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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第1話 新しい家 - ポンポコ商会4号店オープン ー
しおりを挟む新編です。最初の「枕」を読むのが面倒な方は、二つ目の「---」から呼んでください。
◇
ポータルズ。 そう呼ばれている世界群。
ここでは各世界がポータルと呼ばれる門で繋がっている。ゲートとも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。
この門には、様々な種類がある。
最も多いのが、特定の世界へ飛ぶもの。
このタイプは、向こうに行った後、こちらに帰ってこられる利便性から、商業活動や外交をはじめ、一般市民の行き来にも使われる。国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。
他に一方通行のポータルも存在する。
このタイプは、前述のものより利便性が劣る。僻地や山奥に存在し、きちんと管理されていない門も多い。非合法活動するものたち、例えば盗賊や無許可奴隷商人の移動手段ともなっている。
また、まれに存在するのが、ランダムポータルと呼ばれる門である。
ある日、突然町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。そして、長くとも1週間の後には、跡形もなく消えてしまう。この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。
なぜなら、ランダムポータルは、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく一方通行であるからだ。
子供が興味半分に中に入ることもあるが、その場合は、まず帰ってくることはない。
多くの世界で、このケースは神隠しとして扱われる。
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ある少年がポータルを渡り、別の世界に降りたった。
少年の名は、坊野史郎という。日本の片田舎に住んでいた彼は、ランダムポータルによって、異世界へと飛ばされた。
そこには、地球の中世を彷彿とさせる社会があった。違うのは、魔術と魔獣が存在していたことである。
特別な転移を経験したものには、並外れた力が宿る。
現地では、それを覚醒と呼んでいた。
転移した四人のうち、他の三人は、それぞれ勇者、聖騎士、聖女というレア職に覚醒した。しかし、史郎だけは、魔術師という一般的な職についた。
レベルも1であったが、なにより使える魔法が「点魔法」しかなかった。この魔法は、視界に小さな点が見えるだけというもので、このことで、彼は城にいられなくなってしまう。
その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通して、彼は少しずつ成長していった。
初め役に立たないと思っていた点魔法も、その「人格」ともいえる「点ちゃん」と出会い、少しずつ使い方が分かってきた。
それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。
史郎はこの魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした、国王一味を壊滅させた。
安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が、一味の生き残りにさらわれ、ポータルに落とされてしまう。
聖女の行先は、獣人世界だった。
後を追いかけ、獣人世界へと向かった少年は、そこで新しい仲間たちと出会い、その協力で聖女を救いだすことに成功する。
しかし、その過程で、多くの獣人がさらわれて学園都市世界へ送られていることに気づく。
友人である勇者を追って、少年は学園都市世界へ行き、彼と力を合わせて、捕らわれていた獣人達を開放する。
しかし、秘密施設で一人の少女を見つけたことから事態は新たな展開を見せる。その少女は、エルフの姫君だった。
彼女から、エルフの世界への護衛を頼まれ、少年と彼の家族はポータルを渡る。
エルフの世界エルファリアで、彼らはエルフ、ダークエルフ、フェアリス3種族に係わる多くの謎を解き、彼らの争いに終止符を打つ。
エルフ王からもらった恩賞の中には竜人世界に由縁のある宝玉が含まれていた。
これは、そこから始まる物語である。
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エルフが住む世界、エルファリアから帰った史郎は、短期間地球を訪問した後、のんびりした毎日を過ごしていた。
エルファリアに設立した彼らの会社、『ポンポコ商会』のアリスト支店を開いたくらいで、後はギルドの依頼も受けず、ぶらぶらしていた。
『ポンポコ商会』アリスト支店は、キツネ達のグループに丸投げしてある。支店長はボスにしておいた。
彼らは、新しい仕事に胸を躍らせていた。
「アニキ。しかし、あのコケットっていうベッドって、ものすごく売れますね」
笑顔のキツネが話しかけてくる。
「しかも、あのシートってんですか? 可愛いエルフのちみっ娘が映ってるやつ。
あれが凄い評判で、あれだけ売ってくれっていう奴までいますよ」
おいおい、どの世界にもマニアがいるんだな。中には、危ないマニアもいるかもしれない。
「シート単体では絶対に売るなよ」
「へい、分かりやした」
「あれを彼女に買ってやったんですが、もうメロメロになってましたよ」
えっ!? キツネって彼女いたのか。くそう、リア充め!
