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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第24話 ラズロー邸

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 翌日の昼を回るころ、リーヴァス、ルル、ミミ、ポル、史郎が待っていると、赤竜族の若い女性が迎えにきた。

 「リーヴァス様でしょうか?」

 「そうですが」

 「お迎えに参りました。私は、ケルンと申します。どうぞ、こちらにお乗りください」

 二頭のシカ型魔獣が引いた客車に乗りこむ。魔獣は、森で襲ってきたジジという獣に似ているが、毛の色が黒いから別の種類かもしれない。
 周囲で店をやっている人々が驚いていたから、そういった乗り物は珍しいのだろう。

 乗り物は、ゆっくり街中の道を進んでいく。
 窓から外壁が見えたと思ったら、門から外に出た。俺とポルが青竜族の都へ入るとき使ったのとは別の門である。

 草原の道をしばらく進むと、再び外壁が見えてきた。
 門から中へ入る。
 門番がチェックしないところを見ると、この乗り物は上流階級の人々が使うものかもしれない。

 街並みは青竜族のものとさほど違わないが、道行く人々の多くは赤髪だった。

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 史郎達が乗った客車は、大きな門の前で止まった。

 赤竜族の女性は、門を潜って中に入っていく。俺達は、その後ろをついていった。
 花や灌木が植えられた前庭を抜けると、大きな屋敷があった。石造りの二階建てだが、横幅が30mくらいはあるだろう。
 この世界で見た建物では、青竜族の役所に次ぐ大きさである。
 建物の中は、様々な赤色を要所要所に使った内装になっていた。
 大きな朱塗りのドアから部屋に招きいれられる。

 学校の教室くらいはあるだろう広い部屋である。
 部屋の中心には五角形のテーブルが置いてあった。椅子が、その四辺に配されていて、残った1辺には椅子の代わりに赤いドラゴンの銅像が置いてある。
 およそ1mほどの高さのその像は、かなり精緻なものだった。
 実際にドラゴンを知る俺から見ても、像はそっくりに作られている。それを作った者は、実物を見たことがあるに違いない。

 ドラゴンの背後には日本の仏像でよく見られる後光のようなものが表現されていた。
 青竜族の村長が言っていた「天竜」という存在が、急に現実味を帯びてきた。

 俺達が入ってきたのとは別のドアが開いて、昨日店に来た赤竜族の男性が現れた。

 「みなさん、ようこそおいで下された。今日は、赤竜族の料理を存分にお楽しみください」

 彼が手を二度打つと、桃色のワンピースを着た女性達が、料理を運びこむ。
 大きなテーブルの上は、料理で一杯になった。
 リーヴァスさんの前にはバラ色の液体が入ったグラスが置かれている。
 他の四人はお酒が飲めないと言うと、別のものが配られた。グラスには、薄っすらピンク色をした透明な液体が入っている。

 冷えたグラスに口をつけると、地球のミントっぽい味がした。
 ルルは美味しそうに飲んでいるが、ミミとポルは鼻を近づけると、顔をしかめている。獣人の鋭敏な嗅覚には刺激が強すぎるのだろう。

 給仕の女性に頼んで、二人には水を持ってきてもらう。

 食事の方は、思ったより美味しく正直驚いた。きっと、塩をきちんと使った料理なのだろう。デロリンが作る料理には敵わないが、この世界で今まで食べた料理に比べると雲泥の差があった。

 ポルは、ロブスターのような大きな甲殻類が気に入ったらしく、口の周りを赤くして夢中で食べている。
 ソース類が赤いので、油断すると、手や口が赤くなる。ミミが、給仕からもらった布で、ポルの口の周りを拭いてやっている。

 ルルは、デザート用に置いてあった赤い実の果物がお気にめしたようだ。3センチくらいの球形の実から、薄皮を剥がすと、真っ白な果肉が出てくる。ゼリー状の果肉は、地球の桃を思わせる味がした。

 食事が終わると、お茶が出される。紅色に染まったお茶は、独特の香りが素晴らしかったが、味の方は今一つだった。

 ルルは、少し口をつけただけで、後は香りだけを楽しんでいる。

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 食事が終わり、お茶のカップも下げられると、ラズローと名乗った赤竜族の男が真剣な表情で話しはじめた。

 「皆さんは、竜闘と言う言葉を聞いたことがありますか?」

 「いえ、ありませんな」

 リーヴァスが、答える。
 俺は、青竜族の村長から聞いたことがあるが、黙っていた。

 「天竜様に関わるものを除いては、この世界で、一番権威がある儀式です」

 「どのようなものですかな?」

 「例えば、赤竜族と青竜族で、どうしても意見が合わない場合に開かれます。
 各竜族から、代表が選ばれ、『竜舞台』という所で戦います。
 勝った方の意見が認められることになります」

