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第五章 地球一時帰国編

第3話 報告 渡辺家

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 史郎は、次に渡辺家を訪れることにした。

 舞子の実家は神社で、父親はそこの神主をしている。俺は何度か、舞子の巫女姿を見たことがある。
 木々に覆われるように建つ、神社の境内へ降りる。ここは小山の上に有るから、普通は長い階段を上らなければならない。

 境内を掃いている作務衣姿の長身の男性がいた。舞子の父である。

「おじさん!」

 俺が声を掛けると、眼鏡越しにいぶかしげにこちらを見ていたが、誰だか分かると、箒を投げすてて走りよってきた。

 「史郎君じゃないか!」

 「お久しぶりです」

 「一体、今までどこにいたんだい?」

 「それも含めて、舞子さんのことについて伝えたいことがあって来ました」

 「そうか! まあ、とにかく上がってくれ」

 小学生までは良くお邪魔したが、中学生からあまり来なくなった家である。俺は、初めて訪れる家のような感覚で中に入った。
 広い座敷に通される。
 おじさんは、頭に巻いていた手ぬぐいを外すと、冷えたジュースを持って来てくれた。俺が好きなジュースだ。

 「まだ、これが好きならいいんだが」

 そう言って出してくれる。

 「舞子がこのジュースだけは切らさないようにしててね。
 あの子がいなくなっても、これだけはいつも冷蔵庫に入れておいたんだ」

 俺は、舞子のお母さんの容態を聞くことにした。

 「おじさん、おばさんは?」

 「うん。あの子がいなくなって、元気が無くなっちゃってね。とにかく、声だけは掛けてくるよ」

 「舞子さんの様子をお知らせしますから、出来るならぜひ」

 「ああ、ありがとう」

 おじさんが部屋を出ていって少しすると、廊下をパタパタ走る音がした。ガラッとフスマが開いて、舞子のお母さんが立っていた。
 舞子が、そのまま年齢を重ねたような容姿だ。青いパジャマに、白いカーデガンを羽織っている。頭は寝ぐせが付いたままだ。

 「史郎君! 舞子の話が聞けるって本当!?」

 「ええ。最初から詳しくお話しますね」

 俺はポータルで転移した経緯から、アリストの王城に行くところまでを話した。

 「それで! それで、あの子は、今どうしてるの!」

 「俺が説明するより、この映像を見てもらった方が早いでしょう」

 俺は点魔法で壁にシートを出すと、それに舞子の動画を映した。それは、舞子が獣人世界を訪れた時、歓迎を受けた様子が映ったものだ。獣人の群衆を前に、演台に上がった舞子が堂々と話している姿が映っていた。

 「こ、これがあの子?」

 腰を浮かせて見いっていたおばさんが、ペタンと腰をつく。

 「史郎君、これ、特撮映像じゃないよね」

 まあ、これだけ変わっている舞子をすぐには信じられないのだろう。

 「違いますよ。俺もこの場にいましたから」

 「なんで舞子は、こんなにも歓迎されているの?」

 「それはもちろん、この国の人達に好かれているからですよ」

 「ど、どうしてそんなことに……」

 二人は、我が娘ながら、立派になった彼女が信じられないのだろう。

 「この群衆が集まっている広場がありますよね。ここ、実は建物が立っていたんですよ」

 俺は、驚いた顔のままの二人に話しかける。

 「舞子さんを歓迎するために、現地の人達が全部壊して広場にしちゃったんです」

 「こんなにも立派になって……」

 おばさんは、スクリーン上で動いている舞子の顔に手で触れている。

 「私達は、この世界に行けないのかい?」

 おじさんが聞いてくる。

 「残念ながら。一定時間が過ぎれば、俺も向こうに帰らなければなりません」

 「そうか。ねえ、敦子。
 私達が、もしこの世界に行けるようになった時、舞子に元気な姿を見せてやりたいと思わないかい」

 おじさんは、彼女の背中に手を置いて優しく語りかけた。

 「史郎君、それができると思う?」

 おばさんが、すがるような目を俺に向ける。

 「今すぐには無理です。でも、なんとかその方法を探してみます」

 「この子の事は、小さいころからよく知っているだろう。舞子の事で、嘘をつくような子じゃない」

 「ええ、分かってるわ。舞子に会えるように、元気にならなくちゃ」

 舞子のお母さんは、さっきより顔色が良くなっている。この様子なら、きっと床から離れる日も近いだろう。

 舞子が、聖女として多くの人を救い、病気を治していることも伝えた。

「人を治す聖女の母親が病気じゃいけないものね」

 最後には、彼女にも微笑みが戻っていた。


 俺は二人から舞子へのメッセージを映すと、畑山の家に向け、空へと昇った。
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