『ふぅ~。ご主人様は、これだからねえ』
え? 点ちゃん、俺って変なこと言ったっけ?
『言っても分からないと思いますよ』
何が、分からないんだろう?
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今、史郎の家では、九人が暮らしている。
人族の史郎、ルル、リーヴァス。
古代竜のナル、メル。彼女達は俺とルルの娘である。
獣人世界から俺についてきた狐人族のコルナ。
エルファリアのエルフ国元王女コリーダ。
家事を手伝っている人族のデロリン、エルフのチョイス。
デロンチョコンビは、庭の隅に小さな土の家を作ってそこに住んでもらっているが、それでも家が手狭になってきた。
2階には、4部屋あるのだが、そこをリーヴァスさん、二人の娘、コルナ、コリーダで使っているので、空き部屋が無い。
1階にはキッチン、リビング、浴室の他に2部屋あり、そこをルルと俺が使っているのだが、人数の事もあり、余分な荷物などを置く場所が無い。
その分が俺の部屋の半分を占めている。
部屋が狭い。
この家は、全員で食事をする方針なので、食事時にはキッチンとリビング両方を使っている。よく遊びに来るマックが、肩身の狭そうな顔をしている。彼は体がでかいからね。
そういうことが分かっているのか、キツネ達など、誰かが討伐などで出かけているときにしかやって来ない。
さすがに、もう限界だろう。
史郎とルルは、家を買うときお世話になった不動産会社のような店に行くことにした。
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店番は相変わらず、卵型の体型をした髭のおじさんだった。
『(・π・)』
そうそう、点ちゃん、そんな感じだよね。
「ああ、家が手狭になってきたということですな」
「ええ。予定してたより、住人が増えまして」
「あそこは、あなた方が土地ごと買ってますから、なんなら新しい家を建てたらどうです。
建築業者も、こちらでご紹介できますよ」
なかなか親切なおじさんである。まあ、建築業者からお礼を受けとるんだろうけど。
「立てかえは、こちらで何とかします。ありがとうございました」
俺達は、お礼を言って店を出た。
「ルル。せっかくだから、カラス亭に寄ってかないか?」
「いいですね。行きましょう」
彼女が微笑む。
史郎とルルは、二人連れだって、ヨーロッパの古い街並みを思わせる街路を通り、懐かしい宿屋に向かった。
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「おや、あんた達。久しぶりだね」
「ご無沙汰しています」
ルルが挨拶する。
カラス亭は、俺が地球から転移した当初、ルルと一緒に住んでいた場所だ。
「ちょっと、二人して異世界に渡ってまして」
それを聞くと、宿のおかみさんは目を丸くした。
「へーっ! 異世界ねえ。あれって、なかなか許可が出ないんだろ?」
「まあ、俺達は冒険者ですから、ギルドに何とかしてもらってますよ」
「ああ、そういう手があるのかい。それはそうと、どの世界に行ってきたんだね?」
「エルファリアです」
ルルが答える。
「エルファリアってったら、エルフが住んでるんだろ。怖くないかい?」
「ははは、彼らは俺達と同じですよ」
「そういや、ものすごく綺麗なエルフの娘が町のどこかに来たって、ウチのが言ってたね」
コリーダの事だな。
「ああ、そうだよ。エルファリアの何とかって店が、コケットってベッドを売り出したんだって?
