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第五章 地球一時帰国編

第8話 ちょっとしたハプニング2

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 史郎が大広間に現れると、大勢の黒服が集まって、なにやら話しあっていた。

 長テーブルの向こうには、頭を抱えた畑山さんの父親がいる。

 「呼んだか?」

 俺が声を掛けると、黒服が一斉にこちらを向いた。

 「あんた、どうやってここへ。たった今まで、〇〇市にいたはずだが」

 「そんなことは、どうでもいい。用件があるなら、早く話してくれ」

 畑山さんの父親が、あごをしゃくると、黒服全員が部屋から出ていった。

 「敵対組織の奴らが、翔太を誘拐した」

 なるほど、畑山さんの弟がさらわれちゃったのか。

 「ワシは、あいつの命はもう無いと思うとる。
 じゃが、麗子の言葉を信じて、一縷の望みをお前に託してみることにした」

 ああ、畑山さん、「困ったことがあったら史郎に」なんて言っちゃってたからね。

 「何とかなるか?」

 「その組織の一人でも捕まえられるか?」

 「ああ、下っ端ならもう捕まえてある。じゃが、息子の居場所は知らんようだぞ」

 「構わない。そいつを俺に貸せ」

 「頼むぞ」

 俺は黙って頷いた。
 畑山さんの父親が手を打つと、黒服が一人入ってきた。彼が、耳打ちすると、黒服はすぐに出ていった。それほど経たずに、顔を凸凹にした男を連れてくる。そいつは、白いスーツを着ていたが、今はそれが血に染まっていた。

 「じゃ、こいつはもらったぞ」

 畑山の父親は、テーブルに両手と頭をつけた。
 昨日、俺が穴を開けたままになってる通路を通って外に出る。男は点魔法で引っぱっている。
透明化の魔術を掛け、上空へ。空の上で透明化を外す。

 「ひーっ!!」

 今まで、目をつぶっていたらしい。まあ、初めてなら怖いだろう。

 「お前、どこから来た? そこに帰してやるぞ」

 男は黙っている。
 俺は、少しの間、奴を自由落下させた。気を失った奴に治癒魔術をかけ、意識を取りもどさせる。ついでに顔の傷も治してやった。

 「な、治ってる……」

 顔を触った男が驚いている。

 「もう一回落ちとくか?」

 「いや、やめてくれ! あんた、本当に俺を助けてくれるんだな」

 「ああ」

 「じゃ、済まないが、あっちの方に連れていってくれるか」

 男が指さした方に向け飛行する。

 「あっ! この辺でいい」

 「そうか。じゃ、降ろすぞ」

 俺は上空に浮かんだまま、奴だけを地面に降ろした。男はこちらを見あげて手を振ると、すぐに駆けだした。

 彼には、特別な設定を施した点をつけてある。

 後は、待つだけである。

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 上空で待機中の史郎は、点魔法でパレットを作り、それを見ていた。

 パレットの上には、いくつかの赤い点がある。それは、逃がしてやった男が接触した人物を表している。その人物が接触した人にも点がつけられる。パレットの画面には急速に点が増えつつあった。

 数か所、点が密集している場所がある。俺はその場所の映像をもう一つのパレットに送った。

 一つ目は外れ。食品加工工場か何かだろう。沢山の人が働いている。

 二つ目で、目標が見つかった。廃工場のようなところに白服が集まっており、手足を縛られた男の子が、地面に横たわっている。まだ、暴力は振るわれていないようだ。

 「奴ら、取引する気になったか?」

 「いえ、ボス。まだです」

 「こいつの指を一本、送ってやるか」

 白服達の中心に立つ、パナマ帽をかぶった男が合図すると、二人の男が少年の横に膝をついた。
 一人が縛っていた少年の手をほどき、その片手を自分の立膝の上に乗せる。もう一人は、懐から大振りのナイフを出した。
 その男が、膝の上の少年の手を開き、小指を伸ばさせる。
 グッとナイフを下に降ろした。

