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第四章 聖樹世界エルファリア編
第31話 再び『南の島』へ
しおりを挟む史郎は、ポルにメリンダの相手をさせることにした。
天涯孤独の体験を持つ彼なら、何かできるかもしれない。
まあ、命を救ったのが彼だから、というのもあるけどね。
ポルは、さっそく二階の部屋で、いろいろ世話を始めたようだ。
どうしてもの時は、ミミも手伝っている。きっと、メリンダは大丈夫だろう。
俺は丸顔を再び尋問して、大規模攻撃についていろいろ情報を仕入れた。
エルフの貴族の中にも、肌の色が褐色の者がいて、それをモーフィリンで隠しているそうだ。
彼らが中心になって、現国王を追いおとそうという動きがある。
それと呼吸を合わせて、『東の国』南部を奪回するのが目的らしい。
いずれにしても、王都は戦場になりそうである。
史郎は、いよいよダークエルフの議員と接触するミッションを開始することにした。
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史郎、ミミ、ポルは、点ちゃん1号に乗り『南の島』上空にいた。
ポルはメリンダの側に残しておきたかったのだが、彼がどうしても一緒に行くと言って聞かなかったのだ。
機体には、フェアリスから学んだ透明化の闇魔術がかけてある。
「うわっ! 本当に大陸がある!」
ポルは、『南の島』をまの当たりにすることで、再び驚いている。
「意外に町が多いわね」
ミミは、もっと荒涼とした土地を想像していたようだ。
フェアリス達が捕らえられていた研究所がある、中央都市へ向かう。
上から見ると、ほぼ円形に発達した都市の中心に、さらに円形に囲まれた建物群がある。
あれが、中央の行政府だろう。
俺は高度を下げ、丸顔から聞いていた奴の自宅を探し出す。
目標が見つかると、観測用に設定した点を、その建物の上からばらまく。
すぐに高度を上げ、透明化の闇魔術を解いた。
後は待つだけである。
「うーん、暇だからポータルの確認でもしとくか」
史郎は、学園都市世界へのポータルがあると聞いている、『緑山』に行ってみることにした。
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中央都市から南東へ飛ぶこと15分。 氷雪地帯が見えてきた。
「ううー、見るからに寒そうね」
ミミが眉を寄せている。まあ、猫は寒いの苦手だからね。猫人もそうなのかもしれない。
目的地に近づくと、白い風景の中に、緑の山がくっきりと浮かび上がった。
上空から見ているので、白いキャンバスに、緑の円が描かれているように見える。
ポータルがある洞窟を探しながら下降する。
あった。緑の山肌に、黒い穴が見える。
俺は、穴から少し離れたところに機体を下ろすと、防寒用に自分達に点をつけ、ドアを開けた。
一気に気温が下がったからだろう、コップに入れた水の表面が凍っている。
ミミ、ポルを連れて緑の地面に降りたつ。
機体に透明化の魔術を付与してから、洞窟まで歩く。
「寒そうなのに寒くないって、変な感覚ね」
ミミが、困惑したような顔をしている。
点魔法で寒さを遮断していなかったら、一瞬で凍えてしまうだろう。
降りてみて分かったが、この山が緑に見えるのは、コケの一種が生えているからだ。
きっと、このコケの生態に、雪を解かすような仕組みがあるのだろう。
史郎は、コケを手にとった時、ひらめいたことがあったので、それをたくさん点収納に確保しておいた。
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ポータルがある洞窟は、緑の斜面に、ほぼ円形に口を開いていた。
中に入ると、コケが生えていないせいか、つららが垂れている。
俺達三人は、それを避けるように奥へ入っていった。
30mほどで、洞窟が終わる。行きどまりは、やや広い空間になっていた。
空間のまん中には、鏡台のような形をした石造りの建造物がある。
鏡台の鏡に当たるところが、黒く渦巻く空間になっている。
ポータルである。
ミミとポルが、恐る恐るポータルに近づく。
「ふわ~、本物みたいですね」
「馬鹿ね。本物なのよ」
「あまり近づかないようにね。近づいただけで、引っぱりこまれることもあるみたいだから」
俺は、最初に異世界に転移していた時のことを思いだしていた。
あの時は、ポータルに直接接触していたのは、加藤だけだった。
だが、結局は俺を含め、三人が転移に巻きこまれた。
俺の言葉で、二人が慌ててポータルから距離を取る。
捕えた複数のダークエルフが、ここは学園都市世界の群島に繋がっていると証言した。
実際に渡って確かめてみてもよいのだが、ここは我慢しておこう。
その時、突然ポータルが回転を始めた。
「ミミ、ポル、壁際に。急いで!」
俺たち三人は壁際に貼りついた。点魔法で、透明化の魔術を付与する。
俺達の姿が消えてすぐ、ポータルから研究着を着たダークエルフが現れた。
中年の男性で、手に1mほどの細長い箱を抱えている。
後から、さらに二人のダークエルフが出てくる。こちらは、二人で大きな箱の両端を抱えていた。
「島の倉庫にこんなものがあるとはな。行ってみたかいがあったというものだ」
先頭の男性が、低くつぶやく。
「所長、本当にこれを使ってもいいのでしょうか」
若いエルフが、青い顔をして尋ねる。
「お前が心配することじゃない。さっさと運び出せ」
若いエルフは、ボスのご機嫌を損ねたようである。
三人は、洞窟の外に向かう。
俺は、あることに気付いて、点ちゃんに指示を出す。
三人の足音が消えると、俺は闇魔術を解いた。ミミとポルの姿が現れる。
二人から見たら、俺の姿も現れたはずである。
「ひゃ~、凄いです! さすが、シローさん」
「ホント、毎回驚かせてくれるわ」
ミミは、呆れたようにそう言ったが、何かに気づいて声を上げた。
「あっ!」
「どうしたの、ミミ?」
ポルが尋ねる。
「私達、苔の上を歩いて洞窟まで来たけど、足跡が残ってるんじゃないの?」
「えっ! そう言われてみれば、そうだね」
ポルが思いだすように言う。
「ボクらが歩いた後に、足跡が残ってた」
「シロー! 急がないと」
俺は二人を安心させる。
「足跡は、点ちゃんに消してもらったよ」
「は~、それならそうと、早く言ってよ。焦って、損しちゃったじゃない。
リーダーは、ぼーっとしてるようで、そういうとこ、抜け目ないわね」
誰かも、そんなこと言ってたな。
「よし。丸顔邸の点もうまいこと拡散したみたいだし、そろそろ帰るか」
史郎は、帰りがけに、さらに大量の苔を点ちゃん収納に集めてから『緑山』を後にした。
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