ふわふわ~ってやつ。あたしゃ、死ぬまでに一度、あれに寝てみたいねえ」
「ああ。あれ、俺達が売ってるんです。何なら差しあげますよ」
「ええっ! あんた達、そんなことまで始めてたのかい? ちょいと、お待ちよ。あんたー」
おばさんは、店の奥に、ご主人を呼びにいった。奥から、いかつい旦那さんが出てくる。
「おう。お前ら、久しぶりだな」
「あんた、この子らが、あのコケットってベッド売ってるんだって」
「えっ!? あれ、お前らだったのか」
「ええ、成りゆきで売ることになっちゃって」
「お前さん、それを一つくれるってんだよ」
「おいおい、くれるっていっても、あれは金貨2枚だろう」
日本円で言うと、200万円だね。エルファリアでは金貨1枚だが、それ以外の世界では、金貨2枚で売ることにしてある。
「俺達が困ってるときに助けてくれたお二人には、本当に感謝してるんです。
どうか、気兼ねなく受けとってください」
ルルも、笑顔で頷いている。
「そ、そうかい。悪いね。じゃ、いつかここに届くの、楽しみにしとくよ」
「いや、今すぐお渡しできますよ」
「え? すぐって言っても、あんた何も持ってないじゃないか」
「えーと、コケットはどこに置くつもりですか?」
「ちょっと待っておくれ」
二人は、少しの間、話しあっていたが、俺を自分達の寝室へ連れていった。
「ここに置こうと思うんだけど……」
さもマジックバッグであるかのように、腰のポーチに触れる。おばさんが指さした場所に、コケットを2台出した。あまりかさばるものでもないからね。
「に、二台!」
おじさんが、驚いている。
「この網の上に、こっちの袋に入っている緑色のものを敷きつめると完成です」
袋を二つ、おじさんに手渡す。
「あ、ありがとうよ。死ぬまでに、一度でもいいからこれで寝られたらいいって思ってたのに……」
おばさんは、涙ぐんでいる。
「宿屋やってて、こんなに嬉しかったことはねえな」
おじさんが、おばさんの肩を抱いている。
二人が喜んでくれて、史郎とルルは、心から嬉しかった。
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おじさん、おばさん二人がかりの異様に気合が入った料理に舌鼓を打った後、史郎とルルは新しい家について、話しあっていた。
テーブルの上には、50cm×50cmくらいの大きめの点ちゃんパレットが置いてある。
「なるべくなら、お庭は残したいですね」
「俺もそう思うよ。ナルとメルには、あの庭が必要だね。
猪っ子コリンもいるんだから、庭は広げても、狭くしたくはないね」
「でも、そうなると、一つ一つの部屋が狭くなってしまいますね」
「うーん、そうだねえ」
おばさんが、食後のデザートを持ってくる。色違いのケーキが3段になった、豪華なものである。
おいおい、結婚式並みだな。
「「あ!」」
ルルも同時に気づいたようだ。
「「3階建て!」」
声が揃う。
「ああ、特製の3階建てケーキさ。たんとお食べ」
いや、さすがにもう無理だから。
ケーキは持ち帰ることにする。
俺は、パレットに間取り図を書いていく。
「シロー、これは?」
ルルが尋ねる。
ああ、そういえば、この世界に間取り図って無かったんだ。
「これは、家の部屋を上から見た図なんだ。屋根を取りはずしてるって思えばいいかな」
「へえー、こうして上から見ると、いろんなことが分かるんですね」
俺達は、相談しながら各階を仕上げていった。
「ついでだから、地下も作っちゃおうか」
最後に地下の間取りを決める。これだけ空間があれば、俺の部屋が荷物に圧迫されることは無いだろう。最後のアイデアは、ルルを驚かせるために黙っておく。
こうして新しい家の見取り図が完成した。
「ごちそうさまでした。美味しい料理ありがとう」
「ルルちゃん、またおいで」
「おばさん、いくら?」
「馬鹿言うんで無いよ。金貨2枚もするベッド2台ももらって、金が取れるかい」
ここは、お言葉に甘えておくか。
「分かった。ありがとう。これ、俺の世界のお土産。甘いお菓子だから、お茶と一緒にね」
俺は、地球で買ってきた高級チョコレートを渡した。
「何だいこれは! 宝石の箱みたいだね。なんか、見たことのない絵が描いてるね」
まあ、写真だから。
「じゃ、ごちそうさまー」
俺とルルは、店を後にした。
振りむくと、二人が肩を寄せあい、手を振っていた。
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