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第四章 聖樹世界エルファリア編
第54話 フェアリスの涙
しおりを挟む史郎達は、鉱山都市のポータルに出てきた。
いつもの案内役の少年が、俺達を階段へと導く。
「こ、こちら・です」
少年は、ぎこちなく声を出す。
俺は礼を言って彼の頭を撫でると、階段を下りる。皆が後に続く。
ギルドのドアを開けたが、マックの出迎えは無かった。今回は、ケーナイのギルドへ挨拶もせずにすぐにポータルを渡ったからね。
俺は、鉱山都市ギルドの建物前に、点ちゃん2号を出した。バス型なので、全員が乗っても大丈夫だ。とりあえず、アリスト王城の城下町にあるギルドへ向かう。
異世界が初めてのフィロさんとコリーダは、興味深げに外を眺めている。
点ちゃん2号は、ものすごい勢いで道を飛ばす。
地面から浮いているから、いくらでもスピードは出るんだけどね。
ものの30分も掛からず、ギルドに着く。
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点ちゃん2号を消した俺は、フィロさんとちょっと打あわせすると、いつも開いているドアから中に入った。
「お! ルーキー、久しぶりだな」
「お前、ルーキーは止めろや。黒鉄のシローだぜ」
冒険者達に、さっそく歓迎される。いつものギルドである。
奥からギルドマスターのキャロが出てくる。今回、エルファリアの地で分かったけれど、彼女はフェアリスという種族だった。
「キャロ、ただいま」
「シロー! 帰って来たのね。
ミランダ様から、向こうでの活躍は聞いてるわ。
うちの黒鉄ランク二人が大活躍して、私も鼻が高いわよ」
「シロー、あんまりキャロちゃんに心配かけんなよ!」
「ああ、そうだぞ。次に心配かけたら、お前の代わりに俺が依頼受けるからな」
「って、お前まだ銀ランクじゃねえか」
「そうだった、がははは」
俺は今まで散々驚かされてきた、そのお返しをすることにした。
「キャロ、目を閉じてくれる?」
「何だろう。何かくれるの?」
俺が合図すると、フィロさんが闇魔術を解いて、キャロの目の前に現れた。キャロは目を閉じているから、気づいていない。冒険者達は、ざわついているけどね。
「目を閉じたまま手を伸ばしてごらん」
キャロが素直に手をのばす。フィロさんの肩に手が触れる。手を次第に上げて、両手で顔を挟むようにする。
「なに、これ、もしかして……」
「キャロ、元気だったかい?」
フィロの言葉だけで、十分だった。
キャロは目も開けず、父親の胸に飛びこんだ。
「お父さん!!」
二人とも顔が涙でぐしょぐしょである。
「シロー! お前、キャロちゃん泣かせたな!」
事情がよく分かっていない冒険者は、カーっと頭に血が昇っている。
「馬鹿っ、シローが、キャロちゃんのオヤジさんを連れてきたんだよ」
「え、そうだったの? ごめんごめん」
受付のお姉さんが出てきて、二人を個室に連れていく。
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「シロー、エルファリアに行ってたんだろ? 向こうでの事、聞かせてくれよ」
冒険者達が期待を込めた目でこちらを見てくる。
長くなりそうなので、リーヴァスさんに頼んで、ルル、ナルとメル、デロンチョコンビ、コリーダ、コリンを家に送ってもらう。
この世界に置いておいた点を使って、既に庭の隅に小さな「土の家」を作ってある。
これは、デロンチョ用だ。
ギルドに居ながらにして、そういうことが出来るのだから、点ちゃんは本当にすごい。
~(*´∀`*)~
俺が話しても、ぱっとしないだろうから、コルナに代役を頼む。
小柄な彼女は、靴を脱ぎ、ギルドの丸テーブルの上に立つと話しはじめる。冒険者達は、一気に話に引きこまれる。皆、上気した顔で、彼女が次の言葉を発するのを待っている。
コルナは、スキル関係や娘達の変身など、話せないところは省いて物語る。皆、その場にいるような感覚で聞いているようで、一斉にしゃがんだり、体を傾けたりするのが面白かった。
途中、討伐から帰ってきたハピィフェローの面々も、聞き手に加わる。
