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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第21話 リーダーを追って4

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 高い岩山を前に絶望に囚われたリーヴァス達一行だったが、メルが岩肌に彫られた階段を見つけて、皆がほっとした。

 階段は50cmほどしか幅の無い、細いものだったが、きちんと等間隔に刻まれていた。
 リーヴァスを先頭に階段を登りはじめる。思ったより簡単に、地峡部の頂上にたどりついた。

 上り階段から、平坦な通路になってホッとしたのも束の間、一行は、大きな石の門に行く手を阻まれてしまった。
 門には、何か魔法陣のようなものが描かれている。きっと呪文で開けるようになっているに違いない。

 力自慢の加藤が挑戦したが、扉はびくともしなかった。
 リーヴァス、コルナ、ミミ、ルル、コリーダが、頭を突きあわせて相談していると、ナルが話しかけてきた。

 「マンマ、この扉の向こうに行きたいの?」

 「ええ、そうよ。それで、困ってるの」

 「ナルがやってみる」

 「やってみる?」

 ルルが尋ねるより早く、ナルとメルが左右の扉を手で押した。
 二人の手が一瞬光ると、扉は何の抵抗も無くスーッと開いた。

 「「!」」

 リーヴァス達は、ただ驚くだけである。
 加藤は、「小さな女の子に負けた……」と、肩を落としている。

 開いた石扉を抜けて、一行はさらに進んだ。急な階段を降りるのに少し手こずったが、その後は、森の中とはいえ道が通っていて楽に進める。
 それほど歩かないうちに、森の中から、短剣を構えた青い髪の若者が飛びだしてきた。

 「お前ら、何者だ!?」

 若者は頬からこめかみにかけて、青い鱗のようなものがある。シローが言っていた、竜人だろう。

 「私達は、知人を探して旅をしておりましてな」

 「そっちから来たってことは、『終の森』を通ってきたのか?」

 「名前は知らぬが、森は通りましたぞ」

 「な、なんて奴らだ。シローみたいな奴が他にもいるとは」

 「い、今、シローって言いませんでしたか?」

 ルルが慌てて尋ねる。

 「ああ、シローという男なら、少し前、村に来たぞ」

 「私達が探しているのは、その少年なのだよ」

 リーヴァスが言うと、青髪の若者は、目を丸くした。

 「なんだ、シローの知りあいか。じゃ、村に来るといい」

 こうして、一行は、青竜族の村に招かれることになった。

---------------------------------------------------------------------

 リーヴァス達が柵を越え、村の中に入ると、村人がわらわらと家から出てきた。

 白髪の年老いた竜人が一歩前に出た。

 「その者らは?」

 「長、彼らはシローの友人ですよ」

 「おお。シロー殿が、後から友人が来るかもしれぬと言っておられたが、それがあなた方でしたか」

 「シローがお世話になったとのこと、ありがとうございます」

 ルルが頭を下げる。

 「いやいや、こちらこそ彼にはお世話になったのですよ。貴重な塩を沢山頂きました」

 「ボーは、いや、シローはどこに?」

 加藤が尋ねる。

 「彼は、都に行きました」

 「都?」

 「我々青竜族の都じゃ。もうすぐ日が暮れる。今日は、この村でゆっくりなされよ」

 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

 リーヴァスが言うと、村長は頷いて歩きだした。皆がその後をついていく。

 一行は、一際大きな村長の家に入った。

----------------------------------------------------------------

 リーヴァス一行は、囲炉裏の周りに座り、村長からシローの事とこの世界の事を聞かせてもらった。

 「じゃから、彼には、本当に世話になったのじゃよ」

 「はー、どの世界に行っても要領がいい奴だぜ」

 加藤が、感心するように言う。

 パーティ・ポンポコリンの一同は、シローが無事に町にたどりついたと分かってホッとしていた。
 ナルとメルも、大人達が父親の事を話しているのが分かってニコニコしている。

 食事が終わるころ、村の若い衆が入ってきた。各自が手に、太鼓のようなものを持っている。
 下座に陣取ると、皆が太鼓を鳴らしだした。
 明るいリズムのその曲は、心からリーヴァス達を歓迎しているものだった。

 ナルとメルが、曲に合わせて踊っている。物凄く楽しそうだ。
 太鼓のリズムが早くなり、ピタッと終わる。
 皆が拍手で讃えた。
 拍手が終わると、コリーダが立ちあがる。

 「私達からも、歌のお返しを」

 彼女はそう言うと、深く息を吸い、体の力を抜いた。たったそれだけで、皆はコリーダから目が離せなくなる。
 聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの声で歌が始まった。
 青竜族の人々は、そのようなものを聞いたことが無かった。
 空気と一緒に心が震えるのである。
 彼らは、意識せずに涙を流していた。

 体の中に雨が降り、草木が芽吹き、風が吹いた。
 嵐が去ると穏やかな陽の光が世界を照らした。
 小鳥が鳴き、虹が出た。
 息もつかせぬ時間は、生命への賛歌で終わった。

 誰も言葉を発しない。囲炉裏から時おりするパチパチという音がやけに大きく聞こえた。

 「コリーダ姉、凄い!」

 「凄いーっ!」

 ナルとメルの声で、他の者も意識が現世に戻ってくる。
 全員から拍手が沸きあがる。

 拍手と歓声はしばらく止まなかった。

-------------------------------------------------------------------

 次の日、リーヴァス達一行は、朝遅く起きて旅支度を整えた。

 ナルとメルを除いて遅くまで起きていたから、みんな少し眠そうな顔をしている。
 ノックがあったので、ルルがドアを開けると、若い男達が、花束や葉で包まれたものを持って列をなしている。

 「皆さん、一体どうしたのですか?」

 「あ、あのー。コリーダさんは、いらっしゃいますか?」

 一人の若者がまっ赤な顔をして尋ねる。

 「ええ。ちょっと待ってください」

 ルルが、コリーダを呼ぶ。彼女が戸口に姿を現すと、若者達から歓声が上がった。

 「コリーダさん!」

 「歌姫!」

 「女神様!」

 中には変なことを口走っている若者もいるようだ。収拾がつかなくなりそうなので、最初にコリーダに声を掛けた若者が、皆を一列に並ばせた。
 一人一人順番にコリーダにプレゼントを渡していく。

 「素晴らしい歌をありがとう」
 「どういたしまして」

 「オレ、あんなに感動したの初めてです」
 「ありがとう」

 「好きです!」
 「……」

 「おいっ! お前、ルール違反だぞ」

 気持ちを打ちあけてしまった青年が、皆からポカポカ殴られている。
 コリーダの両手はすぐにプレゼントで一杯になった。

「皆さん、ありがとう。もう一度ここに来ることがあれば、また太鼓を聞かせてください」

 彼女が頭を下げると歓声が上がった。


 パーティが村を離れる時、若い男性がみんな涙を流すという、ちょっと暑苦しい光景が見られた。
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