上 下
132 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第34話 再び獣人世界へ

しおりを挟む

加藤、舞子、ミツの三人が、王城にやって来た。


彼らが女王陛下に謁見している間、俺は、獣人たちと出発の打ちあわせをしていたから、どういう話がなされたのか知らない。
特に、畑山さんとミツさんの間で。

ただ、その後、加藤が青い顔をして、ブルブル震えていたのが印象的だった。

『ご主人様ー、あれってガクブル?』

そうだよ、点ちゃん。 まさに、あれがガクブルだ。


ミツさんは、俺の前にやってくると、頭を下げた。

「シローさん。 私のために、二つの世界を渡って下さり、本当にありがとうございました。」

彼女は、顔を上げると、俺の目を見た。

「私の命を救ってくれたのは、聖女様はもちろん、シローさんもです」

「ははは。 加藤があなたを助けようと突っぱしってたから、それにあおられただけですよ。
それより、西門であなたを炎から助けられなくて、本当に申しわけない」

「ふふふ、ユウの言った通りですね。 
シローさんは、そう言うだろうと、彼が教えてくれました」

まあ、性格を見抜かれちゃってるからね。

「まだ少し、本調子ではないのでしょう? お大事になさって下さい」

「聖女様が、何度か治癒魔術を掛けて下さいましたから、もうすっかり元気です。
それより、またすぐにポータルを渡られるとのこと、お気をつけて行ってらしてください」

「ありがとうございます」

俺は、舞子、加藤、ミツをウサ子と獣人達に会わせるために、城内にある森へ入っていった。

獣人は、ウサ子の周りに集まり、お祈りしたり、エサらしいものを捧げたりしている。

舞子がウサ子に近づいていくと、ウサ子が頭を低くして甘えた声を出している。

ポルのお母さんが、俺に尋ねる。

「シローさん、この方は?」

あー、どうせばれるなら、早い方がいいよね。

「聖女様です」

「えっ!」

それを聞いた獣人のみんなが、舞子に向かって平伏している。

「皆さん、顔を上げて下さい。 
私は、獣人世界で、獣人の方々にとてもお世話になったのです。 
私は、グレイルが故郷だと思っています。
これから皆さんは、故郷に帰られますが、私もご一緒します」

舞子がそう言うと、獣人達が歓声を上げる。

「聖女様が、ご一緒してくださる!」

「ありがたや~」

「聖女様、聖女様」

お礼を言ったり、祈ったり、忙しいことになっている。

「舞子、いいのか?」

「うん。 もう獣人世界に家もあるし、獣人の人達が落ちつくまでは、協力するつもりだよ」

俺は、背筋を伸ばして、きりっと立つ舞子を見て、本当に嬉しかった。

「じゃ、一緒に行こうか?」

「うん!」

ウサ子に触ろうとして、サッと逃げられている加藤が哀れだった。
だって、最初に会ったとき、加藤はウサ子を殴り倒してたもんね。


俺は、家族を連れて貴賓室に行き、畑山さんにも挨拶する。

「ボー。 獣人達の力になってあげて」

「ああ、分かってる」

「相変わらず、頼りない返事ねえ。 ご家族の皆さん、ボーをよろしくお願いします」

「はっ」

リーヴァスさんが頭を下げたのを見て、娘達も頭を下げている。

畑山さんは、ナルとメルの頭を撫でる。
二人は、初めて見た女王様に、眩しそうな眼をしている。

「お父さんが嫌なことしたら、お姉さんに言いなさい。 叱ってあげるから」

でも、畑山さんには、いつも怒られているから、これ以上叱られるのは勘弁してほしい。
モリーネは、彼女に伝えることがあるらしく、部屋の隅で二人でヒソヒソ話していた。

話が終わると、モリーネが、こちらにやってくる。


「では、参りましょうか」

-----------------------------------------------------------------

女王陛下、勇者、聖女が姿を現したので、城前広場は黒山の人だかりである。


その後を、獣人たちが行進すると、民衆が大きくどよめく。

女王が、演台に上がる。

「皆さん、この度、アリスト王国は、獣人の方々と誼(よしみ)を結ぶことができました。
私は、獣人の国と友好条約を結ぶつもりです」

一瞬、場が静かになる。

勇者加藤が、拍手をする。
民衆は、一気に歓声を上げ、拍手を始めた。

「今から、友好使節として、聖女をかの国に送ります。
皆さん、この国にとっての歴史的瞬間を、共に祝おうではありませんか」

用意してあった、紙吹雪が舞う。
魔術による花火も上がった。

俺は、畑山さんの許可を取って、城前広場(しろまえひろば)に、点ちゃん2号を出した。
観衆の歓声が、さらに盛りあがる。

獣人達が乗りこみ、次に俺の家族とモリーネ、ミミ、ポル、そして、最後に舞子が乗る。
舞子が、ステップで手を振ると、町の人たちは、大きな歓声を上げた。

「では、皆さん、またお目にかかりましょう。 行ってきます」

点ちゃん2号のドアが閉まり、ゆっくり動きだす。


温かい声援が、いつまでも史郎達の後ろを追ってきた。

--------------------------------------------------------------

史郎は、鉱山都市のギルド前で、点ちゃん2号を消した。


ギルドから、化粧っ気が無い中年女性が出てくる。
彼女が、ここのギルマスだ。

俺達の中に聖女の姿を見つけ、駆けよる。

「聖女様! いつぞやは、甥を治していただき、ありがとうございました。
ケン! 出ておいで。 聖女様だよ」

ギルドの中から、いつか俺と舞子を案内してくれた男の子が出てきた。

「せ・せいじょさ・ま。 あ・りがとう!」

「まあ! 練習したのね! 偉いわ」

舞子が、彼の頭を撫でると、まっ赤になりながらも、少年はとてもいい笑顔を見せた。

いつか、聖女に褒められたくて、頑張ったにちがいない。

俺は、胸が熱くなった。


彼の案内で、ポータルへと階段を上っていく。
ポルは、お母さんを背負って登っている。
お年寄りや足が悪い人は、重力付与で浮かせ、点で引っぱりあげる。

元気な人が、うらやましそうにそれを見ていた。
やっぱり、自分の足で登れるなら、登らなくちゃね。

男の子に許可証をチェックしてもらい、いよいよポータルを潜る。

俺とルルは、片手をつなぎ、空いた方の手で、それぞれナルとメルの手を握る。

「パーパ、怖くない?」

ナルは、少し不安そうだ。

「怖くないよ。 だって、皆と一緒だろ」

ナルとつないだ手を、ブンブン振ると、やっと笑ってくれた。



史郎は、家族と一緒にポータルを渡った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...