みんなのテンションが最高潮に達したのは、戦闘より恩賞の場面だった。
リーヴァスさんが、名誉侯爵位と土地をもらったところで、大歓声が上がる。この辺、実利に聡い冒険者らしいよね。
コルナも自身の恩賞の所で、拍手喝さいを受け、くるりと回って礼をしている。
ルル、ナル、メルの恩賞の場面になると、叫び声が上がる。
「王族の宝石選び放題!! すげー!」
「シロー、宝石見せてくれよ」
ルルが持っていると断って、その場をごまかす。宝石1つが金貨1億枚とか言ったら、みんな気絶しちゃうからね。
コルナの話は、俺が恩賞を受けた場面に差しかかる。皆が身を乗りだして、聞いている。俺が名誉騎士になったと聞いた途端、ブーイングが起こる。
「なんだそりゃ。土地も、もらえないのかよ」
「食えねー称号だな」
ひどい評価である。まあ、俺も同感なのだが。
話が、目録のところへ来る。皆の目がらんらんと輝きだす。
俺が剣をリーヴァスさん、鎧をルル、杖をコルナにあげたと聞くと、罵声まで飛んだ。
「なにやってんだ! もったいねえ。宝物庫のお宝なんだろ。俺だったら、売って儲けるのに……」
「馬鹿だねー、欲が無いにも程があるぜ」
俺がコルナの「月の杖」を出し、それを彼女に渡すと、歓声が上がった。
「すげえ! どう見ても伝説級だぜ」
「あんな杖、見たことねえな」
「すごいよ。ボクも欲しいな」
最後のセリフは、ハピィフェローの魔術師ナルニスだな。
杖を掲げたコルナが、最後の恩賞の話を始める。杖に治癒魔術の光をまとわせ、それを振りまわすという力の入れようだ。
冒険者達は、夢中で聞きいっている。
「そして、シローはエルフの姫君に向かい、こう言ったのです」
コルナはここで、タメを入れた。
「では、『鳥かご』を出て大空に羽ばたきましょうか」
一瞬の静寂の後、爆笑が巻きおこる。
「いくら何でも、その口説き文句はないよな」
「ないない」
「ひでえな~」
みんなボロクソに言ってくれる。
そこで、ブレットがぼそりと言った。
「けど、それって、エルフの姫君を手に入れたかもしれないってことだろ」
場が、シーンとなる。しばらく静寂が続いた後、ブレットが恐る恐るといった風で俺に尋ねる。
「シロー、相手の姫君は、どう答えたんだ?」
俺は観念して、正直に言った。
『ええ、一緒にね』
男どもから、特に独身の男どもからブーイングが起きる。
「ありえねー。さっきの口説き文句で、受けちゃうのかよ」
「リア充死すべし!」
「ルルちゃんは、どうなるんだよ」
「そういえば、さっき戸口のところに、褐色の肌の物凄く綺麗な娘さんがいたけど、まさか、あれが姫君じゃないよな」
「あの美少女なら、俺はシローを一生許さん!」
「そうだ! 男の敵だ!」
絶体絶命の窮地に、天の助けが現れた。キャロである。
「みなさん、そのくらいしてあげてね。シローは、私のお父さんを連れてきてくれたんだから」
「キャロちゃんの頼みじゃ、断れねえな」
「くそう、もうすこしでリア充を……」
「ま、ここはキャロちゃんに免じて勘弁しとくか」
なんか、最後は俺が悪人で、なんとか皆から許されたみたいになっちゃった。
『だから、ご主人様は悪人なんだよー』
えっ、点ちゃんまで……。俺に味方は、いないのか。
せっかくだから、皆にフェアリスの酒を出してやる。
一口飲んだキャロが、歓声を上げる。
「懐かしい味! 『フェアリスの涙』ね」
「「ええっ!!」」
酒に詳しい冒険者から驚きの声が上がる。
「そ、それって、『妖精酒』のことですよね」
「ええ、そうよ。でも私達の間では『フェアリスの涙』で通ってるわ」
キャロが説明すると、唸り声が上がる。
酒に詳しくない冒険者が尋ねる。
「それって、凄いのか」
隣に立っている、ベテランの冒険者が自分のグラスを指さす。
「まあ、これで金貨1枚(約100万円)は下らんぞ」
「「ええっ!!」」
俺も一緒に声を上げてしまった。そんなに高いのか。
もしかして、それを『ポンポコ商会』が一手に扱うとなると……。
とんでもない事になるんじゃないか?
応援ありがとうございます!
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