 「あれ? 切れねえ?」

 隣に立っていた白服が、呆れたように言う。

 「何やってんだ。貸してみろ」

 男からナイフを手渡された白服が、勢いよくナイフを振りおろした。

 「……切れねえ。どうなってんだこりゃ」

 俺は、奴らのどまん中に姿を現した。

 「だ、誰だおめえ!」

 ボスが叫ぶ。

 俺は奴の方を向いて、静かな声で言った。

 「この子には、何の関係もないだろう。こういうのをなんて言うか知ってるか?」

 男達は、驚きで頭が働いていないようである。俺は、その頭にでも分かるように、ゆっくり話してやった。

 「理不尽だよ。こういうのは理不尽って言うんだ」

 「う、うるせえ! そ、それが何だってんだ!」

 いいね。このボス。

 「理不尽を振るうっていうのは、自分も理不尽を振るわれる覚悟があるってことだな」

 「や、やかましい! やっちまえ!」

 男達が懐からナイフやピストルを出す。

 まあ、こちらにとっては、「これが利き手です」って教えてくれてるだけなんだけどね。

 「う、動かねえ!」

 「なんだ、何が起こった!?」

 「これが理不尽だ。お前達がやろうとしたことだよ。その腕は、二度と動かないぞ。
 まあ、お前らの事だ、これだけじゃ反省はしないだろう。片足も、もらっとくぞ」

 全員がその場に崩れおちた。うるさいから、頭を蹴って気絶させておく。
 男の子を縛っていた全てのロープを切り、立たせてやる。

 「助けてくれてありがとう」

 気丈にも涙すら見せず、彼はお礼を言った。

 「翔太君、痛いところはないか?」

 「はい! 大丈夫です。あの……、ボーさんですよね」

 「あれ? 俺のこと知ってるの?」

 「はい! お姉ちゃんが、面白い人がいるって、写真を見せてくれました」

 まあ、どうせ加藤の背後に、小さく俺が映ってるやつだろうけどね。

 「じゃ、帰ろうか」

 「はい!」

 史郎は彼を抱えると、点魔法で畑山邸の大広間に瞬間移動した。

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 「坊ちゃん、ご無事でしたか!」

 「よかった!」

 黒服達が、翔太君に群がる。
 俺は、机のこちら側から動かなかった。だいたい、土足だしね。

 「麗子の言う通りだった。さすがは、ワシの娘だ」

 おじさんは翔太君を膝に乗せ、こちら向きに座らせると頭を下げた。

 「また、世話になったな。かたじけない」

 今度は、黒服達も頭を下げている。

 「あー、ついでだから」

 「のう、お前、麗子の事どう思っとる?」

 美少女の怖いお姉様かな。

 「よければ、あいつのことを……」

 彼が何を言いたいのか分かったので、口をはさむ。俺の足元には、すでにポータルの黒いもやが立ちはじめていた。

 「麗子さんには、すでに愛する人がいますよ」

 ガタっと立ちあがる麗子の父親。

 「ボーさん、ありがとう!」

 史郎が地球世界で最後に聞いたのは、翔太の明るい声だった。

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 その頃、学校では、テストの採点で遅くまで居残っていた林があくびをしていた。

 「ふぁ~っ。おっ!」

 突然、目の前に自分のスマートフォンが現れた。
 手に取ると、背面に何か貼ってある。それは、史郎達四人の縮小写真だった。ピンクのハートや、銀色の星をつけて、プリクラっぽくしてある。

 坊野のやつ、相変わらずだな。

 林はそれを眺めると、仕事の疲れが吹き飛ぶような気がするのだった。


 後にこのプリクラもどきが大変なトラブルの種となるなど、史郎も林も思いもしなかった。

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特別編「地球一時帰国編」終了 「竜人世界ドラゴニア編」に続く。




 











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