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第四章 聖樹世界エルファリア編

第19話 意外な才能

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相変わらずの、ルルを巡るエレノアとガリウスの夫婦漫才があった後、史郎達は『聖樹の島』を後にした。


『西の島』までは、点ちゃん3号で行く。

デッキ部分には、ワーバーンが休めるような仕掛けをこしらえておいた。

『ヒャーッハー!』

点ちゃんが、船をものすごい勢いで走らせる。
デロリンが、あまりにも怖がるので、船は外が見えないようにしてある。

チョイスは、思ったより気が利く青年で、船のあちこちを掃除してまわっている。

ナルとメルは、新しく作った階段を上がって、デッキの上にある風防の中にいる。
これは、二つ目の風防で、ワイバーン達が入れるだけの大きさに作ってある。
二人とワイバーンは、思う存分スキンシップが、はかれてご満悦である。

俺、リーヴァスさん、ルル、コルナの四人は、『西の島』の地図を広げ、上陸前の打ちあわせをしていた。

「魔獣は、それほど大きいのですか?」

「私がかつて訪れた時のままなら、そうですな」

「例えば、資料には『島ネズミ』という1mを越えるネズミが出ていますが、全ての種族のサイズが、通常より何倍も大きいと考えていいのでしょうか?」

「私が目にした最大の『島ネズミ』は、2m以上ありましたから、資料は参考程度に考えた方がよいでしょう」

「に、2m……」

リーヴァスさんの話を聞いたコルナが絶句している。

「おじい様、私達が食べるものや水は確保できますか?」

「果物の類は、豊富にあるよ。 魔獣は、食べられるものと食べられないものがいるな」

リーヴァスさんは、そこで少し考えているようだった。

「水か……水は、何本かある川の水を沸かして飲んでいたが、体に合わない者もいたから、工夫が必要かもしれんな」

点ちゃん収納の中に、二週間分の水と食料は用意してある。
問題は、二週間で結果を出せるかどうかだ。

『西の島』での滞在が長びけば、現地調達しなくてはならないだろう。
点ちゃん収納の中で物が腐らなければ、もっと食料を持ちこめたのだが……
とにかく、二週間を目処に調査するしかないね。


史郎は、不十分な情報に少し不安を覚えると同時に、新しい冒険にワクワクする気持ちを抑えきれなかった。

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西の島に近づくと、さっそく問題が起きた。


デッキに出ている子供達が、船の周りをぐるぐる回る、大きな三角ひれを見つけたのだ。
ひれの数は、7つである。
島に着く前に、船のスピードを落としたとたんにこれである。
ひれの大きさから考えて、見えない体の全長は3m~5mくらいありそうだ。

メルが、俺の服の裾を引っぱる。

「パーパ。 トンちゃん達が、出して欲しいんだって」

「トンちゃんは、遊びたいの?」

「ううん。 あのお魚が獲りたいんだって」

まあ、ここはワーバーンの好きにさせておくか。
念のため、各ワーバーンには点を着けておく。

「じゃ、二人は少しだけ下に降りてね」

俺が言うと、娘達はすぐに階段を下りていった。

船を停めてから、風防を開放する。
待ちかねていた五匹のワイバーンは、一斉に空に舞いあがった。

少しの間、空中で羽ばたいていたが、一匹が海面に急降下する。

ザバッ

両足で、巨大な魚をつかんで持ちあげる。
他のワイバーンも、次々に魚を獲る。
そして、風防があった辺りに、魚を降ろしている。
感心なことに、魚が暴れないように、頭の部分を一噛みしている。

デッキは、すぐに魚が山盛りになった。
魚は鋭い歯があり、マグロのような形をしていた。

ワイバーンがその周りに着陸したのを見計らって、再び大きめの風防を張る。

「ナル、メル。 来てごらん」

階段の下で待っていたのだろう、二人はすぐにデッキに現れた。

「うわー! お魚さんがいっぱい!」

「トンちゃん、すごい!」

二人は、ワイバーンの頭を撫でている。

階段を上がって来たデロリンが、ワイバーンの姿を見て、白目をむいて気絶する。
あちゃー、そう言えば、彼がワーバーンを間近で見るの、初めてだったか。

俺はデロリンの身体を魚の側に横たえ、調理道具を出す。
包丁とナイフは、普通サイズのものしかない。これで解体できるかな。

悩んでいると、デロリンが目を覚ました。

「ううう、び、びっくりしたー」

まあ、こっちはアナタにびっくりしましたよ。

「旦那。 この魚、さばいちまっていいですかい?」

「え? デロリン、これさばけるの?」

「ええ、このくらいならお安い御用です」

彼は包丁を使う許しを得ると、手際よく魚を解体し始めた。
小さな包丁をクルクル使い、見事に魚をさばいていく。
魚の山は、あっという間に頭やワタ、身と骨に分けられた。

「デロちゃん、すごいー!」

「すごーい!」

子供達も、彼の手際に驚いている。

ワイバーンが、頭やワタを食べたがったので、それ以外を点収納に仕舞う。
お腹を空かせていたのか、五匹は山のようにあった頭とワタをあっという間に平らげてしまった。

「美味しかったって言ってるー」

メルがニコニコして報告する。

「じゃ、メルも、お魚食べてみる?」

「食べる!」

ワーバーンの食事を見て、お腹が減ったらしい。
全くナルとメルにはかなわない。


史郎達は、船室に降りて、食事にすることにした。

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広めに作ったキッチンで、史郎はデロリンに調理器具と調味料を見せていた。


最初は、何もないところから次々と現れるものに驚いていたデロリンだったが、すぐに鋭い目になって道具を触りだした。

「なかなかいいものが揃ってますね」

彼は、調理器具を我が物の様に扱っている。

「デロリン。 任せるから、みんなに食事を作ってくれないか?」

彼は、にっこり笑うと頷いた。

「お任せ下さい」

いつもの自信がない彼とは大違いである。
俺は、彼が必要だというもの以外を点収納に仕舞い、リビングに戻った。

それから30分程して、彼が料理を持ってくる。
点魔法で作ったボウルにスープが入っている。

俺達は、全員でテーブルに着く。

「「いただきます」」

皆が、スープを一口飲んで絶句する。 
旨い。 いや、旨すぎる。
俺と感覚を共有している点ちゃんが、『な、なんじゃこりゃー!』と叫ぶぐらいの味である。

皆に絶賛されて、デロリンが照れている。

「デロちゃん、どうしてこんなにすごい料理が作れるの?」

コルナが、みんなの訊きたかったことを尋ねる。

「私は、港町の料亭のせがれでして、さんざん親不孝をやって、家を追いだされたんでさ」

「それにしても、この料理の腕はすごいね」

「親父に死ぬほどしごかれましたから。 それが嫌で、ポータルに飛びこんじまったんで」

彼は、少し悲しそうな顔をした。きっと、故郷に帰りたいんだろう。



史郎は、そのことを心に留めておいた。
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