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第五章 地球一時帰国編

第2話 報告 加藤家

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 史郎は加藤の家に向かって空を飛びながら、林先生から聞いた話を思いだしていた。

 俺達が姿を消してすぐは、少し離れた大きな町に四人でカラオケにでも行ってるんだろうと思われていたらしい。
 さすがに3日が過ぎると周囲が慌てだして、大騒ぎになったそうだ。一番騒いだのが畑山の親で、政治家まで動かすほどの捜索やキャンペーンを行ったそうだ。舞子の母親は、心配の余り床に伏せてしまった。加藤の親は、きっとあの子なら大丈夫だろうと、泰然自若の様子だったそうだ。

 加藤の家が見えて来る。通いなれているから、どこに誰の部屋があるかもよく知っている。けれども、俺は正面玄関からお邪魔することにした。
 呼び鈴を鳴らす。

 「はーい!」

 聞きなれた声がして、加藤の母親が現れた。だるまさんのような体形で、笑いえくぼがある。まさに、「おっかさん」という感じだ。
 俺は透明化したまま、彼女が明けたドアから中に入る。

 「あれ? 誰もいないのかい?」

 おばさんは、半身を外に出して、キョロキョロ見まわしている。

 「子供のいたずらかねえ」

 彼女がドアを閉めた瞬間、透明化の魔術を切る。

 「わっ! もう、びっくりするね! 誰だい、あんた」

 「おばさん、俺だよ、俺」

 俺が、頭の布を外す。

 「史郎君! 一体どこ行ってたんだい! 心配してたんだよ」

 俺には、その言葉が本当にありがたかった。

 「今日は、そのことでお話があって来ました」

 「ささ、とにかくお上がんなさい」

 彼女は、廊下にスリッパを揃えて置いた。
 これまでも、たびたびお邪魔した客室に通される。お茶とお茶菓子を持って、おばさんが入ってくる。
 ソファーに座った俺は、お礼を言って一口お茶を飲むと本題に入った。

 「おばさん、俺達がいなくなって驚いたでしょ」

 「まあ、ちょっとはね」

 「どうしてそうなったか、話しにきたよ」

 「ありがとうね。じゃ、聞かせとくれ」

 俺は教室にポータルが開いたところから、アリストの城下町にたどりつくまでをざっと話した。

 「あのバカ! やっぱり、あの子が原因だったのかい。ここに居たら、ひっぱたいてやるのに」

 我が子と同じように、よその子を心配する。立派な母親の姿がそこにあった。俺自身、この世界にいる時、どれほど彼女に救われたか知れない。

 「彼は、マスケドニアという国で、王様の友人として滞在しています」

 「へえ、あの子がねえ」

 「ミツさんっていう恋人もできたんですよ」

 「はーっ! 信じられないねえ。あの子を好きになってくれる娘がいるなんて」

 「あいつは、どこに行ってもモテモテですよ」

 「あんたの話は信じられるけど、そこだけは信じられないねえ」

 「あのー、こんな話を信じてくれるんですか?」

 「ああ、だって史郎君は、雄一の事で嘘をついたことないじゃないか」

 俺は思わず胸が熱くなり、涙を隠すのに顔を両手で覆った。

 「あんたの方は、向こうでどうしてるんだい?」

 「ああ、俺にも家族が出来ました」

 それを聞いたおばさんは、立ちあがって俺の頭を抱いてくれた。

 「そうかい。よかったねえ。よかったねえ」

 俺は涙が止まらなくなってしまった。おばさんが、タオルで顔を拭いてくれる。

 「ああ、そうだ。これを見せなくちゃ」

 俺は、点魔法で大きめのスクリーンを作った。

 「はー! 便利だねえ。これが魔法ってやつかい?」

 「そうです。では、映しますよ」

 画面には、王宮の豪華な部屋で、マスケドニア王と並んで立つ加藤の姿があった。

 おばさんが、身を乗りだして見ている。

 『あー、かあちゃん。見てるか? ここは異世界のマスケドニアって国だ。
 俺は、この方にお世話になってる』

 マスケドニア王が話しだすが、お母さんには通じない言葉だ。俺が同時通訳する。

 『本当は、かあちゃんに紹介したい人もいるんだが、それは次の機会にするよ』

 加藤は頭を下げると、こう言った。

 『俺、異世界に来てから、なんでも自分でやらなきゃならなくて、かあちゃんの有難さがよく分かった よ。
 今まで、ありがとうね。俺は勇者として元気にやってる。心配しなくてもいいよ。
 かあちゃん、風邪引くなよ。とうちゃんと仲良くな』

 映像はそこで終わっていた。

 「あの子は、ホント馬鹿だよ。馬鹿な子だ……」

 おばさんの声が震えている。俺は、彼女の背中を撫でてあげた。

 「この映像は、俺が向こうに帰ると消えちゃうんで、こういうのも用意しておきました」

 加藤とミツが仲良く並んで微笑んでいる点ちゃん写真を渡した。

 「史郎君、ありがとうね。しかし、この娘さん、あの子の彼女にゃ美人すぎないかい?」

 「ははは、彼女は雄一君の事が物凄く好きなんですよ」

 「信じられないねえ」

 彼女は、しばらくその写真に見いっていた。

 「ああ、そうだ。夕飯食べてお行き。どうせなら泊ってけばいいじゃないか」

 「おばさんのご飯、すごく美味しいから、おれもそうしたいんですが……。
 まだ、他の二人の所も回らないといけないんで」

 「そうかい? ウチのにも話をして欲しかったんだがね」

 「この次、もし来ることができたらぜひ。来てよかったです。おばさん、ありがとう」

 「そりゃ、こっちのセリフだね。あ、そうそう。ちょいとお待ち」

 おばさんは、奥に引っこむと、間もなく出てきた。手には、風呂敷包がある。

 「持ってお行き」

 「ありがとう!」

 よくここを訪れていた、少年時代に戻ったような気がした。
 ちょうど辺りに人がいなかったので、姿を消さずに空へ上がる。


 加藤の母は、史郎が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
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