 やはり、この世界の考え方は、強さこそ正義だったか。
 俺は、そういうことが政権上層部の腐敗を生んだのだろうと考えていた。当たり前だが、強い者が必ずしも正しいとは限らないからだ。

 ラズローの言葉は続く。

 「今日、皆さんにおいでいただいたのは、娘の事に対するお礼、お詫びもありますが、四竜社で行われようとしている事について知っていただくためです」

 彼は、一度言葉を止めると、俺達一人一人の顔を見まわした。

 「四竜社の頭(かしら)は、黒竜族のビギという男です。
 彼は、若い頃、その戦闘能力を生かし、竜闘を何度も行い、今の地位を手に入れました。
 しかし、10年を越える頭としての立場が、次第に彼を変えていったのです」

 「四竜社の頭には、任期のようなものは無いのですか?」

 俺は、尋ねてみた。

 「ありました。四年の任期で、最高二回つまり8年が最長ということになっていました」

 「しかし、彼が10年以上、その立場にいるということは……」

 「ええ、竜闘です。彼は、他の三竜族族長に竜闘を仕掛けました」

 彼は、苦々しい顔をしている。

 「その結果、白竜族は棄権、青竜族と赤竜族は戦って敗れました。
 その結果、現在の四竜社は、黒竜族が実権を握っています」

 「以前は、四竜族が、話しあって事を決めていたのですね?」

 「ええ。四竜社の頭は、形式的なものに過ぎませんでした」

 なるほどねえ。リニアの父親とその上司は、そういう男の弱みを握ってしまったのか。

 「どうして、我々にそのようなお話をされたのですかな?」

 リーヴァスが尋ねる。
 確かに、高度な政治的内容を、迷い人に話すというのは理屈に合わない。むしろ、不用心と言われても仕方がない。

 実は、先ほど話に出た、ビギという男が竜闘を計画しているのです」

 それでも、まだ俺たちに話す理由にはならないはずだ。
 ラズローが続ける。

 「その竜闘にあなた方が選ばれているようなのです」

 「なんですとっ!」

 さすがに、リーヴァスが驚きの声を上げる。

 「ええ。無茶な話です。
 しかも、彼はその計画をリーヴァス殿が現れる前に決めていた節があるのです。
 二人の少年に竜闘をさせようとしていたことになります」

 おいおい、冗談じゃないぞ。

 「あなたは、赤竜族のかなり上の立場だと思いますが……」

 俺が、確認のため口を挟む。

 「ええ。赤竜族の族長です」

 「それでも、四竜社で意見を言えないのですか?」

 「彼が戦った族長の一人は、私の父でした。
 父はその戦いで片手と片眼を失い、それからずっと床についています」

 なるほど、敗北した族長の息子として、四竜社内での立場が弱くなったわけか。
 強さが正義であるこの国なら、そうなるだろうね。

 俺は、少し突っこんだ質問をすることにした。

 「それで、あなたは、私達に何を望んでおられるのですか?」

 彼の顔が強ばる。

 「あなたの、本心を教えていただきたい」

 俺は畳みかけた。

 「彼を……。ビギを止めて欲しいのです。
 娘のことでお世話になった方々に、このようなお願いをするのは恥ずかしいことだと重々承知しています。
 しかし、私達の力ではもうどうしようも無いのです」

 「ふむ。少し、我々だけで話をさせていただけますかな」

 リーヴァスが思案顔で言う。

 「どうか、どうかお力をお貸しください」

 彼は深々と頭を下げると、部屋から出ていった。立ちさる前に、ポルに太鼓のようなものを渡していったから、終わったら叩いてくれということだろう。

 俺はまず、用心の手順を踏むことにした。
 点ちゃん。

 『(^▽^)/ はいはーい』

 この部屋を調べてくれる?

 『(・ω・)ツ 分かりましたー』

 10秒もかからないうちに答えが出る。

 『(Pω・) 何も仕掛けられていませんよー』

 ありがとう。助かるよ。

 『(*´∀`*) えへへ』

 俺がリーヴァスさんに頷くと、彼が話しはじめる。

 「どうしたものですかな。シローは、どうお考えかな?」

 「そうですね。まず、竜闘への参加は避けられないでしょう。
それなら、竜闘についてなるべく詳しく知っておく方がいいかと思います」

 「ミミは、どう思いますか?」

 「私はリーダーの決定に従います」

 「ポル君は、どうですかな?」

 「ええ。私も戦っていいと思います」

 頼もしいが、これは命懸けの話である。

 「二人とも、よく考えてからもう一度決めるといいよ。命懸けの戦いになりそうだから」

 「分かった」 

 「分かりました」

 「では、ラズロー氏を呼びますかな」


 リーヴァスが頷くと、ポルは太鼓を鳴らした。
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