154 / 607
第四章 聖樹世界エルファリア編
第19話 意外な才能
しおりを挟む相変わらずの、ルルを巡るエレノアとガリウスの夫婦漫才があった後、史郎達は『聖樹の島』を後にした。
『西の島』までは、点ちゃん3号で行く。
デッキ部分には、ワーバーンが休めるような仕掛けをこしらえておいた。
『ヒャーッハー!』
点ちゃんが、船をものすごい勢いで走らせる。
デロリンが、あまりにも怖がるので、船は外が見えないようにしてある。
チョイスは、思ったより気が利く青年で、船のあちこちを掃除してまわっている。
ナルとメルは、新しく作った階段を上がって、デッキの上にある風防の中にいる。
これは、二つ目の風防で、ワイバーン達が入れるだけの大きさに作ってある。
二人とワイバーンは、思う存分スキンシップが、はかれてご満悦である。
俺、リーヴァスさん、ルル、コルナの四人は、『西の島』の地図を広げ、上陸前の打ちあわせをしていた。
「魔獣は、それほど大きいのですか?」
「私がかつて訪れた時のままなら、そうですな」
「例えば、資料には『島ネズミ』という1mを越えるネズミが出ていますが、全ての種族のサイズが、通常より何倍も大きいと考えていいのでしょうか?」
「私が目にした最大の『島ネズミ』は、2m以上ありましたから、資料は参考程度に考えた方がよいでしょう」
「に、2m……」
リーヴァスさんの話を聞いたコルナが絶句している。
「おじい様、私達が食べるものや水は確保できますか?」
「果物の類は、豊富にあるよ。 魔獣は、食べられるものと食べられないものがいるな」
リーヴァスさんは、そこで少し考えているようだった。
「水か……水は、何本かある川の水を沸かして飲んでいたが、体に合わない者もいたから、工夫が必要かもしれんな」
点ちゃん収納の中に、二週間分の水と食料は用意してある。
問題は、二週間で結果を出せるかどうかだ。
『西の島』での滞在が長びけば、現地調達しなくてはならないだろう。
点ちゃん収納の中で物が腐らなければ、もっと食料を持ちこめたのだが……
とにかく、二週間を目処に調査するしかないね。
史郎は、不十分な情報に少し不安を覚えると同時に、新しい冒険にワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
--------------------------------------------------------------------
西の島に近づくと、さっそく問題が起きた。
デッキに出ている子供達が、船の周りをぐるぐる回る、大きな三角ひれを見つけたのだ。
ひれの数は、7つである。
島に着く前に、船のスピードを落としたとたんにこれである。
ひれの大きさから考えて、見えない体の全長は3m~5mくらいありそうだ。
メルが、俺の服の裾を引っぱる。
「パーパ。 トンちゃん達が、出して欲しいんだって」
「トンちゃんは、遊びたいの?」
「ううん。 あのお魚が獲りたいんだって」
まあ、ここはワーバーンの好きにさせておくか。
念のため、各ワーバーンには点を着けておく。
「じゃ、二人は少しだけ下に降りてね」
俺が言うと、娘達はすぐに階段を下りていった。
船を停めてから、風防を開放する。
待ちかねていた五匹のワイバーンは、一斉に空に舞いあがった。
少しの間、空中で羽ばたいていたが、一匹が海面に急降下する。
ザバッ
両足で、巨大な魚をつかんで持ちあげる。
他のワイバーンも、次々に魚を獲る。
そして、風防があった辺りに、魚を降ろしている。
感心なことに、魚が暴れないように、頭の部分を一噛みしている。
デッキは、すぐに魚が山盛りになった。
魚は鋭い歯があり、マグロのような形をしていた。
ワイバーンがその周りに着陸したのを見計らって、再び大きめの風防を張る。
「ナル、メル。 来てごらん」
階段の下で待っていたのだろう、二人はすぐにデッキに現れた。
「うわー! お魚さんがいっぱい!」
「トンちゃん、すごい!」
二人は、ワイバーンの頭を撫でている。
階段を上がって来たデロリンが、ワイバーンの姿を見て、白目をむいて気絶する。
あちゃー、そう言えば、彼がワーバーンを間近で見るの、初めてだったか。
俺はデロリンの身体を魚の側に横たえ、調理道具を出す。
包丁とナイフは、普通サイズのものしかない。これで解体できるかな。
悩んでいると、デロリンが目を覚ました。
「ううう、び、びっくりしたー」
まあ、こっちはアナタにびっくりしましたよ。
「旦那。 この魚、さばいちまっていいですかい?」
「え? デロリン、これさばけるの?」
「ええ、このくらいならお安い御用です」
彼は包丁を使う許しを得ると、手際よく魚を解体し始めた。
小さな包丁をクルクル使い、見事に魚をさばいていく。
魚の山は、あっという間に頭やワタ、身と骨に分けられた。
「デロちゃん、すごいー!」
「すごーい!」
子供達も、彼の手際に驚いている。
ワイバーンが、頭やワタを食べたがったので、それ以外を点収納に仕舞う。
お腹を空かせていたのか、五匹は山のようにあった頭とワタをあっという間に平らげてしまった。
「美味しかったって言ってるー」
メルがニコニコして報告する。
「じゃ、メルも、お魚食べてみる?」
「食べる!」
ワーバーンの食事を見て、お腹が減ったらしい。
全くナルとメルにはかなわない。
史郎達は、船室に降りて、食事にすることにした。
-----------------------------------------------------------------
広めに作ったキッチンで、史郎はデロリンに調理器具と調味料を見せていた。
最初は、何もないところから次々と現れるものに驚いていたデロリンだったが、すぐに鋭い目になって道具を触りだした。
「なかなかいいものが揃ってますね」
彼は、調理器具を我が物の様に扱っている。
「デロリン。 任せるから、みんなに食事を作ってくれないか?」
彼は、にっこり笑うと頷いた。
「お任せ下さい」
いつもの自信がない彼とは大違いである。
俺は、彼が必要だというもの以外を点収納に仕舞い、リビングに戻った。
それから30分程して、彼が料理を持ってくる。
点魔法で作ったボウルにスープが入っている。
俺達は、全員でテーブルに着く。
「「いただきます」」
皆が、スープを一口飲んで絶句する。
旨い。 いや、旨すぎる。
俺と感覚を共有している点ちゃんが、『な、なんじゃこりゃー!』と叫ぶぐらいの味である。
皆に絶賛されて、デロリンが照れている。
「デロちゃん、どうしてこんなにすごい料理が作れるの?」
コルナが、みんなの訊きたかったことを尋ねる。
「私は、港町の料亭のせがれでして、さんざん親不孝をやって、家を追いだされたんでさ」
「それにしても、この料理の腕はすごいね」
「親父に死ぬほどしごかれましたから。 それが嫌で、ポータルに飛びこんじまったんで」
彼は、少し悲しそうな顔をした。きっと、故郷に帰りたいんだろう。
史郎は、そのことを心に留めておいた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる