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第七章 天竜国編

第2話 竜達の歓待

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 天竜の洞窟、大広間では、人化した多くの竜が、せわしなく働いていた。

 「手際が悪くて申し訳ありません。
 中には、久々の人化に体がついていかない者もいるのでしょう」

 長の言葉は、あくまで丁寧だ。視線はずっと、ナルとメルに向けられている。
 大きな敷物を持った二人の男がやって来ると、それを地面に広げた。年配の女性が、その上にさらに少し小さな布を敷く。

 「どうぞ、お座りください」

 ナルとメルを小さな布の上に座らせると、俺とルルはその横に座った。残りの面々も、俺達の後ろに座る。

 若い娘達が、手に小さな壺を持って入ってくる。壺には、ガラス細工のような透明な花が挿してある。娘達は、ナルとメルの側にそれを飾りつけていく。

 「きれいだね」

 綺麗なものが好きなナルは、興味を持ったようだ。

 「おいしそう」

 メルは、エルファリアで食べた、飴細工の花を思いだしているのだろう。

 「ドラゴンに変身できるなんて、ナルちゃんとメルちゃんはすごいね」

 俺の後ろに座ったイオが、感心したように言う。まあ、本当は逆なんだけど、ここは勘違させたたままの方がいいだろう。

 「そうだよ。
  すごいだろう」

 適当に、返事をしておく。

 「シロー、娘子達は、そういうことだったのか」

 娘達二人の変身姿を初めて見たコリーダが、呆れたような顔で言う。

 「いつもは、秘密にしているからね」

 「お主とルルの子供かと思っていた」

 「いや、それは間違いないよ。
  二人は、俺とルルの娘だよ」

 俺はきっぱり言い切った。コリーダには、後で二人を娘として育てることになった経緯を話しておこう。

 人化した竜が、ナルとメルの周囲を飾りつけ終わると、二人は雛人形のようになった。
 メルが前に置かれたお菓子のようなものに手をつけようとして、ルルに諭されている。彼女は、お行儀には厳しいからね。
 やがて、ナルとメルの「ひな壇」を中心に、人化竜達が、半同心円状に座った。

 円の内側ほど年寄りが座っているから、序列順に並んでいるのだろう。座るなり、全員が額を地面に着けている。
 敬意を表しているのか、ナルとメルの前5mくらいは、誰も座っていない。
 二人の正面最前列に座った長が、礼をしたままの姿勢で口を開く。

 「この度は、真竜様においでいただき、恐悦至極にございます。
 我々からの心ばかりの感謝の気持ちをお受けとりください」

 着飾った娘が、両手にお盆のようなものを載せて、次々に入ってくる。ナルとメルの前まで来ると、お盆ごと置いて下がっていく。
 お盆の上には、様々なものが乗っていた。

 「なんか、凄いのがあるね」

 ミミは、宝石が山盛りになったお盆から目が離せないようだ。

 「あれは、何でしょう」

 ポルは、魔道具のようなものが載ったお盆を見ている。

 「ほう、見事なものですな」

 リーヴァスさんが目をつけたのは、一つのお盆に載せられた二振りの短剣である。鞘に入っているが、柄の部分を見ただけで、それがどれほどの業物か、彼には分かるらしい。
 ナルとメルのすぐ前だけは、お盆が置かれていない。きっと食事を置くスペースだろう。
 そう俺が予想したら、案の定、水晶の板に載った食事が運ばれてくる。

 まず、ナルとメルの前に、それから俺達の前、最後に人化竜の前に膳が置かれる。見たところ、ナルとメルの食事は特別製で、俺達のは人化竜と同じもののようだ。

 点ちゃん、調べてくれる?

 これだけ歓待してくれているのだから、毒の心配はないだろうが、身体に入れて大丈夫なものかどうかは、確認しておかないとね。

 『……大丈夫だよー。
  でも、味の方は、分からないよ』

 それはそうだ。

 長の挨拶が終わり、食事が始まる。長だけは、膝歩きで、ナルとメルの前に来て、捧げものの説明をしている。

 「こちらは、竜人の国で採れる宝石でございます。
  この二振りの剣は、竜の刀匠が作った名刀ございます。
  こちら、天竜国の洞窟で発見された、アーティファクトでございます。
  特別なお湯が生成される逸品です。また、こちらは……」

 彼が説明している間は、ナルとメルは食事ができない。

 メルは、目の前に食事を置かれたまま、話を聞くというのが堪えられなくなりつつある。堪忍袋というより、胃袋の緒が切れる直前に話が終わった。
 メルは、いそいそという感じで食事に取りかかる。

 「おいしいね、少し変な味だけど」

 食事は、確かに、今まで食べたことがない味のものが多かった。ミントのような味がする赤身とか、甘辛い草のようなものとか。今まで行った、どの世界とも違う食事である。

 史郎には、それがとても新鮮だった。
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