ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
上 下
207 / 607
第六章 竜人世界ドラゴニア編

第9話 魔獣の森

しおりを挟む


 史郎とポルは、森の手前で、無数の何かによる攻撃を受けていた。

 俺、ポル、竜人の女に張ったシールドはびくともしないが、精神的に気分のいいものではない。シールドに弾かれ、地上に落ちたものを見ると、握りこぶしよりも大きな蜂だった。
 尻の先から出ている針が濡れているところを見ると、毒を持っているに違いない。
透明なシールドがべっとり毒で塗られるほど、しつこく攻撃を受けた。

 30分ほどすると、さすがに彼らも諦めたのか、再び少し離れて黒いボールになった。
 追いかけられても困るので、点魔法の箱で一網打尽にする。
 うへーっ。捕まえたけど、これどうしよう。ある程度進んだところで箱から解放すればいいか。

ポルが、足元に落ちて動かなかなくなった蜂を恐る恐る靴先でつついている。
この辺は、まだまだ以前の彼のようだ。

 「じゃ、森に入ってみるかな」

 俺の合図で、森の中に踏みこむ。
 木々は比較的背が高く、その間隔も広い。森の中なのに、意外なほど遠くまで見通せた。
 蜂の襲撃に備えて、三人ともシールドで作ったスーツのようなものを着ている。透明だから、見えないけどね。

 次に襲ってきた魔獣は、黒い毛を生やし、小型の熊のような体形をしていた。遠方でこちらを見つけたのだろう。森の中をこちらに突進してくる。
 万に一つも友好的な魔獣であることを考えて、こちらから先制攻撃はしない。まず、シールドを張って受けとめた。
 シールドは、魔獣がケガをしないように斜めに張ってある。

 ブヒッ

 かなりな勢いでシールドに突っこんだ魔獣が、自分の勢いで跳ねとばされる。空中で3回転ほどして、ドスンと体側から地面に落ちた。
 首を左右に振りながらブヒブヒ鳴いてる。近くで見ると、1mくらいの体長で、四つ足歩行する魔獣のようだ。全身を、黒光りする体毛が覆っている。
 目つきを見ても、友好的な魔獣とは言えないね。

 これも点魔法の箱詰めにする。この魔獣も後で開放することにしよう。
 やれやれ、どうも俺達はこの森に歓迎されていないようだ。


 史郎達は、さらに森の奥に進んでいった。

----------------------------------------------------------------

 陽が翳りかけたころ、史郎達は三度目の襲撃を受けた。

 今度は、多数の魔獣が群れで襲ってきた。
 形はシカに似ているが、鋭い角と、なによりその口から見える牙が肉食であることを示している。シールドに、角や牙が当たる、カンカンという音がする。

 群れは20頭くらいで、一際大きな個体が一頭いる。
 ためしに、そいつを点魔法の箱に入れ、その箱に透明化の魔術を掛けてみた。群れは、一瞬で統制を失い、ばらばらになった。お互いに噛みつきあってる奴らもいる。

 俺達は、もう少し進んでからその日のキャンプを張ることにした。

-------------------------------------------------------------------

 キャンプ道具もあるのだが、この森の魔獣の凶暴性を考えると、少し無理がある。

 夜行性の魔獣のことも考えて、小型の「土の家」を作ることにした。
 一部屋と風呂場という間取りにした。
 外が見えるように、窓の代わりにシールドを張る。天井に細かい網目状のシールドを設置し、これに風魔術を付与することで空気を取りいれる。網付きの排気孔は、風呂場の床から30cmくらいの所に設けた。

 「ふわ~、森の中なのに、こんなに贅沢していいのでしょうか」

 ポルが呆れている。彼が、昔住んでいたケーナイの家は、そりゃひどかったからね。
 俺は、コケットを二つ出した。

 「あっ、コケットだ! やったー!」

 ポルが踊りだした。まあ、気持ちは分かるけどね。
 土魔術で地面を少し上げ、そこにキャンプ用マットを敷いて竜人の女を寝かせる。
 ポルがさっそく世話に掛かる。彼は、お母さんや多くの獣人の世話をしてきたから慣れたものである。

 俺が今まで行った世界には、米が無いので、穀物を水に溶いたポーリッジ(お粥)を作る。点魔法のコンロを出し、穀物を入れた水を火にかける。
 それが沸騰したら、チーズを溶かし、塩と薬草茶をほんの一つまみ入れる。少し多めに作る。余った分は、明朝のスープにすればよい。

 「いい匂い! お腹ペコペコです」

 ポルは、俺からお椀とスプーンを受け取ると、まず竜人の女に食べさせる。女は、まだ少し熱があるが、なんとか命を長らえたようだ。
 俺達がポーリッジを食べ終えたころを見計らって、女が声を掛けてくる。

 「なぜ、殺さない」

 「まあ、気分だな」

 俺が適当に答える。

 「私は、お前達を誘拐し、命も狙ったんだぞ」

 「ああ、誘拐はともかく、お前では俺達の命をどうこうできないからな」

 「お前は、人族が竜人に勝てると思ってるのか?」

 「自分の姿を見ろ。それから、つべこべ言わず、さっさと寝ろ。
 いつまでも、俺達の世話になろうと思うなよ」

 俺は、いつになく冷たい口調で言っておく。案の定、女は怒りに歪んだ顔をしている。怒りは、生きる気力を生むだろう。

 「ああ、ポル。そっちの部屋はお風呂だから、先に入っておいで」

 「ええっ! こんなところでお風呂に入れるの!? やったー!」

 「お湯が沸くまで待ってから入るんだよ」

 「はーい!」

 女と俺だけになったので、知りたかったことを尋ねておく。

 「獣人世界やパンゲア世界には竜人が沢山いるのか?」

 女は少しためらっていたが、意を決したように話しはじめた。

 「ああ。故郷のドラゴニアを追われた者が少なからずいる」

 「ドラゴニア?」

 「私達が今いる、この世界だ」

 「この世界には、他にも竜人がいるのか?」

 「ああ、沢山な」

 「なぜ、宝玉を狙った」

 「あの宝玉は、私達の唯一の希望なんだ。
 この世界へのポータルが無い以上、私達がこの世界に帰るにはあれしかない」

 「しかし、お前は、獣人世界にいたではないか」

 「ふふふ。一方通行のポータルならあるのさ」

 女は自嘲気味な笑いを浮かべた。

 「なぜ、お前はそれを潜った?」

 「潜ったのではない。潜らされたのだ。それこそ最も過酷な罰、『追放』だ」

 なるほど、異世界追放を罰としているのか。元の世界に帰れないとなると、かなり厳しいな。

 「異世界で、普通に暮らせばいいではないか」

 「お前は、私達の事情を知らないな。竜人が捕まると、どこかに連れていかれて帰ってこないんだ」

 「捕まえるのは、人族ではないか?」

 「ああ、そうだ。あとドワーフ族だな」

 学園都市世界だな。この女は、学園都市が変わったのを知らないから無理もない。しかし、ドワーフか。俺はまだ、出会ったことはないが、なぜドワーフが関わっているのか。


 史郎は新たな謎について考えを巡らせたかったが、あっという間に眠りに落ちてしまった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...