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第四章 聖樹世界エルファリア編
第1話 少年と家族
しおりを挟むポータルズ。
そう呼ばれている世界群。
ここでは、各世界がポータルと呼ばれる門で繋がっている。
ゲートとも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。
この門には、様々な種類がある。
最も多いのが、特定の世界へ飛ぶもの。
このタイプは異世界に行った後、こちらに帰って来られる。
その利便性から商業活動や外交をはもちろん、人々の行き来にも使われる。
国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。
他に、一方通行のポータルも存在する。
このタイプは、前述のものより利便性が劣る。
僻地や山奥に存在することが多く、きちんと管理されていない門もある。
非合法活動する者達、例えば、盗賊や奴隷商人の移動手段ともなっている。
また、稀に存在するのが、ランダムポータルと呼ばれる門である。
ある日突然、町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。
そして、長くとも一週間の後には、跡形もなく消えてしまう。
そして、この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。
なぜなら、ランダムポータルは、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく、一方通行であるからだ。
子供が興味半分に門から入ることもあるが、その場合、まず帰って来ることはない。
多くの世界でこのケースは神隠しとして扱われる。
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今、ある少年がポータルを渡り、別の世界に降り立った。
少年の名は、坊野史郎(ぼうのしろう)という。
日本の片田舎に住んでいた彼は、ランダムポータルによって、異世界へと飛ばされた。
そこには、地球の中世を彷彿とさせる社会があった。
違うのは、魔術と魔獣が存在していたことである。
特別な転移を経験した者には、並外れた力が宿る。
現地では、それを覚醒と呼んでいた。
転移した四人のうち、他の三人は、それぞれ勇者、聖騎士、聖女というレア職に覚醒した。
しかし、彼だけは、魔術師という一般的な職についた。
レベルも1であったが、なにより使える魔法が「点魔法」しかなかった。
この魔法は、視界に小さな点が見えるだけというもので、このことで彼は城にいられなくなってしまう。
その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通して、彼は少しずつ成長していった。
初め役に立たないと思っていた点魔法も、その「人格」ともいえる「点ちゃん」との出会いによって、少しずつ使い方が分かってきた。
それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。
史郎はこの魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした、国王一味を壊滅させた。
安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が、一味の生き残りにさらわれ、ポータルに落とされてしまう。
聖女の行先は、獣人世界だった。
後を追いかけ、獣人世界へと向かった少年は、そこで新しい仲間と出会い、その協力で聖女を救い出すことに成功する。
しかし、その過程で、多くの獣人たちが捕らえられて学園都市世界へ送られていることに気付く。
友人である勇者を追って、少年は学園都市世界へ行き、彼と力を合わせて、捕らわれていた獣人達を開放する。
ところが、秘密施設で一人の少女を見つけたことから事態は新たな展開を見せる。
その少女は、エルフの姫君だった。
彼女からエルフの世界への護衛を頼まれ、少年と彼の家族はポータルを渡る。
これは、そこから始まる物語である。
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史郎とその家族、つまりは、ルル、ナル、メル、コルナとリーヴァスは、ポータルから出た。
もちろん、護衛対象であるエルフの第三王女モリーネも一緒である。
出口は、狐人国で潜った様な巨大な神樹の、その口からだった。
ポータルから出たところで待っていたのは、壮年の男女だった。
男性は、185cmくらいの長身で、右目の上下に切傷がある。
女性は、やはり、170cmくらいはあるだろう。
日本でいう、モデル体型である。
二人とも、顔立ちが非常に整っている。
そのため、俺は最初彼らをエルフかと思ったほどだ。
「ルル、待ってたよ」
男が腕を広げる。
俺は嫉妬でかっとなったが、その気持ちをぶつける必要は無かった。
なぜなら、ルルは男性ではなく、女性の腕に飛び込んだからだ。
「お母さん!」
え!? ルルさん、今、何と?
