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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第34話 再び獣人世界へ
しおりを挟む加藤、舞子、ミツの三人が、王城にやって来た。
彼らが女王陛下に謁見している間、俺は、獣人たちと出発の打ちあわせをしていたから、どういう話がなされたのか知らない。
特に、畑山さんとミツさんの間で。
ただ、その後、加藤が青い顔をして、ブルブル震えていたのが印象的だった。
『ご主人様ー、あれってガクブル?』
そうだよ、点ちゃん。 まさに、あれがガクブルだ。
ミツさんは、俺の前にやってくると、頭を下げた。
「シローさん。 私のために、二つの世界を渡って下さり、本当にありがとうございました。」
彼女は、顔を上げると、俺の目を見た。
「私の命を救ってくれたのは、聖女様はもちろん、シローさんもです」
「ははは。 加藤があなたを助けようと突っぱしってたから、それにあおられただけですよ。
それより、西門であなたを炎から助けられなくて、本当に申しわけない」
「ふふふ、ユウの言った通りですね。
シローさんは、そう言うだろうと、彼が教えてくれました」
まあ、性格を見抜かれちゃってるからね。
「まだ少し、本調子ではないのでしょう? お大事になさって下さい」
「聖女様が、何度か治癒魔術を掛けて下さいましたから、もうすっかり元気です。
それより、またすぐにポータルを渡られるとのこと、お気をつけて行ってらしてください」
「ありがとうございます」
俺は、舞子、加藤、ミツをウサ子と獣人達に会わせるために、城内にある森へ入っていった。
獣人は、ウサ子の周りに集まり、お祈りしたり、エサらしいものを捧げたりしている。
舞子がウサ子に近づいていくと、ウサ子が頭を低くして甘えた声を出している。
ポルのお母さんが、俺に尋ねる。
「シローさん、この方は?」
あー、どうせばれるなら、早い方がいいよね。
「聖女様です」
「えっ!」
それを聞いた獣人のみんなが、舞子に向かって平伏している。
「皆さん、顔を上げて下さい。
私は、獣人世界で、獣人の方々にとてもお世話になったのです。
私は、グレイルが故郷だと思っています。
これから皆さんは、故郷に帰られますが、私もご一緒します」
舞子がそう言うと、獣人達が歓声を上げる。
「聖女様が、ご一緒してくださる!」
「ありがたや~」
「聖女様、聖女様」
お礼を言ったり、祈ったり、忙しいことになっている。
「舞子、いいのか?」
「うん。 もう獣人世界に家もあるし、獣人の人達が落ちつくまでは、協力するつもりだよ」
俺は、背筋を伸ばして、きりっと立つ舞子を見て、本当に嬉しかった。
「じゃ、一緒に行こうか?」
「うん!」
ウサ子に触ろうとして、サッと逃げられている加藤が哀れだった。
だって、最初に会ったとき、加藤はウサ子を殴り倒してたもんね。
俺は、家族を連れて貴賓室に行き、畑山さんにも挨拶する。
「ボー。 獣人達の力になってあげて」
「ああ、分かってる」
「相変わらず、頼りない返事ねえ。 ご家族の皆さん、ボーをよろしくお願いします」
「はっ」
リーヴァスさんが頭を下げたのを見て、娘達も頭を下げている。
畑山さんは、ナルとメルの頭を撫でる。
二人は、初めて見た女王様に、眩しそうな眼をしている。
「お父さんが嫌なことしたら、お姉さんに言いなさい。 叱ってあげるから」
でも、畑山さんには、いつも怒られているから、これ以上叱られるのは勘弁してほしい。
モリーネは、彼女に伝えることがあるらしく、部屋の隅で二人でヒソヒソ話していた。
話が終わると、モリーネが、こちらにやってくる。
「では、参りましょうか」
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女王陛下、勇者、聖女が姿を現したので、城前広場は黒山の人だかりである。
その後を、獣人たちが行進すると、民衆が大きくどよめく。
女王が、演台に上がる。
「皆さん、この度、アリスト王国は、獣人の方々と誼(よしみ)を結ぶことができました。
私は、獣人の国と友好条約を結ぶつもりです」
一瞬、場が静かになる。
勇者加藤が、拍手をする。
民衆は、一気に歓声を上げ、拍手を始めた。
「今から、友好使節として、聖女をかの国に送ります。
皆さん、この国にとっての歴史的瞬間を、共に祝おうではありませんか」
用意してあった、紙吹雪が舞う。
魔術による花火も上がった。
俺は、畑山さんの許可を取って、城前広場(しろまえひろば)に、点ちゃん2号を出した。
観衆の歓声が、さらに盛りあがる。
獣人達が乗りこみ、次に俺の家族とモリーネ、ミミ、ポル、そして、最後に舞子が乗る。
舞子が、ステップで手を振ると、町の人たちは、大きな歓声を上げた。
「では、皆さん、またお目にかかりましょう。 行ってきます」
点ちゃん2号のドアが閉まり、ゆっくり動きだす。
温かい声援が、いつまでも史郎達の後ろを追ってきた。
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史郎は、鉱山都市のギルド前で、点ちゃん2号を消した。
ギルドから、化粧っ気が無い中年女性が出てくる。
彼女が、ここのギルマスだ。
俺達の中に聖女の姿を見つけ、駆けよる。
「聖女様! いつぞやは、甥を治していただき、ありがとうございました。
ケン! 出ておいで。 聖女様だよ」
ギルドの中から、いつか俺と舞子を案内してくれた男の子が出てきた。
「せ・せいじょさ・ま。 あ・りがとう!」
「まあ! 練習したのね! 偉いわ」
舞子が、彼の頭を撫でると、まっ赤になりながらも、少年はとてもいい笑顔を見せた。
いつか、聖女に褒められたくて、頑張ったにちがいない。
俺は、胸が熱くなった。
彼の案内で、ポータルへと階段を上っていく。
ポルは、お母さんを背負って登っている。
お年寄りや足が悪い人は、重力付与で浮かせ、点で引っぱりあげる。
元気な人が、うらやましそうにそれを見ていた。
やっぱり、自分の足で登れるなら、登らなくちゃね。
男の子に許可証をチェックしてもらい、いよいよポータルを潜る。
俺とルルは、片手をつなぎ、空いた方の手で、それぞれナルとメルの手を握る。
「パーパ、怖くない?」
ナルは、少し不安そうだ。
「怖くないよ。 だって、皆と一緒だろ」
ナルとつないだ手を、ブンブン振ると、やっと笑ってくれた。
史郎は、家族と一緒にポータルを渡った。
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