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第四章 聖樹世界エルファリア編
第44話 ブレイク
しおりを挟む史郎は、サーシャの映像が入ったシートを、王都の上空から大量にばらまいた。
シートは、すぐに捨てられないように、計算機の機能も付けてある。この国の住民が、計算を比較的苦手とすることから閃いたアイデアだ。
宣伝効果が楽しみである。
今日、俺の家族は、六人揃って久しぶりに町に来ている。こまごました買い物や、久しぶりの外食をするためである。
食事の店は、パリスとロスのおすすめから選んだ。こういう事は冒険者が詳しいからね。ちなみに、ギルドへ依頼を出して、この二人も商会で働いてもらっている。
目的の店は、大通りのかなり高い所にあった。エルフの住居は、球状で、通路沿いの木に挟まるように造られている。位置が高い場所は、他の世界に例えると、裏通りに当たる。
「このプチプチ、おいしー!」
メルは、ここのスープが気に入ったようだ。
「なかなかの味ですな」
リーヴァスさんが評価するなら、ここの料理は本物だね。
「おや、珍しいね。あんた達、人族かい」
店のおばあさんが、声を掛けてくる。
「ええ、そうです。ここの料理は素晴らしくおいしいですね」
「ははは。そうだろう、そうだろう」
彼女は、美味しそうに食べるメルの頭を撫でてくれる。
「ところで、あんた達。『ポンポコリン』ってパーティ、知ってるかい?」
「……ええ、まあ」
「ダークエルフからこの町を守ってくれたそうじゃないか。
リーダーのシローってのは、ハンサムな大男らしいね」
ゴホッゴホッ
コルナが、料理を喉に詰まらせたようだ。
「私がもっと若ければね~」
ゴホッゴホッ
今度は、ルルが咳こんでいる。
「そうそう。 これ知ってるかい?」
彼女は、前掛けのポケットからシートを取りだす。タップすると、可愛い声でコケットの宣伝をしているサーシャが映った。
『ふわふわ~♪』
店のおばあさんは、映像を消すと大事そうに、またポケットにしまった。
「わたしゃ、死ぬまでに一度、この『コケット』とか言うのに寝てみたいねえ」
おばあさんは、うっとりした顔をした。
ゴホッゴホッ
リーヴァスさんも何か喉に引っかかったようだ。
「これを売ってる『ポンポコ商会』っていうのには、さっき言ってた、『ポンポコリン』ってパーティーが関わっているようだから、信用も置けるしね」
料金を払うとき、店の奥からお爺さんが出てきた。彼が料理を作っていたのだろう。俺に小声で話しかけてくる。
「実は、もう少しで、あいつの誕生日なんでさ。
その時、あの『ふわふわ~』ってやつを買って、驚かせようと思ってるんで」
「それは、きっと喜んでもらえますね」
史郎達は、お腹だけでなく、心まで満たされて、その店を後にした。
-------------------------------------------------------------------
チラシを投下してから一週間、史郎達の『ポンポコ商会』は、窮地に立たされていた。
余りにも大量の注文に、コケットの生産が追いつかないのだ。
在庫ゼロである。
俺は、最後の手段を取ることにした。点魔法で、大量の自立型ハンモックを作る。これは、一瞬でできるから、とりあえずの注文はさばける。代替品の販売は、一か月後から始めることにした。
問題は、俺がこの世界を離れると、その点魔法で作ったものが消えてしまうかもしれないということだ。
だから、正規品が出来るまでの繋ぎでしかない。順次、正規品と入れかえていかなくてはならない。
『ポンポコ商会』は、コケットの注文を、全て予約制に切りかえた。
納期不定でも構わないという人からだけ、注文を受けることにした。
-------------------------------------------------------------------------
史郎は、『南の島』を訪れていた。
俺達がこの世界を離れた後のことを考え、ナーデ議長に緑色の苔を調べている研究者を紹介してもらった。
ダークエルフにしては、太って背が低いモーダ博士は、今まで見向きもされなかった自分の研究のことについて聞かれ、戸惑っていた。
「この緑の苔は何と言うんです?」
「ああ、それは『緑苔』と呼ばれとるよ」
そのままだね。
「これの生育スピードは、どのくらいですか?」
「おや? そんなことまで知りたいのか?
そうだの。場所にもるが、『緑山』の辺りだと、1年間で成長するな」
一年か、なかなかいいぞ。
「この繁殖地はどこですか?」
「他の大陸のことは分からんが、『南の島』なら、寒冷地の北側300km~500kmの帯状の地域だの。
代表的な群生地は、『緑山』じゃが、他にもいくつかそういった場所が見つかっとる」
「博士。もしかすると、この『緑苔』が、ダークエルフの人々を救うかもしれないんです。
更に研究の方を進めてください。ナーデ議長には、研究費増額をお願いしておきます」
「なんと、この『緑苔』がな……」
モーダ博士は、カプセルの中で育てている苔を感慨深げに眺めていた。
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緑苔の生育スピードが分かったので、史郎は再び緑山を訪れ、大量にそれを採取した。
この量なら、注文分を補って余りが出る。
ついでにポータルを渡って、学園都市世界の群島のポータルも確認しておく。これまでの情報通り、ポータルは学園都市の北東海上に浮かぶ群島に通じていた。これは、双方向のポータルだから、貿易に利用できそうだ。
俺は、ナーデ議長とミランダさんに会って、コケットの販路拡大について話しておいた。
二人は、史郎の話を聞いて目を丸くしていたが、行きづまった『南の島』の起死回生の策になるかもしれないと分かると、もろ手を挙げて協力を約束してくれた。
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エルファリアでの仕事に目途がついたということで、史郎は家族を連れて、バカンスを楽しむことにした。
目的地は、学園都市世界の群島である。
話を聞いたミミとポルが、飛びあがって喜んだ。
二人は以前、島で遊んだ事があるからね。
コルナは、「必殺の水着」があるとかで、含み笑いしていた。
ルルに、彼女自身と娘達の水着を用意してもらう。エルファリアには海水浴の文化がないから、王室御用達の洋服店で、一点ものを仕立ててもらった。
リーヴァスさんは、騎士団がどうしても離してくれなくて、今回は王城に残る。大侵攻時のプーダ将軍との一騎打ちは、騎士達にとって物凄く刺激になったらしい。騎士達は、それまで以上に彼を崇めるようになっていた。
リーヴァスさんは、彼だけがバカンスに行けないのを、苦笑いしながら残念がっていた。
「ルル達を頼みますぞ」
「はい。次は、ぜひご一緒しましょう」
史郎は、久しぶりの休暇に心が浮きたつのだった。
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