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第四章 聖樹世界エルファリア編

第6話 エルフの国

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史郎達が乗った点ちゃん3号は、暗くなる前に「東の島」の港町に到着した。


港町の名前は、ポーラ。
出発したセント・ムンデの港町と較べると、遥かに大きい。
モリーネによると、人口も2万人程いるらしい。

白銀の船が桟橋に着くと、大勢のエルフが集まって来た。

最初に、俺、ルル、ナル、メル、リーヴァスさんが甲板に姿を現すと、エルフ達にどよめきが起きた。
この大陸では、人族がかなり珍しいらしい。

続いて現れたコルナを目にすると、群衆がより一層騒ぎ出した。

「獣人だ!」

「獣人だぞ! 気をつけろ」

「何が目的だ!?」

大変な混乱である。
しかし、コルナの後ろから現れたモリーネの姿を見て、辺りが急に静かになった。

「皆さん、私はある事情で他の世界に行っておりました。そこで私を救ってくれたのが、この方々です。
どうか温かい歓迎を」

彼女がそう言うと、辺りは歓声に包まれた。

「姫様ーっ!」

「おかえりなさい!」

「おかえりー!」


人ごみをかき分けて、胸に飾りをたくさんつけたおじさんエルフがやって来た。
後ろには、剣や弓を持った兵士を従えている。

「姫様! よくぞご無事で。  いったい、どこにいらっしゃったのですか?」

「マウラム。 今はとにかく急いで城へ行きたい」

「当然です。 我らが、お供しますぞ」

「不要じゃ。 護衛はこの者達に頼んである」

心なしか、モリーネの声が冷たい気がする。

「しかし、姫に万一のことがあっては……」

「この身すでに、万一の目に遭うたわ! 下がれ」

「ははっ」

ふむ。 この男、モリーネから嫌われてるな。 何か理由があるんだろう。

「では、シロー。 頼むぞ」

モリーネが俺の方を向いてそう言うと、マウラムと呼ばれた男がこちらを睨んでくる。
あっという間に敵を作ってる気がする。 なんか、くつろぎとは程遠いな。

そんなことを考えながら、俺は点ちゃん3号を消した。
群衆がまたざわついたが、ここは気にしなくていいだろう。

バス型の点ちゃん2号を出す。またまた、ざわめきが起こる。 
エルフの人達、反応いいね。

全員が乗りこむと、モリーネの指示に従って出発する。

点ちゃん、さっきのおじさんに点をつけておいてね。

『もう、付けましたよー』

まあね。 俺の考えてること筒抜けだもんね。
点ちゃん、ありがとう。 また、3号しようね。

『わーい!』


史郎達を乗せた点ちゃん2号は、街道を東に向かって進んでいった。

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学園都市世界との連絡が途絶えていらいら々していたマウラムは、衝撃の報告を受けることになる。


港湾関係者からの連絡で、港にモリーネ姫が現れたというではないか。

彼は、まずそんなはずはないと思ったが、念のため部下を連れて港へ向かった。
そこで彼を待っていたのは、本物のモリーネ姫か、あるいは本物そっくりの少女だった。
すぐにも拘束したかったが、周囲には群衆がおり、姫を守るように冒険者らしい人族の姿があった。

護衛を申しでるが、冷たく拒絶されてしまう。
もしかすると、「姫」は何かに気づいているのかもしれない。

港にある隠れ家に戻ったマウラムは、通信用魔道具を取り出した。

「マウラムです。 モリーネ姫が現れました」

「そんなはずなかろう。 別人ではないのか?」

魔道具から聞こえてきたのは、女性の声だった。

「いえ、私が見る限り、本物に見えました」

「まあ、そんな可能性はまずないが、万一に備えて準備しておくか」

「彼女は、モロー街道を城へ向かっております」

「よし。 後のことは、こちらで準備する。 お前は、その女がどこから来たか、足取りを追え」

「はっ、わかりました」

魔道具の通信は、一方的に切れた。
恐らく、彼より立場が上の相手だったのだろう。

「やれやれ」


マウラムは、姫が港まで来た航路が無数にあることを考え、頭を抱えた。

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史郎達は、街から少し離れたところで、土の家を出して夜を過ごした。


早朝に起きて、街道を東に向かう。
点ちゃん2号は、舗装されていない道を順調に進んでいた。
窓から見える風景は、なだらかにうねる草原である。

「モリーネさん。 この道の名前は、『モロー街道』で合っていますか?」

俺が質問すると、モリーネは不思議そうな顔をしていた。

「シローは、ここに来たことがあるの?」

「いいえ、初めてですよ」

「よくこの道の名前を知ってたわね」

「ええ、ちょっとした事情で」

俺は、2号の後ろの方の座席に座っているリーヴァスさんとルルの所に行った。
ナルとメルは、船旅ではしゃぎ過ぎたからか、朝から寝ていた。

「シロー、何かあったのですね」

さすが、ルル。 

「リーヴァスさん、ルル。 よく聞いて下さい。 敵が、この先で待ち伏せているようです」

「ふむ。 で、どうしますかな」

「子供達は俺が守りますから、迎撃の用意をしてほしいのです」

「分かりました。 ルル、ここはシローと一緒に、ナルとメルを守りなさい」

「お一人で戦われるつもりですか」

「一人の方が、かえって戦いやすいこともあるのだよ。 ここは、私に任せておきなさい」

そういうことなら、リーヴァスさんに任せてみよう。

「分かりました。 何かあれば、声を掛けてください」

リーヴァスさんはニッコリ笑うと、隣に置いたマジックバックから剣を取りだした。
いつかピエロッティの首に突きつけた、あの魔剣である。

「では、敵の攻撃を合図に、俺とルルは防御、リーヴァスさんは攻撃でお願いします」


史郎はそう言うと、情報収集のために点ちゃんを展開した。

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史郎は、コルナに念話で危険を伝えた。


『コルナ、敵が襲ってくる可能性が高い。 万が一に備えて、モリーネに付いてやってくれ』

『分かったわ。 お兄ちゃんは、どうするの?』

『俺は、情報収集と防御だな。 今回は、リーヴァスさんだけが外に出る』

『一人だけで大丈夫?』

『まあ、任せてみよう』

『こちらも、任せてもらって大丈夫よ』

『頼むぞ』

『ふふふ、後で「お座り」おねだりしちゃお』

俺の膝に座ることを、コルナは「お座り」と名づけたらしい。 まあ、ここは仕方がないか。

点ちゃん。 周囲の状況はどう?

『まだ、何もいませんよー』

何か近づいたら教えてね。

『はいはーい』

最近、この点ちゃんの落ちつきというか、緊張感の無さが心地よくなってきたな。



自分のことは、棚に上げる史郎であった。
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