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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第18話 獣人救出計画始動

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「ボクに首輪を付けたのは、この人です!」


テコの指先が、突き刺す様に、史郎が助けた女性のほうを向いた。

俺は、女性に話しかけた。

「本当ですか?」

「・・・」

答えられないということは、事実なのだろう。

これで、三人の人族が、猿人の後ろにいたことが分かった。

これまでの情報を合わせると、賢人会主導で、組織的に獣人の略取が行われていたことになる。

俺は、すぐにダンに連絡を取った。
彼は、危険を冒して、また住居までやって来た。

「秘密施設まで見つけたのはすごいが、救助のためとはいえ、嗅ぎまわっている誰かがいると、気づかれたのはまずかったな」

ダンは、渋い顔である。

「今のところは、彼女が施設内に隠れていると思われているようだけどね。
まあ、時間の問題だろう」

「ということは、計画は早めたほうがいいな。
青写真は、もうできているんだろう?」

「ああ、やっと最後の欠片(かけら)が揃ったところだ」

「よし、すぐに聞かせてくれ」


俺は、ダンに計画を話して聞かせた。

----------------------------------------------------------------

パルチザンの参加が決まり、いよいよ計画が本格的に動き出した。


この計画には、大きく分けて、4つの柱がある。

その4つとは、俺の行動、加藤の行動、獣人たちの協力、パルチザンの協力である。

まず、真っ先に行動を始めたのは、加藤である。


彼は、学園に行くと、彼をイジメていた三人を探し、その前に立った。

彼らのローブは、赤とオレンジから、オレンジと茶色に降格していた。

当然のように、加藤に恨み言をぶつけてきた。

「おい、カトゥー!」

オレンジローブの男子が、突っかかって来た。

加藤は、史郎が言った通りに事が運ぶので、驚いていた。

「お前のせいで、クラスが下がっちゃったじゃないか」

「お前のせいだ!」

口々に、騒ぎ立てる。

オレンジローブが、今まで繰り返してきたように、加藤の背中を蹴ろうとした。

しかし、加藤の背中には、当たらなかった。

そのとき、加藤は既に、オレンジの後ろにいた。

軽く、背中に足を添える。

すっと押すと、オレンジローブが、ものすごい勢いで吹っ飛んだ。

飛んでいった所にあった、中庭の植え込みに突っ込んで止まる。

枝による擦り傷で、顔がひどいことになっている。

ほぼ同時に、茶ローブの二人が掛かってきたが、同様の結果に終わった。

やっと立ち上がった、オレンジが叫ぶ。

「貴様、覚悟はできてるんだろうな! 
ボクの父さんは、研究者なんだぞ!」

「そうだぞ!」

「お前なんか、学園を追い出されちゃうぞ」

とても煩(うるさ)い。

周囲は、騒ぎを聞きつけて集まってきたギャラリーで、埋めつくされている。

加藤は、おもむろに、両手をパンと合わせた。

それを合図に、加藤の髪の色が、茶色から黒にさっと変わる。

今まで、ざわついていた周囲の生徒がシーンとなる。

「く、黒髪!?」

三人の顔が、青くなる。

「た、ただ黒髪なだけだろ!」

オレンジが叫ぶが、周囲は聞いていない。

「黒髪! 素敵ーっ!」

「僕たちのクラブに入らないか?」

「サイン下さーい」

加藤が、少年少女に囲まれる。

「勇者でもないのに、大きな顔するな!」

オレンジが言うことなど、誰も聞いていない。

その時、強い風が吹いて、一人の少女のスカーフが、空高く舞い上がった。

ばっ

加藤はジャンプすると、空中でさっとそのスカーフを掴み、5階建ての校舎の上に立つ。

そのまま、ひょいと5階から飛び降りる。

音も立てずに、地上に降り立った。

「「「ワー!!」」」