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ルルの母親の名前は、エレノア=マクリーン。父親の名前は、レガルス=マクリーン。
共にこの世界、エルファリアの中央ギルドで働いているそうだ。
リーヴァスさんは、エレノアさんの実の父親だそうだ。
少しの間、驚きの余り固まっていた俺だが、二人にナルとメルを紹介する。
二人は、ルルの両親だということが分かると、安心したようだ。
「エレノア・バーバ、レガルス・ジージ?」
ナルが、いきなり名前を確認する。
エレノアさんの顔が、一瞬、夜叉のようになったのは気のせいだろう。
「エレノア・ねえね、ですよ」
結局、二人はエレノアさんを「エレねえ」、レガルスさんを「レガにい」と呼ぶことにしたようだ。
「ところで、ルル。 彼を紹介してくれるかな」
レガルスさんが、急に真面目な顔をしてこちらを見る。
ハンサムの真面目顔って、なんだか怖い。
「はい、お父様。 こちらは、シローさんです。アリストのギルドで冒険者をしています」
「ああ、その辺のことは、キャロやマックから既に聞いてるが……」
ルルパパは、こちらをじっと見ている。
「お前とは、どういう関係かな?」
あうっ! その質問が来ますか?
「ええと、一緒に暮らしています」
「一緒に暮らしているということは、どういうことかな?」
ルルは、赤くなってモジモジしている。
「以前は、『旦那様』でしたが、今は……」
ルルさんや。 それ、確実に誤解を招くよね。
「おい、お前! どういうことだ!?」
レガルスが、俺に迫る。
ほら、やっぱり。
「ええと……」
俺が、しどろもどろしてると、スパーンという小気味いい音がした。
エレノアさんが、白い棒のようなもので、レガルスさんの頭を殴ったようだ。
「あなた、シロー君が困ってるでしょ」
「でも、ハニー、彼は……」
スパーン!
「ルルに……」
スパーン! スパーン!
「ルルが男と……」
スパーン! スパーン! スパーン!
白い棒は柔らかい素材の様だが、これだけ立てつづけに殴られるとダメージが入るらしい。
レガルスさんは、頭を抱えてうずくまってしまった。
「ごめんね。 この人ったら、ルルの事となると周囲が見えないのよ」
「い、いえ。 大丈夫です」
俺は、夫婦漫才のような光景に、思わず吹き出しそうになるのを堪えて、やっとそれだけ言った。
「お父さん、久しぶりね」
「ああ、元気だったか」
リーヴァスさんが、優しい声で答えている。
「リーヴァスさんには、ナルとメルがとてもお世話になっているんですよ」
俺はダメージから復活しないレガルスは放っておいて、会話を続けることにした。
「父さんは、妙に子供に懐かれるからねえ」
そう言うエレノアさんは、嬉しそうだ。
ナルとメルが、リーヴァスさんにくっつく。
「じゃ、とにかく、本部まで行こうか」
「はい。 本部というのは?」
「ああ、父さんから、まだ聞いてなかったのね。ポータルズのギルドを取りまとめる本部がここにあるの」
「えっ! そうだったんですか」
エレノアが指さした方を見ると、空の一部の色が変わっている。
地球で雨季がある地方のスコールが、あんな形をとると聞いたことがある。
「あれこそが、神聖神樹よ」
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空の色が変わっていると見えたのは、全て幹の部分だったらしい。
背後を振り返って、ポータルを持つ神樹を見る。
やはり、巨大である。
しかし、神聖神樹の大きさは、その神樹から見てもけた違いに大きい。
恐らく、何百メートルの単位で上に伸びているようである。
幹の太さも、百メートル単位で計った方がよさそうだ。
俺達は、森の中を抜ける道を、二台の馬車に乗って進んで行った。
森の木々は、今まで見たことが無いほど大きい。
鳥や獣の姿もちらほら見える。
生き物に、森が豊かな環境を与えているのだろう。
見ていて、くつろげる光景である。
史郎は初めて訪れたのに、どこか懐かしいような不思議な感覚を味わっていた。
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