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空知音

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第四章 聖樹世界エルファリア編

第38話 ダークエルフ侵攻1

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大攻勢の前日は、静かに過ぎていった。


嵐の前の静けさとは、このことであろう。

パーティ・ポンポコリンも、すでに準備を終え、明日に向け細かいところの確認に移っている。
パーティは、リーヴァスさん率いる、ミミ、ポル、コルナの四人班と、ルル、ナル、メルの三人班に分けた。 

ルルの班には、五匹のワイバーンが所属する。 
娘達は、明日わずかな時間だけ参加するが、安全には万全を尽くした。

俺は遊撃ということで、一人だけ別行動する。
まあ、俺は点ちゃんと一緒だから、一人とは言えないけどね。


ナーデ議長から、念話が入る。

『シロー、聞こえるか』

『ええ。どうぞ』

『全て予定通りに進行している』

『攻撃は明日ですね』

『そうだ。こちらは何もできないから、君に任せるしかない』

『まあ、できるだけのことは、やってみますよ』

『命を粗末にするなよ』

『ありがとうございます』


俺は、さっそくモリーネに侵攻が予定通り明日行われることを念話で告げておいた。


その日、史郎は苔のベッド、コケットで初めて寝ることができたが、余りの寝心地の良さに、横になってすぐ眠りに落ちたので、何か納得できなかった。

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エルフ王国建国祭当日。


城下町では、早朝から多くの人出があった。

今回、屋台などは、城の西エリアから北西エリアに出される。
このことで、住民を戦闘地域から遠ざけることができる。

城の東側から南側にかけては、大規模な軍事訓練を理由に立ち入り禁止となっている。
これも、ぎりぎりになって王城から連絡が来たので、祭りの関係者は大変だったはずである。

日が高くなり、祭りの人出が最高に達した頃、城の東に赤い煙が立ちのぼった。
これは、獣人世界ケーナイのギルドで教えてもらった連絡法である。


待機しているエルフの軍勢に緊張が走る。煙は、ダークエルフ侵攻が始まったことを意味するからだ。

最初に、王城南側の森から無数の魔獣が現れた。
城と森の間にはひらけた土地があるが、そこを魔獣が埋めつくしていく。

魔獣を操るのは、闇魔術の名手として名高い、ラシンダ将軍である。
魔獣での攻撃に失敗したメリンダを処罰した、彼女の上司でもある。

「はははは! 行け行けー! 敵を蹴ちらしてしまえ」

森の端で高笑いしていたラシンダの顔色が変わる。

「な、何が起きた!?」

自分と魔獣達とのコンタクトが、ぷつりと切れた感覚があった。
魔獣は、自分達がいる場所に当惑してうろうろしている。
ようやく目の前に森があるのに気づいたのか、数頭の魔獣がそちらに向けて走りだした。
それを見た他の魔獣も後に続く。雪崩のように、魔獣の群れが森へ向けて押しかえした。

魔獣の後を追って飛びだそうと待機していた2万人あまりの兵士は驚愕した。
攻めこんだはずの魔獣が、なぜか自分達に向かってきたからだ。

我を失い、魔獣に挑んだ兵士達が、軽々と跳ねとばされる。

「木だ! 木に登れー!」

冷静な兵士達は、木に登り難を逃れる。


無数の魔獣は、森の中に散りじりとなった。

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ダークエルフの三軍を束ねる統合軍本部では、連行されたラシンダ将軍がスコーピオ総帥の前に引きたてられていた。

「よくもやってくれたな、ラシンダ」

「そ、総帥! 私は何もしておりません! 魔獣が勝手に……」

「ええいっ! 言い訳などよいわ! お前のせいで、初手が台無しだ。
軍籍の剥奪だけで済むと思うなよ。確実に『西の島』送りにしてやる!」

「お待ちを、お待ちをー!」

ラシンダが叫ぶが、兵士が彼の両脇を抱え、天幕の外に運びだした。
ラシンダは、自分の叫びが、かつての部下、メリンダのものと同じだとは気づかなかった。


そして、総帥の言葉が、メリンダに投げかけた自分の言葉そのものだということにも。

-----------------------------------------------------------------------

魔獣が森から現れたのと同じ頃、グリフォン部隊は、予定通り東の空から王城へ急襲を掛けた。


いや、掛けようとした。

王城から飛びたった黒い影があっという間に彼らの前に立ちふさがった。
5匹のワイバーンである。

グリフォン隊の隊長は、冷笑を浮かべた。
いくらワイバーンが強くても、5匹だけでは、100匹のグリフォンに敵うはずもない。

彼は右手を上げ、それを振りおろしながら叫んだ。

「突撃ーっ!」

しかし、いつもなら機敏に反応するグリフォンが全く動かない。
周囲を見まわすと、全てのグリフォンが、その場で羽ばたいているだけで、動こうとしていない。

「な、何が起きた!」

ふと気づくと、彼らの上空に二匹の飛行獣が舞っている。
円を描くように飛んでいる黒い獣は下から見ると、ワイバーンの様に見える。
不思議なことに、二匹の獣はかき消すように空中からいなくなった。

相変わらず、グリフォンは、命令しても同じ場所で飛んでいるだけである。
血迷った一人のグリフォンライダーが、自分のグリフォンを刺そうと短剣を振りあげた。
五匹のワイバーンの内、一匹が一瞬で飛んでくると、そのライダーを足に掴んでグリフォンから引きはなした。

ワインバーンは、ライダーを殺すつもりはないらしく、彼を地上に下ろすと他の四匹と合流した。

五匹のワイバーンは、グリフォンの上空で3回ほど円を描くと、東の方角、つまりエルフ王城とは、反対方向に飛びはじめる。

驚いたことに、今まで乗り手の命令を聞かなかったグリフォンが、その後を従順についていく。
彼らは、あっという間に戦闘地域から離脱した。


 
グリフォンライダー達は、ただ茫然とするしかなかった。

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