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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第25話 裁判2

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午後の部では、下級研究員、獣人の輸送に関係した者、獣人保護協会の者が、苛烈な追求を受けた。


彼らに関しては、なぜか、溢れるほどの証拠があった。

「上から、命令されただけなんです! 信じてください!」

どれだけ彼らが叫ぼうが、証拠の波がその声を押し流していった。

彼らの命運は、尽きようとしていた。


そのとき、ドアを開け、一人の若者が原告席に走り寄る。

検事としての役割を与えられた官吏が、若者から何か耳打ちされた。

官吏は、それを聞くと、すぐに裁判長の所に走り寄った。

耳打ちされた裁判長は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに落ち着いた声で発言した。

「原告側からの希望で、重要な証人を出廷させます」

場内が少しざわついたが、鈴の音で、すぐに静かになった。

法廷の後ろ脇のドアから出てきたのは、若い女性だった。

学園の研究者用のローブを身に着けている。

「なっ! あいつはっ!」

ブラムは、思わず声を発したが、すぐに口を袖で隠した。

証人席に立った女は、非常に落ち着いていた。

裁判長の方を、真っ直ぐ見ている。

「証人。 自分の名と、職業を述べなさい」

「はい。 名前は、ソネルといいます。 最近まで、獣人の捕獲にたずさわっていました」

大法廷は、一瞬シーンとなったが、次の瞬間、ものすごい騒ぎが巻き起こった。

裁判長の鈴が効果を見せないので、警備の者たちが魔道具で静粛を呼びかけるほどだった。

しばらく経つと、やっと静けさが戻った。

裁判長が、ほっとした顔で続ける。

「獣人捕獲の命令は、どこから出ていましたか?」

「賢人会です」

賢人も、黙っていない。

「証拠は、あるのか!」

「出まかせを、信じるな!」

裁判長が、また鈴を鳴らす。

「獣人の捕獲について、具体的に述べてください」

「はい。 まず、獣人の一種族、猿人族に魔道武器を渡すことで、彼らを手なずけました」

傍聴席の人々は、一言一句、彼女の言葉を聞き洩らさないように、身を乗り出している。

「次に、猿人を使い、村単位で、獣人を狩りました」

法廷は、音一つ無い。

「人体実験用に使う獣人は、優先して捕獲しました」

法廷内は、驚愕のあまり、誰も声を立てない。

裁判長も、新たな事実に戸惑っている。

「じ、人体実験とは、何をしたのでしょう」

「ありとあらゆることです。血液を抜き取ったり、殺して、体組織の一部を、切り取ったりしました」

「な、何のために?」

余りのおぞましさに、裁判長の顔は青い。

「主に、魔道具の材料としてです」

「他にも?」

「ええ、衣類や、機械類、建築素材など、この町を構成するありとあらゆるものに、獣人素材が使われています」

ここに及んで、傍聴人席の人々も、顔が青くなっている。

それは、そうであろう。
自分が着ている服、住んでいる家、使っている道具、それが獣人達の死の上に成り立っているのである。

ソネルは、言葉を続ける。

「例えば、モーフィリンという薬があります。
これは、人の姿かたちを変える薬なのですが、狸人族の血から作られます」

「どうやって?」

驚きの余り、裁判長は、普段の口調に戻っている。

「首輪を着け、記憶を制御した狸人を、特別なカプセルの中に入れます。
意識を失わせたあと、延々と血を抜き取るのです」

気が弱い者は、口を押えたり、頭を抱えて俯(うつむ)いたりしている。余りのことに、精神が耐えきれないのだ。

やっと、落ち着いたのか、法律を専門とする賢人が冷静な声で反論する。

「狸人?  そんな種族がいるのか? 長いこと生きているが、学園都市で一度も見たことはない」

「それはそうです。 全員が、カプセルに入れられているわけですから」

「存在しない種族、存在しないカプセル。 そんなものが、何の証拠になる」

この言葉を聞いた裁判長が、静かだが強い口調で発言した。

「実は、重要な証人が、もう一人いるのです。どうぞ、出て来てください」

その声を合図に、史郎が立ちあがる。

証人席まで進み、ソネルの横に立った。

「あなたの名前と種族を、述べてください」

「名前は、ポルナレフです。 狸人です」

一瞬の静寂のあと、哄笑が響き渡った。 ブラムである。

「わはははははっ!  お前のどこが狸人だ!」

ソネルの証言で窮地に立たされたと思ったが、相手の思わぬ失策に、ブラムは笑いが止まらなかった。

史郎が、くるっと一回転する。

ポンッ

そこには、小柄な獣人の少年が立っていた。

哄笑していたブラムの口が、大きく開いたまま、さらに顎が下がった。

「改めて、紹介します。 狸人のポルナレフです。
僕の一族は、ソネルさんが言う通り、猿人族によって捕獲され、滅びてしまいました」

誰もが、じっとポルナレフを見つめていた。

「僕の父さんも、母さんも……」

彼の目から、涙が落ちる。しかし、それは傍聴人席を埋め尽くす人々も同様だった。
大法廷が、しばらくの間、すすり泣きに満ちた。

それを断ち切ったのは、やはり、賢人の一人だった。

「君が、狸人だとしても、その他の証拠は? 狸人が、捕えられているというカプセルは?
証拠もないのに、いい加減な……」

しかし、彼は、裁判長の顔を見て、言葉を途切れさせた。

彼女は、中空を見つめ、先ほどのブラムより、さらに顎を下げた形で口を開けていた。

賢人は、彼女の気が触れたのではないかと、一瞬疑った。

しかし、彼女が見ていたのは、法廷内ではなかった。


この大法廷は、政府が議会や式典を催す建物の向かいに建っている。

二つの建物の間には、非常に広い空間がある。

その広場が全部翳るほど巨大な建造物が、その上に浮いていたのだ。

裁判長は、窓越しに、それに気づいて驚いたわけだ。



その巨大建造物は、半球形を伏せた形をしていた。
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