212 / 607
第六章 竜人世界ドラゴニア編
第14話 濡れ衣
しおりを挟む黒竜族族長ビギは、四竜社の入る建物で、竜闘の計画を練っていた。
もう長いこと、竜闘が開かれていない。彼が覚えている限り、最長の期間のはずである。そろそろ開催しないと、その筋の不満が収まらないだろう。
そこへ、事務を担当する赤竜族の若者が入ってきた。
「会長、青竜族の役所から連絡です」
「何だ?」
「黒竜族の女が森で保護されたようなのですが、リニアという追放者の疑いがあります」
リニアだと! 本当にあの女なら、都合が悪い。すぐに対処すべきだろう。
「竜兵を十人送り、すぐこちらに護送しろ」
「じゅ、十人ですか」
「そうだ。そのとき、しゃべれぬよう猿ぐつわをするのを忘れるな」
「はい。分かりました」
「あと……」
「なんだ?」
「その女を連れてきたのが、迷い人のようなのです」
「迷い人か」
これは、竜闘のネタに使えそうだな。
「どんな奴らだ?」
「人族と、獣人のようです。どちらも少年だということでした」
少年か。材料としては不足だが、何とかなるだろう。
「よし。連れてこい」
気が短い彼を恐れるように、青年は、そそくさと部屋を出ていった。
思わぬところから竜闘のきっかけが舞いこんで、ビギはほくそ笑んでいた。
---------------------------------------------------------------------
史郎達は、豪華な部屋でくつろいでいた。
エルフの国ほどではないが、クッションやソファーの弾力はなかなかのものである。
俺はテーブルに点ちゃん収納から、お菓子やジュースを出して、並べていた。ポルが、さっそく手を伸ばしている。
黒竜族の女は、すっかり顔色も良くなり、ソファーに座っている。
「リニアさん、あなたも遠慮なくどうぞ」
「ありがとう」
初めはほとんど口を利かなかった彼女も、少しずつ会話するようになってきた。
俺は、かねてから聞きたかったことを尋ねることにした。
「答えにくいなら答えなくてもいいけど、あなたはどうして追放なんていう目にあったんです?」
ジュースを飲みかけていた彼女の手が止まる。答えようかどうしようか、迷っているようだ。
「そうですね。私を連れていることで、あなた方にご迷惑がかかるかもしれません。
話しておいた方がいいでしょう」
彼女は、暗い顔で話しはじめた。
「父は、四竜社というこの国の中央組織で書類仕事をしていました。
あるとき、上司から大切な話がある、と言われたそうです」
なるほど、その中央組織が四種族を束ねている訳か。
「父の上司は、組織上層部の汚職に気がついたそうです。
それを告発しようとしたやさき、彼は殺されてしまいました。
その場には、父の竜刀が落ちていました。
父は、その事で『終の森』へ送られました」
リニアは、悲痛な顔をしている。
「父が、彼を殺せるはずが無いのです!
なぜなら、事件があった夜、病気で寝込んだ私の看病をずっとしていたんですから」
「あなたは、それを訴えたんですね?」
俺にも、おおよその筋が見えてきた。
「ええ、何度も。その結果、私も殺害に関わっていたと濡れ衣を着せられて、追放処分となりました」
なるほどねえ。どこの世界にも似た話はあるもんだ。
「濡れ衣を着せたのが誰か、分かってるの?」
「恐らく、黒竜族族長のビギという男だと思います。
父が連れていかれた時も、私の時も、彼の息が掛かっている竜兵が現れましたから」
「そのビギという男は、どんな立場なんです」
「四竜社の頭です」
なるほど。国家元首のような立場にある者の汚職に触れてしまったのか。
「あなたが再び捕まれば、どうなるのかな?」
「再び追放になるか、恐らく今回は、『終の森』送りでしょう」
「俺達にも迷惑が掛かると言っていたが?」
「ええ。奴らはあなたにも何か仕掛けてくるに違いありません。
こうして、私があなたに事情を話さなくても、話したという判断で行動を取るに違いないのです」
それはそうだろう。
「あなた達がすべき事は、私をここに残して逃げだすことです。
しかし、ポータルがどこにあるか分かりませんから、逃げだすことに意味があるかどうか……」
「リニアは、追放の時、ポータルを使ったのだろう?」
「ええ。でも、その時は眠り薬を嗅がされた状態でした」
なるほどねえ。用心深い奴らだ。
その時、ノックの音がして、先ほどのハゲおじさんが入ってきた。
「あなた方に会いたいという人が来ておる。会ってもらえるか?」
俺は、リニアと視線を合わせた。なるほど、彼女もビギという男の関係者が来たと思ってるな。
「いいですよ」
俺は、気安く返事をした。リニアがちょっと驚いた顔をしている。ハゲおじさんは、ホッとした顔をした。
「では、こちらに来てくれ」
俺達三人は、階下に降りていく。リニアも、自分で歩いている。
1階のホールに降りると、テーブルに着いている人々が、ジロっとこちらを見る。彼らも俺の匂い攻撃を受けちゃったからね。
ドアの一つを潜ると、そこは中庭のような場所だった。広さは、野球場の内野部分くらいだろうか。
おじさんは、自分の服をくんくん嗅いでいる。
「まだ、匂いが付いているような気がするんじゃ」
そう言うと、こちらを恨めしそうに見る。
彼は、庭の中央に置いたベンチまで、俺達を案内した。
「ここに座って待っておれ」
そう言いすてると、早足に姿を消してしまった。
俺達は、それほど待つ必要は無かった。なぜなら、彼の姿が見えなくなると同時に、庭の四方から武装した竜人が現れたからだ。
「ビギの手勢です!」
リニアが、小声で素早く伝えてくる。
史郎達は、あっという間に、十人ほどの竜人兵士に取りかこまれてしまった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる