ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
上 下
130 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第32話 モリーネの秘密

しおりを挟む

史郎達は、加藤と舞子をマスケドニアに残し、アリストへ向かった。


蘇生してすぐは、体が動かしにくく、言葉もしゃべれなかったミツの様子をみるため、加藤と舞子は、マスケドニアにしばらく滞在することになった。

俺は、獣人の護送があるので、まず、獣人国に行かなければならない。
陛下の許可をもらい、点ちゃん2号を使うことにした。
アリストへの幹線道路まで、馬車で送ってもらった後、俺達と獣人は、また、点ちゃん2号へと乗り込む。

今日は、一旦、アリストの王城へ行く。

道中、故郷の世界がだんだん近づいてきていると分かっているから、獣人たちは、みんなニコニコしていた。
若い獣人は、すでに物見遊山モードに入りつつある。
窓から見えるアリストの風景に、興味深そうに目をやっている。

巨大なアリスト城の城門を潜るときには、皆がポカーンとしていた。
そういえば、獣人国には、巨大な建造物が少なかったからね。

女王陛下への謁見では、みんな緊張していたけれど、何とか粗相をせずに済ませることができた。

女王との謁見後、皆で、城内にある森へ行く。
やはり、ここは、神獣様に会わせておきたいじゃない?

巨大な白いウサギに、獣人たちは驚き、次に神獣様と分かって、もっと驚いていた。
全員が平伏したのは、言うまでもない。

立ちあがってくれそうにない獣人達の横で、俺は女王と向き合っていた。


「ボー、おかえり!」

やっと、友達の顔になった畑山が、俺の手を握ってくる。

「よくやったわね!」

大まかなことは、マスケドニアから念話で告げておいた。

「ああ、何とかなったよ。 加藤と舞子は、ミツさんが動けるようになったら、三人でここに来るってよ」

俺の手を強く握る彼女の目には、涙があった。

「大変だったでしょ」

「まあ、いろいろあったが、点ちゃんもいるし、今回は加藤もいたからね」

「獣人の人達は、出発までお城に泊まってもらうといいよ。 あんたは、ルルさんのところへお帰り」

「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

「あの、のほほんとしたボーがね。 よく、これだけ変われるわね」

「いや、変わってないつもりなんだけどね」

「まあ、いいわ。 とにかく、加藤を連れ帰ってくれてありがとう」

俺は積もる話もあったが、獣人を女王陛下に任せて家へ急いだ。

もちろん、点ちゃん1号で、ひとっ飛びである。
ミミとポルは、獣人の世話に残して来たので、俺とコルナ、モリーネの三人が乗っている。

念話でルルに伝えておいたから、家の庭には家族の姿があった。
着陸した点ちゃん1号を消すと、さっそくナルとメルが、俺に飛びついて来た。

「パーパ、おかえりー!」

「パーパ!」

二人が俺を離さないので、コルナがモリーネを三人のところへ連れていく。
三人というのは、リーヴァスさん、マック、ルルである。

驚いたことに、モリーネが近づくと、リーヴァスさんとマックが片膝をついた。

「リーヴァス、久しぶりですね。 マックも変わりませんね」

モリーナが、声を掛ける。

え?  三人は、知り合い?
しかし、リーヴァスの次の言葉で、俺はもっと驚くことになる。

「姫様、お久しぶりです」

姫様!? 


点ちゃんの、『な、なんじゃこりゃー!』が聞こえてきたのは、言うまでもない。

-----------------------------------------------------------------

マックは、史郎が用意していた報告書を持ってギルドへ行った。


ナルとメルは、やっと俺から離れ、今は興味深そうにモリーネを見ている。
なぜか、少し離れた椅子の陰から見ているのが面白い。
娘達も、モリーネの美しさには、何か感じたようだ。

俺とルル、モリーネとリーヴァスさんが、それぞれ二人掛けのソファーに並んで座った。

コルナは、ナルとメルを連れて、二階へ上がった。

テーブルの上には、俺が入れた香草茶が出してある。

「姫様、なぜこのような所へ?」

リーヴァスが、尋ねる。

「……それは、シローに聞いて下さい」

俺は、学園都市で起こったことのあらましと、最後に秘密施設で彼女を見つけたことを話した。

「リーヴァスさん。  なぜモリーネさんのことを、ご存じなんですか?」

「そうですね。 もう、10年になりますか……」

ギルドの指名依頼でエルファリアに行くことがあり、その依頼主がエルフ国王だった。
そのため、城にも招かれ歓待を受けたが、その時、モリーネにも会った。
彼女は、エルフ国の第三王女で、まだ幼かった彼女は、子供あしらいがうまいリーヴァスに付いてまわったそうだ。

「しかし、モリーネは、どうしてあんな所にいたの?」

学園都市世界で彼女が答えなかった質問を、もう一度してみた。

「エルフの王族について知っている、リーヴァスがいるのなら、話してもいいでしょう」

モリーネは、そう言うと、彼女の事情を話してくれた。


エルフの王、つまり、モリーネの父が病にかかり、床に伏せた。

王には、五人の王女がいた。その後、彼女たちの周りで、不審なことが起こるようになった。
高いところから物が落ちてきたり、馬車の車輪が緩んだり、最初は小さなことだったらしい。

ところが、第二王女が原因不明の病で寝込むようになると、事件が次第にエスカレートしていった。

第四王女の乗った馬車が崖から落ち、彼女は九死に一生を得た。

第五王女が、物陰から狙撃された。命は助かったが、左手に障害が残った。

第三王女のモリーネも、離宮へ行く旅の途中、馬車が襲撃を受けた。
顔に布を当てられ、薬を嗅がされた後は、覚えていないそうだ。
次に目が覚めたのは、学園都市上空だったということだ。

エルフの国は、かなりきな臭いことになっているようだ。



史郎は、目の前の美しい少女の境遇を憂うのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...