃ」
泉の水は、小さなボードを100枚作って、その上に土魔術で作った桶を置いた。これが、地面の少し上を自動で泉まで動き、壁から湧いている水の下を通って部屋に帰ってくるようにした。一応、泉の側でリーヴァスさんにチェックしてもらっていたけれど、特に問題も起こらなかった。
「実は、いまこの国で一番困っているのが、『光る森』に関する問題でな。
ああ、『光る森』と言うのは、あなた方がここに来る途中で通ってきた、あの森じゃ」
あの森、『光る森』って言うのか、ぴったりの名前だな。
「あの森は、この世界の生き物にとってかけがえのない存在なのじゃが、その森自体が問題なのじゃ」
森自体?
「かつて森には『毬虫』という生き物がおってな。
これは、『虫』とついとるが、毛が生えた丸っこい魔獣での。
こいつが『光る森』の倒木を好んでたべておったのじゃ」
倒木を食べてくれるなら、何の問題も無いと思うが……。
「何年か前に、その『毬虫』が急に姿を消してしまっての。
調べた者によると、恐らく彼らにとっての疫病が蔓延したのじゃろうと言っておった」
「それが、何か問題になるのですか?」
「大問題じゃ。
あのな、『光る森』の木々は5年から10年で成長し、そして枯れるのじゃが、枯れるとそのようなモノになるのじゃ」
長が指さしたのは、壁で光る水晶灯だった。
「灯りが増えると困るのですか?」
「すでに洞窟内が明るくなり過ぎて、寝不足になる者が出てきておる」
「枯れたところに放置してはいけないのでしょうか?」
俺は、当然と思われる質問をしてみた。
「ワシらは、それのことを『枯れクズ』と呼んでおるが、この『枯れクズ』があると、新しい木が育たぬのじゃ」
なるほど、やっと話が見えて来たぞ。
「すでに、かなり広い範囲で森の消失が始まっておる。
このままでは、この世界の生き物が全て死に絶えてしまうかもしれん」
確かに、ここの生態系にとって重要な役割を果たす森が無くなれば、そうなるだろう。
「この世界の全ての生き物の為にお願いしたい。
なんとか、『枯れクズ』を取り除いてはもらえないだろうか」
なんか、話が大きくなってきたぞ。いや、大き過ぎる話になってきたって方が当たってるか。
「うーん、恐らく、一時的にはできるでしょうが……。
とにかく、現場を見せてもらえますか?」
「よかろう。
さっそく明日の朝、案内しよう」
こうして、史郎は、『光る森』の問題に関わることになった。
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