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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第16話 リーダーを追って2

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 次の日、ケーナイのギルドでは、冒険者の威勢いい声が朝から飛びかっていた。

 「おう! それは、こっちじゃねえのか?」

 「いや、大きさと形の指定があるから、同じものだが、こちらに入れるぞ」

 「分かったぜ」

 全員自分が出来る仕事を見つけてキビキビと働いている。それは、アンデにとって、ギルマスとしての充実感を覚える時でもある。
 彼は、部屋の隅に控え、余り口だしをせず、皆の仕事に目を配っていた。

 その時、外が騒がしくなると、ピエロッティがドアから入ってきた。彼が開けたままにしたドアから、聖女が入ってくる。

 「せ、聖女様!」

 冒険者達が、膝をついて礼をする。
 聖女が、みなに立ちあがるように手を振った。

 「聖女様。このように朝早く、何のご用です?」

 「猫賢者さんから頼まれていたものを、持ってきましたよ」

 彼女がピエロッティに合図をすると、彼は肩に下げたカバンから、布に包まれたものを出した。聖女がそれを受けとり、手の上で布をめくる。
 そこには、二つの大きな青い魔石があった。

 「こ、これはもしや、治癒の魔石では?」

 「ええ。アリストにいる時に、向こうのギルドからこれを用意するように言われて持ってきたのです。
 猫賢者さんが、使い方を教えてくれて、準備が出来ました」

 「このような貴重なものをどこから?」

 「アリストの宝物庫です」

 「えっ!? では、国宝なのでは?」

 「女王陛下から、下賜されました」

 アンデが呆れた顔をする。

 「女王陛下は、シローの友人なんですよ」

 「ええっ!」

 アンデは、シローの顔の広さに驚いていた。

 「驚くのはまだ早いですよ。出発は、明日でしょう? その時、もっと驚くものを用意しています」

 アンデは、さすがにこれ以上驚くことはないだろうと思ったが、黙っておいた。

 「聖女様、シローのために本当にありがとうございます」

 「ええ。そ、それは当たり前です」

 赤くなった聖女を見て「シローの奴め!」と思ったが、アンデはそれを顔に出さないようにした。

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 リーヴァス達が転移を試みる日が来た。

 転移する場所には、猫賢者の勧めで、史郎達がポータルに落ちた『竜の顎』が選ばれた。時間は、その時と同じ、日の出とした。
 日の出前の薄明りの中、アンデが、当日の事を思いだしながら、史郎が転移した位置の特定をしている。

 「俺が隠れていたのがこの岩で、台車が止まっていたのがあそこだから……」

 ギルメンの一人が、旗を持って犯人が台車を停めていた場所を示している。地面に残った足跡も計算に入れて、史郎が転移した位置が決まった。
 猫賢者が、近づいてくる。

 「宝玉の高さは、どのくらいじゃった?」

 「このくらいです。そのあと、浮上してこのくらいまで上がりました」

 アンデが、へその辺りと胸の辺りを指ししめす。

 「なるほどのう」

 猫賢者は、目を閉じて、何か計算しているようである。指が空中に文字を書いている。

 「よし、ここらでいいじゃろ。ニャン」

 彼は、アンデが特定したところから、3mほど離れた地面に杖で印を描いた。
 ギルメン、聖女が見守る中で、ポンポコリンのメンバーがいよいよ転移に向けて動きだそうとしたとき、遠くから声が聞こえた。

「おーい、待ってくれー!」

 朝焼けに染まる谷あいの道を、恐るべきスピードで走ってくる影がある。影は聖女の横で止まると、黒髪の少年となった。
 ギルメンが、戦闘の構えを取る。
 ピエロッティがすかさずそれを手で制し、深々と礼をした。

 「勇者様」

 「「ええっ!!」」

 加藤を知らない者が、一斉に声を上げる。

 「加藤君、もう、何してるの!」

 聖女舞子が、珍しくきつい声を出す。

 「いや~、寝坊しちゃった。ごめんごめん」

 「ゆ、勇者……。しかも、黒髪」

 アンデが、口を開けて驚いている。

 「勇者殿、この度はシローのために、ご助力感謝する」

 加藤の参加を前もって聞いていたリーヴァスが礼をする。

 「いや。奴は俺の親友だから、礼はいらないよ。むしろ、こっちがお願いしなくちゃ」

 加藤が頭を下げる。
 それを見ていたアンデが、聖女に尋ねる。

 「彼は一体?」

 「この勇者は、シローの友人です。今回の旅には、自分から希望して参加しました」

 「「「ええっ!」」」

 アンデだけでなく、冒険者達からも驚きの声が上がる。


 「さあ、そろそろじゃ。ニャニャ」

 猫賢者の声が谷間に響くと、崖の先端が金色に光り出す。日の出だ。
 リーヴァスさんが宝玉を取りだし、猫賢者の杖が示す高さに持ちあげる。
 猫賢者が片手を上げる。その合図を受けて、ポンポコリンのパーティメンバーと加藤を除き、みんなリーヴァスから遠ざかった。

 「マンマ……」 

 ルルに抱えられたナルが寝言をもらす。メルもコルナに抱かれて寝っている。
 猫賢者は、手を振りおろすと、呪文を唱えはじめた。

 リーヴァスが掲げた手の上で、宝玉が紫色の光を発する。三つの玉が空中にゆっくり浮きあがると、回転を始めた。
 その上に、黒い靄が現れる。

 ポータルだ。

 ポンポコリンのメンバーは、お互いに視線を交わして頷くと、ポータルに近寄った。まず、リーヴァス、そして、子供達を抱えたルル、コルナがポータルを潜る。
 コリーダ、ミミの姿が消えると、後は加藤だけになった。
 彼は、舞子の方を見てニヤリと笑う。

 「ボーには、返しきれない借りがあるからな。その1/3くらい、返しに行くよ。
 必ず連れかえるから、安心してくれ」

 「加藤君も気をつけるのよ。できるなら、史郎君と二人で帰ってきて」

 「ああ。じゃ、行ってくる」

 彼は、コンビニにでも行く気安さで片手を上げると、そのままポータルを潜った。


 後には、旅立った皆の無事を祈る聖女の姿があった。
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