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第四章 聖樹世界エルファリア編

第53話 黒竜王の涙

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 史郎達一行は、『聖樹の島』のポータルから入り、狐人領のポータルへ出てきた。

 そこでは、コルナの妹コルネが待っていた。

 「お姉ちゃん!」

 コルナとコルネが抱きあう。

 「コルネ。コルナは、向こうで大活躍だったんだよ。君にも見せてあげたかったなあ」

 俺が言うと、さっそく姉が活躍した話をせがまれる。評議会でエルフの大男を黙らせた場面にくると、コルネは歓声を上げて喜んだ。

 「この方は、エルフ国で子爵位を授けられました」

 コリーダが、礼をしながら説明する。

 「え! お姉ちゃん、エルフの貴族になったの?」

 「そうだよ。すごいだろう」

 俺が言うと、さらに飛びあがって喜んでくれた。

 「ところで、この方はだれ?」

 「ああ、俺たちの仲間になったコリーダだよ」

 コルネが、ちらりとこちらを見る。

 「で、シローとの関係は?」

 「妻です」

 「えっ!?」

 「私は、シローの妻です」

 「ええっ!」

 コルネが絶句している。彼女は、やっと自分を取りもどすと、叫びだした。

 「お姉ちゃん、だからシローはやめとけって言ったのよ! この、女たらし!!」

 最後の言葉は、俺の顔に向かって投げかけられた。
 理不尽じゃない? 女たらしでもないのに、そう言われるのって。

 『やれやれ、これが典型的な女たらしですね』

 えっ! 点ちゃんまで、そんな……。

 そのとき、文官のホクトが現れた。

 「皆様、お帰りなさい。宴(うたげ)の用意がしてあります。こちらへどうぞ」

 ホクトの言葉に救われた史郎は、素早くその後についていく。

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 大広間は、今回も円形に座布団が敷いてあり、そこに獣人の長(おさ)達(たち)が待っていた。

 皆が、深々と礼をする。この礼は、二人の娘に対するものである。彼らは、ナルとメルが古代竜だと知っているからね。

 憮然(ぶぜん)とした顔のまま、コルネが席に着く。

 食事が始まると、皆がエルファリアでのことを聞きたがった。
 俺は、コルナの活躍中心に話をした。皆、身を乗りだして聞いている。コルナが活躍する場面になると、わっと歓声が上がる。

 獣人達のこういうとこ、好きだな。
 俺は、そういうことを考えていた。

 すると、コルナが立ちあがり、他のメンバーの活躍を語りだした。どのメンバーも目の前にいるので、説得力がある。コルナの語りが、またうまい。抑揚をつけ、時には歌うように話を進める。
 ダークエルフ大侵攻の場面は、皆が手に汗握る様子で聞きいっている。
 娘達が、100匹のグリフォンを支配した場面に来ると、ものすごい歓声が上がった。

 「さすが、古代竜様!」

 「100匹のグリフォンを! 凄すぎる」

 「さすが『伝説の知恵』。ニャッ!」

 恩賞の話になり、コルナがエルフ国の領地と子爵位をもらったというところで、また拍手が起こった。
 ルルと娘達がもらった恩賞の話になったとき、猫賢者が突然パッと立ちあがった。

 「そ、その黒い玉を見せてもらえるか。ニャ?」

 いつも冷静な彼にしては珍しい。
 ルルが、腰のポーチから3つの玉を出す。恭しくそれを手に取った猫賢者の顔色が変わる。

 「こ、これは!!」

 「賢者様、それは何ですか?」

 コルナが尋ねる。

 「ま、間違いない! これは『黒竜王の涙』だ。ニャン」

 「その『黒竜王の涙』とは、何です」

 俺はその名前が娘達と関係あるような気がして不安になる。

 「伝説の宝玉じゃ。これ一つを争って、いくつの国が滅んだことか」

 「それが3つも?」

 「長く行方が知れなんだが、エルファリアにあったとは。ニャニャ。
 これは見かけは宝玉じゃが、実は普通の宝石ではない」

 「では、何です?」

 「はっきりしたことは分からんが、ポータルに関係ある力を秘めているらしい」

 「ポータルに?」

 「伝説の一つでは、こう言われている、ニャ。『3つの宝玉が揃えば、竜人国への門が開く』と」

 なるほど、貴重なもののようだ。

 「ワシに財力があれば、一つ買い取って研究するのじゃが……」

 「一つがいくらくらいするのです?」

 「安く見積もって、金貨1億枚かの」

 って、3つで3億枚か! 日本円に換算すると約3兆円。どんだけ高いんだよ。

 「しかし、伝説通り3つ揃ったとなると、3億枚ではきくまい」

 ひーっ! なに、それ!?

 「コルネ殿。このことを秘密にするよう、さっそく獣人会議を開いた方がいいの」

 「分かりました」

 「シロー殿、その宝玉を狙ってありとあらゆる者が現れるぞ。気を付ける。ニャ」

 最後の一言で、緊張感台無しだけど、まあアドバイスしてくれるのはありがたい。彼から三つの玉を受け取った俺は、さっそく点収納にしまっておいた。

 猫賢者の勧めに従い、俺達はすぐに空路で犬人族の町、ケーナイに飛んだ。

---------------------------------------------------------------------

 史郎達は、アンデと舞子に挨拶する間も惜しんで、ポータルに向かった。

 俺、ルル、二人の娘、リーヴァスさん、コルナ、コリーダ、コリン、デロンチョコンビの二人。これにフィロさんを加えて総勢10人と1匹がポータルを渡る。
 ミミとポルは、家族に会ってから合流する予定だ。

 狭い部屋は、人で一杯である。さすがにこれだけいると、書類の手続きも大変である。1時間ほど待ち、俺達はやっとポータルを渡る許可をもらった。
 リーヴァスさんを先頭に、ルル、二人の娘、コルナ、デロンチョコンビが次々とポータルへ入る。フィロがポータルを潜ると、後は俺とコリーダ、コリンだけになった。

 コリンを片手で抱えたコリーダが、もう一方の手で俺の手を握る。俺達は、互いの目を見て同時にこう言った。

 「「一緒に」」

 こうして、全員がポータルに消えた。


 ポータル部屋の係官である犬人ワンズが、書類を整理していると、突然ドアが開けられた。
 冒険者姿の犬人が、血相を変えて入ってくる。

 「ギルドから来た。シロー殿とその一行は?」

 「たった今、ポータルを渡りましたよ」

 「なにっ! 遅かったか……」

 男は、書類を揃えているワンズの首筋をチラリと見る。手が腰の短剣に掛かっている。
 ちょっと考えてから、冒険者は短剣から手を離した。ポータルがある建物を出ると、『聖女広場』が広がっている。

 「何としても、宝玉を手に入れなければ……」


 男の姿は、賑(にぎ)わう聖女広場の人ごみに紛れてしまった。
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