先ほどまで取り囲んでいた生徒たちが、また、どっと加藤の周りに押し寄せる。

驚きから突っ立ったままだったオレンジと茶のローブが、突き飛ばされ、踏みつけられている。

騒ぎを聞きつけた、何人かの教師が中庭に出てくる。

「この騒ぎは、一体なんだ?」

「先生! 黒髪の勇者様です!」

「えっ!?」

予想外の答えに、教師が言葉を失う。

生徒達の輪の中心を見ると、確かに黒髪の少年がいる。

しかも、この学園のローブを着ているではないか。

「生徒に黒髪の勇者が!」


教師は、すぐシートを取り出し、勇者の存在を学長に報告した。

---------------------------------------------------------------

「ようこそ、トリビーナ学園へ」


学長室では、ターランが、加藤を歓迎していた。

「しかし、勇者様が、我が学園に在籍しておられるとは・・」

ターランは、加藤の右手を両手で包み込み、腰を曲げている。

「気づくのが遅れ、誠に失礼いたしました」

「いや、こちらにも、いろいろ事情がありましたから」

「どうか、このまま我が学園にご在籍下さい」

「はあ。 とりあえず、そのつもりです」

「ありがとうございます」

ターランは、揉み手せんばかりである。

「そうそう。 このことは、中央政府にも知らせてよろしいですか」

「ああ、そうですね。 まあ、構いませんよ」

加藤は、史郎と決めてあったセリフを言った。

「今、どちらにお住まいで?」

「えー、やや遠方の小さな宿ですが」

「おお、それなら、学園の特別室を用意いたしますゆえ、どうぞ、そちらにご滞在ください」

「それは・・ありがとうございます」

「後程、歓迎の宴を開きます。 それまでは、どうぞ、お部屋でおくつろぎを。
スーシェ先生」

「はい、学長」

「勇者様を、ご案内差し上げて」

「はい、承りました。」

加藤は、スーシェに連れられ、特別室が並ぶ区画に来た。

「どうぞ、お入りください」

加藤は、思わず笑いそうになった。 
なぜなら、その部屋が、史郎の待機部屋タイタニックに、そっくりだったからである。

しかも、何と、タイタニックの隣部屋だった。

今、隣の部屋には、自分に念話中の史郎がいるはずである。

「それでは、お部屋の説明を・・」

「ああ、今は、いいですから」

「え? そうですか。 では、また改めてご説明に上がります」

「ありがとうございます」

「勇者様のクラスは、今日から最上級となります。 
私が、担任です。 よろしくお願いします」

「ああ、ありがとう」


スーシェが出て行って少しすると、加藤は隣の部屋のドアをノックした。

「どうぞ」


タイタニックに加藤が入ると、やはり、史郎がいた。

------------------------------------------------------------------

「隣になったときは、本当にびっくりしたぞ」

史郎は、笑いながら、そう言った。

「しかし、はるばる異世界まで来て、また同級生になるとはな」

加藤も笑っている。
俺たちは、転移する前、高校のクラスメートだった。

「部屋の方は、どうだ?」

「ああ、ここと同じだから、勝手知った感じだな」

「そりゃ、良かった。 それに、今後連絡しやすいから助かるな」

「まあ、そりゃそうだ」

「予想通り、政府関係者が食いつけばいいが」

「自信ないのか?」

「いや、まず、大丈夫だろう。 
プライドの高い奴らが、黒髪の勇者と接触しないなんて考えられない。」

「まあ、お前が言うんならそうだろうよ。
で、この後、俺は何をすればいい?」

「加藤は、とりあえず、普通に学園生活を送ってくれ。
次に活躍してもらうのは、政府関係者に会う時だな」

「その後は?」

「賢人会が出張ってくるはずだから、そこが正念場だ」

「分かった」

「じゃ、明日からよろしく頼むよ、同級生」

「ははは、本当に同級生だから、冗談にならないな」



史郎と加藤は、しばし、談笑するのだった。
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