193 / 607
第五章 地球一時帰国編
第3話 報告 渡辺家
しおりを挟む史郎は、次に渡辺家を訪れることにした。
舞子の実家は神社で、父親はそこの神主をしている。俺は何度か、舞子の巫女姿を見たことがある。
木々に覆われるように建つ、神社の境内へ降りる。ここは小山の上に有るから、普通は長い階段を上らなければならない。
境内を掃いている作務衣姿の長身の男性がいた。舞子の父である。
「おじさん!」
俺が声を掛けると、眼鏡越しにいぶかしげにこちらを見ていたが、誰だか分かると、箒を投げすてて走りよってきた。
「史郎君じゃないか!」
「お久しぶりです」
「一体、今までどこにいたんだい?」
「それも含めて、舞子さんのことについて伝えたいことがあって来ました」
「そうか! まあ、とにかく上がってくれ」
小学生までは良くお邪魔したが、中学生からあまり来なくなった家である。俺は、初めて訪れる家のような感覚で中に入った。
広い座敷に通される。
おじさんは、頭に巻いていた手ぬぐいを外すと、冷えたジュースを持って来てくれた。俺が好きなジュースだ。
「まだ、これが好きならいいんだが」
そう言って出してくれる。
「舞子がこのジュースだけは切らさないようにしててね。
あの子がいなくなっても、これだけはいつも冷蔵庫に入れておいたんだ」
俺は、舞子のお母さんの容態を聞くことにした。
「おじさん、おばさんは?」
「うん。あの子がいなくなって、元気が無くなっちゃってね。とにかく、声だけは掛けてくるよ」
「舞子さんの様子をお知らせしますから、出来るならぜひ」
「ああ、ありがとう」
おじさんが部屋を出ていって少しすると、廊下をパタパタ走る音がした。ガラッとフスマが開いて、舞子のお母さんが立っていた。
舞子が、そのまま年齢を重ねたような容姿だ。青いパジャマに、白いカーデガンを羽織っている。頭は寝ぐせが付いたままだ。
「史郎君! 舞子の話が聞けるって本当!?」
「ええ。最初から詳しくお話しますね」
俺はポータルで転移した経緯から、アリストの王城に行くところまでを話した。
「それで! それで、あの子は、今どうしてるの!」
「俺が説明するより、この映像を見てもらった方が早いでしょう」
俺は点魔法で壁にシートを出すと、それに舞子の動画を映した。それは、舞子が獣人世界を訪れた時、歓迎を受けた様子が映ったものだ。獣人の群衆を前に、演台に上がった舞子が堂々と話している姿が映っていた。
「こ、これがあの子?」
腰を浮かせて見いっていたおばさんが、ペタンと腰をつく。
「史郎君、これ、特撮映像じゃないよね」
まあ、これだけ変わっている舞子をすぐには信じられないのだろう。
「違いますよ。俺もこの場にいましたから」
「なんで舞子は、こんなにも歓迎されているの?」
「それはもちろん、この国の人達に好かれているからですよ」
「ど、どうしてそんなことに……」
二人は、我が娘ながら、立派になった彼女が信じられないのだろう。
「この群衆が集まっている広場がありますよね。ここ、実は建物が立っていたんですよ」
俺は、驚いた顔のままの二人に話しかける。
「舞子さんを歓迎するために、現地の人達が全部壊して広場にしちゃったんです」
「こんなにも立派になって……」
おばさんは、スクリーン上で動いている舞子の顔に手で触れている。
「私達は、この世界に行けないのかい?」
おじさんが聞いてくる。
「残念ながら。一定時間が過ぎれば、俺も向こうに帰らなければなりません」
「そうか。ねえ、敦子。
私達が、もしこの世界に行けるようになった時、舞子に元気な姿を見せてやりたいと思わないかい」
おじさんは、彼女の背中に手を置いて優しく語りかけた。
「史郎君、それができると思う?」
おばさんが、すがるような目を俺に向ける。
「今すぐには無理です。でも、なんとかその方法を探してみます」
「この子の事は、小さいころからよく知っているだろう。舞子の事で、嘘をつくような子じゃない」
「ええ、分かってるわ。舞子に会えるように、元気にならなくちゃ」
舞子のお母さんは、さっきより顔色が良くなっている。この様子なら、きっと床から離れる日も近いだろう。
舞子が、聖女として多くの人を救い、病気を治していることも伝えた。
「人を治す聖女の母親が病気じゃいけないものね」
最後には、彼女にも微笑みが戻っていた。
俺は二人から舞子へのメッセージを映すと、畑山の家に向け、空へと昇った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
328
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる