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第四章 聖樹世界エルファリア編
第23話 ダークエルフを追って
しおりを挟む史郎達がフェアリスの集落に来て二日目。
俺は、一旦シールドの外に出て、点ちゃん1号からデロリンとチョイスを連れてきた。
二人は、まず森の中の集落に驚き、次にそこに住んでいる人達に、二度驚いていた。
チョイスによると、エルフの間では、『西の島』から消えた住人が小さな人々だったという言いつたえはあったらしい。
土の家に関する雑事を二人に任せて、次の目的地を決めることにする。
リビングに家族を集め、地図を出す。フィロさんにも参加してもらっている。
「フィロさん、ダークエルフが現れた場所は分かりますか」
「言い伝えでは、南東部の仲間が最初にさらわれたということです」
南東といえば、凶悪な蟻がいるところだな。
「奴らは、船を利用していたのでしょうか?」
昨日、フィロが船で密航したという話を聞いていたので尋ねてみる。
「そういう話は伝わっていません。ただ、彼らは飛行型魔獣に乗っていたという話はあります」
「飛行型魔獣ですか」
「言い伝えでは、グリフォンということです」
「この大陸に、グリフォンの生息地はありますか?」
「いいえ。 だから、グリフォンの話は眉唾だと考えています」
「山岳地帯にも、鳥型の魔獣がいますよね」
「ああ、ビッグピークですね。 あれは騎乗出来ませんよ。
余りに原始的な生きものなので、魔術を使ってもコントロールできないでしょう」
「そういえば、この大陸の西域は、魔獣がいないですね」
「ええ。 あなた達が通りぬけたシールドの他に、南北に魔獣除けの結界を張ってあります」
「なるほど、そういうことでしたか」
ここ『西の島』の謎が、また一つ解けたことになる。
「大陸東部にある港町も、フェアリスの方々が住んでいたのですか?」
「ええ、そう伝わっています。そこが、フェアリス国『フィン』の都だったようです」
「やはり、そこもダークエルフが?」
フィロは、つらそうな顔で答えた。
「そう聞いています。都市で大規模な戦闘があったということです。
ダークエルフは、魔道武器を沢山使ったと言われています」
魔道武器か。 やはり、ここでも学園都市の影が見えるな。
少しずつ、大きな謎の輪郭が浮かびあがってくる。
学園都市の秘密施設で、フェアリスは一人も見つかっていない。
ということは、既に殺されているか、どこかに囚われているかだろう。
囚われているとすると、恐らくダークエルフの本拠地だろう。
史郎は、ある可能性に思いあたったが、あまりに荒唐無稽な気がして、皆には黙っておいた。
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二日目夕方、史郎はデロリンに頼んでフェアリスの人々にご馳走でお返しすることにする。
長に火の使用を許可してもらう。
「煙を全く出さないように、火を使えるものですかな?」
彼が納得できないようなので、キッチンに案内する。
グリルの上部には、地球の換気扇にあるようなフードがついている。
これには、風魔術の仕掛けがしてあって煙を集める。
集めた煙は、一つの点の中に納められるようになっている。
この点の内部は、ものすごく大きな空間になっているから、少々の煙では一杯にならない。
実際に煙を出して、それが全てフードに吸いこまれるところを見せると、やっと長も納得してくれた。
ナルとメルは、今日もすごい人気で、小さな子供達を体中にぶらさげて歩いている。
コルナは、昨日と今朝、子供達の相手で疲れが出て昼寝中である。
コルナがいないと、ボードの許可が出ないのでナルとメルは不満そうだ。
夕方前にコルナが起きてくると、ほとんどの子供がボードに群がった。
夕食前、長の許可をとって、広場に大きなテーブルを作る。単純な形なので、点魔法で一瞬である。
テーブルは、フェアリスの人々に合わせて低くしてある。
椅子も、ベンチ型の低いものを作った。
俺達には低すぎるが、そこは地面に座ることで対処する。
食事の用意ができても、小さな子供はナルとメルから離れなかった。
「昨日は、ご歓迎の宴、ありがとうございました。今日は、ささやかながら、私達からお返しがあります。
皆さん、存分に召しあがってください」
俺が挨拶をして、食事が始まる。
料理はデロリンが土の家にあるキッチンで作り、それをチョイスが運んでくる。
土魔術で、大量に作った食器も各自に配られる。これは、そのままプレゼントにするつもりだ。
俺、ルル、コルナがチョイスを手伝う。
リーヴァスさんは、長の隣に座って相手をしている。
デロリンの料理を口にしたフェアリスの人達が、絶句している。
「な、なんだこれは!」
「旨すぎる!」
「めちゃくちゃ、美味しー!」
口々に叫び出す。甲高い声がうるさいほどだ。
まあ、俺達でも驚いたくらいだから、火が使えなかったフェアリスの人々にとって、まさに信じられない美味しさだろう。
フェアリスの料理人が、デロリンに群がるのを俺がさばいている。
そのままにしとけば、料理が進まないからね。
料理が終わったら、調理教室をすることにして、自分の席に着いてもらった。
お酒は持ちあわせが無かったので、エルフの町で仕入れたジュースを出す。
これは、「東の島」特産の果物から作られるもので、発酵してすこし炭酸が入っている。
味は、アップルサイダーに近い。
ルルが好きだから、大量に購入しておいたのだが、それが役立ったようだ。
ジュースは、大人達はもちろん、子供達に大受けで、ジュースを注ぐ係のナルとメルが大わらわである。
食事が終わると、長が俺のところに来る。
「なあ、人族は高慢で残酷だと思っとったが、あんたらを見とると、それは間違っとったようじゃな」
「いえ。 ダークエルフと結託しているような、悪い人族がいるのも事実です。
俺達は、フェアリスの方々のために、できることは喜んでやりますよ」
「ははは、嬉しい事を言ってくれる。 楽しみにしておくぞ」
「わずかの間ですが、よろしくお願いします」
「うむうむ。 困ったことがあったら、何なりと言ってくれ」
彼はそう言うと、自分の家に入った。
俺はその後、フィロさんにキャロの話をせがまれた。
話を聞いてキャロが、本当にみんなに好かれて幸せなのが伝わったのだろう。
フィロさんは、涙を流して喜んでいた。
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その夜、みんなが寝静まってから、史郎はフェアリスのシールドから外に出て、一人で点ちゃん1号に乗り込んだ。
例の荒唐無稽な考えを確かめるためだ。
じゃ、点ちゃん。 行ってみようか。
『ういういー』
ここのとろこ大活躍の点ちゃんは、ご機嫌である。
俺達は、大陸の形がはっきりするところまで高度を上げた。
点ちゃん1号は『西の島』から南東方向に飛行する。
そこには、大陸が無い。広大な海面が広がっているだけである。
俺は、その上空から点をばら撒く。
少し経つと、点ちゃんの声がする。
『ご主人様ー。 ご主人様の予想通りだったよ』
俺は予想が当たったのに、かえって驚いていた。
なるほど、そういう事だったのか。
史郎は、はっきり浮かびあがってきた事柄の大きさに呆然とするのだった。
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