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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第32話 モリーネの秘密
しおりを挟む史郎達は、加藤と舞子をマスケドニアに残し、アリストへ向かった。
蘇生してすぐは、体が動かしにくく、言葉もしゃべれなかったミツの様子をみるため、加藤と舞子は、マスケドニアにしばらく滞在することになった。
俺は、獣人の護送があるので、まず、獣人国に行かなければならない。
陛下の許可をもらい、点ちゃん2号を使うことにした。
アリストへの幹線道路まで、馬車で送ってもらった後、俺達と獣人は、また、点ちゃん2号へと乗り込む。
今日は、一旦、アリストの王城へ行く。
道中、故郷の世界がだんだん近づいてきていると分かっているから、獣人たちは、みんなニコニコしていた。
若い獣人は、すでに物見遊山モードに入りつつある。
窓から見えるアリストの風景に、興味深そうに目をやっている。
巨大なアリスト城の城門を潜るときには、皆がポカーンとしていた。
そういえば、獣人国には、巨大な建造物が少なかったからね。
女王陛下への謁見では、みんな緊張していたけれど、何とか粗相をせずに済ませることができた。
女王との謁見後、皆で、城内にある森へ行く。
やはり、ここは、神獣様に会わせておきたいじゃない?
巨大な白いウサギに、獣人たちは驚き、次に神獣様と分かって、もっと驚いていた。
全員が平伏したのは、言うまでもない。
立ちあがってくれそうにない獣人達の横で、俺は女王と向き合っていた。
「ボー、おかえり!」
やっと、友達の顔になった畑山が、俺の手を握ってくる。
「よくやったわね!」
大まかなことは、マスケドニアから念話で告げておいた。
「ああ、何とかなったよ。 加藤と舞子は、ミツさんが動けるようになったら、三人でここに来るってよ」
俺の手を強く握る彼女の目には、涙があった。
「大変だったでしょ」
「まあ、いろいろあったが、点ちゃんもいるし、今回は加藤もいたからね」
「獣人の人達は、出発までお城に泊まってもらうといいよ。 あんたは、ルルさんのところへお帰り」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「あの、のほほんとしたボーがね。 よく、これだけ変われるわね」
「いや、変わってないつもりなんだけどね」
「まあ、いいわ。 とにかく、加藤を連れ帰ってくれてありがとう」
俺は積もる話もあったが、獣人を女王陛下に任せて家へ急いだ。
もちろん、点ちゃん1号で、ひとっ飛びである。
ミミとポルは、獣人の世話に残して来たので、俺とコルナ、モリーネの三人が乗っている。
念話でルルに伝えておいたから、家の庭には家族の姿があった。
着陸した点ちゃん1号を消すと、さっそくナルとメルが、俺に飛びついて来た。
「パーパ、おかえりー!」
「パーパ!」
二人が俺を離さないので、コルナがモリーネを三人のところへ連れていく。
三人というのは、リーヴァスさん、マック、ルルである。
驚いたことに、モリーネが近づくと、リーヴァスさんとマックが片膝をついた。
「リーヴァス、久しぶりですね。 マックも変わりませんね」
モリーナが、声を掛ける。
え? 三人は、知り合い?
しかし、リーヴァスの次の言葉で、俺はもっと驚くことになる。
「姫様、お久しぶりです」
姫様!?
点ちゃんの、『な、なんじゃこりゃー!』が聞こえてきたのは、言うまでもない。
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マックは、史郎が用意していた報告書を持ってギルドへ行った。
ナルとメルは、やっと俺から離れ、今は興味深そうにモリーネを見ている。
なぜか、少し離れた椅子の陰から見ているのが面白い。
娘達も、モリーネの美しさには、何か感じたようだ。
俺とルル、モリーネとリーヴァスさんが、それぞれ二人掛けのソファーに並んで座った。
コルナは、ナルとメルを連れて、二階へ上がった。
テーブルの上には、俺が入れた香草茶が出してある。
「姫様、なぜこのような所へ?」
リーヴァスが、尋ねる。
「……それは、シローに聞いて下さい」
俺は、学園都市で起こったことのあらましと、最後に秘密施設で彼女を見つけたことを話した。
「リーヴァスさん。 なぜモリーネさんのことを、ご存じなんですか?」
「そうですね。 もう、10年になりますか……」
ギルドの指名依頼でエルファリアに行くことがあり、その依頼主がエルフ国王だった。
そのため、城にも招かれ歓待を受けたが、その時、モリーネにも会った。
彼女は、エルフ国の第三王女で、まだ幼かった彼女は、子供あしらいがうまいリーヴァスに付いてまわったそうだ。
「しかし、モリーネは、どうしてあんな所にいたの?」
学園都市世界で彼女が答えなかった質問を、もう一度してみた。
「エルフの王族について知っている、リーヴァスがいるのなら、話してもいいでしょう」
モリーネは、そう言うと、彼女の事情を話してくれた。
エルフの王、つまり、モリーネの父が病にかかり、床に伏せた。
王には、五人の王女がいた。その後、彼女たちの周りで、不審なことが起こるようになった。
高いところから物が落ちてきたり、馬車の車輪が緩んだり、最初は小さなことだったらしい。
ところが、第二王女が原因不明の病で寝込むようになると、事件が次第にエスカレートしていった。
第四王女の乗った馬車が崖から落ち、彼女は九死に一生を得た。
第五王女が、物陰から狙撃された。命は助かったが、左手に障害が残った。
第三王女のモリーネも、離宮へ行く旅の途中、馬車が襲撃を受けた。
顔に布を当てられ、薬を嗅がされた後は、覚えていないそうだ。
次に目が覚めたのは、学園都市上空だったということだ。
エルフの国は、かなりきな臭いことになっているようだ。
史郎は、目の前の美しい少女の境遇を憂うのだった。
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