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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第16話 海水浴と山脈施設
しおりを挟む気持ちのいい入浴が終わり、史郎がタオルで体を拭いていると、女に動きがあった。
研究室から出て、長い廊下を奥へ奥へと進んでいく。
まだ、女が誰にも出会っていないことから考えると、この巨大施設の中には、意外に少人数しか、いないのかもしれない。
壁に大きなドアがあり、それを開けて入っていく。
そこは、白い巨大な部屋で、長いテーブルが沢山置いてある。
人が、結構いる。
長いテーブルに着いて、食事をしている。
女は、壁際の突起に、何か話しかける。
3分ほどで、壁に開いた穴からトレイが出てくる。
トレイには、シリアルを固めたバーのようなものと、チューブが載っていた。
どう見ても、まずそうである。
もしかすると、ここの人たちは、食事をエネルギーの補給としか考えていないのかもしれない。
女は、トレイをもち、二人の男性が座っているテーブルに着いた。
「アンナ、町はどうだった?」
女の名前は、アンナと言うらしい。
「退屈だったわよ、もう。
私も、早く上級職に上がりたいわ」
「君、まだここにきて5年じゃないか。
俺は、10年目だぞ」
「そうそう。 早くても、15年はかかるからな」
「でも、あなたたちも、賢人会入りを狙ってるんでしょ」
「まあね。 今取り掛かってる研究がうまくいって、さらに次の段階がうまくいけば、可能性があるかもしれない」
「まあ、気が長い話よね」
「ああ、そういえば、君がいないときに、上からの連絡があったんだ」
「どんな連絡?」
「なんでも、獣人関係の素材搬入が、しばらく途切れるらしい」
「ええっ! それじゃ、私の研究が進まなくなっちゃう」
「お前だけじゃないぞ。
ほとんどの研究者が、獣人素材を使ってるからな」
「まあ、魔道具系は、全滅だろうな」
「一体なんで、そんなことになっちゃったの?」
「その点について、賢人会からの連絡はまだ無いんだ」
「何か、隠してるのかもしれないわね」
「まあ、隠してても、俺たちには、どうしようもないけどね」
男たち二人は、食事を終わり、席を立った。
もちろん、二人にも点を付けて、点の拡散を狙う。
俺は、三人の会話を参考に、点ちゃん1号の位置を調整する。
山脈の西側、つまり、学園都市の反対側の原生林の上に出る。
山を上から見下ろす位置では無く、横上方から見下ろす場所に点ちゃん1号を固定する。
高度を下げたので、機体の色は、空の色に合わせた青色に変えている。
人口密度が低いからか、夜になっても点の数は、20にもならなかった。
史郎は、一旦、住居へ帰ることにした。
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次の日は、学園が休みだったので、朝から山脈施設の観察に向かう予定だったが、皆のストレスが溜まっている様なので、例の群島へ連れて行く。
点が拡散しないと、山脈に行っても意味が無いからね。
初めて島に来る、コルナ、ミミ、加藤は、白い砂浜と青い海に、一発で心を撃ち抜かれたようだった。
この日のために、水着を用意していた、コルナとミミは、さっそく水辺へ走っていく。
ポルは、初めて見るミミの赤いビキニ姿に、顔を赤くしている。
「お兄ちゃん、一緒に泳ぐよ」
俺の手にぶら下がっているコルナは、紺のワンピース型の水着である。
あなた、何か狙ってませんか?
俺が点ちゃんでビーチボールを作ると、全員が凄く喜んでくれた。
ボールラリーや、ウキワにしてぷかぷか浮かぶとか、それぞれ工夫して遊んでいる。
テコのために、一人乗りの小型船も作ってやる。
海岸から余り離れないように設定して、テコを乗せる。
舟は、へさきを向けたほうに進むようにしてある。
テコは、これがすごく気に入って、名前まで付けていた。
でも、いくら何でも「タイタニック2号」は、縁起悪いと思うよ。
加藤は、「探検に行く」と言い残して、島の奥に消えていった。
まあ、奴らしいといえば、らしいけどね。
昼になり、お腹が減ったので、点ちゃん収納から食べ物を出そうとしたら、肩に豚のような獲物を担いだ加藤が帰ってきた。
俺たちは、急遽バーベキューモードになって、各自が働いた。
石を運ぶ者、枯れ木を集める者、水を汲んで来る者。
水は、水の魔道具からでも採(と)れるのだが、加藤が見つけた泉から汲んで来た。
せっかくだからね。
俺は、点ちゃんでコンロを作る。
火属性の点を付けた流木を投げ込むと、すぐに十分な火力になった。
塩やハーブは、点ちゃん収納にちゃんと用意してあった。
アウトドア好きを、舐めてはいけない。
テーブルと各自の椅子を用意すると、いよいよ豚を焼く。
焼き肉のタレが欲しいところだが、ここはアリストで手に入れた、肉のうまみを引き出す、つけ汁を利用する。
ある程度焼けたところで、さらにつけ汁を付けて焼く。
香ばしい匂いに、みんなの空腹が最高頂になった時、ちょうど肉の塊が焼ける。
俺は、獣人世界で手に入れたナイフで、表面がよく焼けた肉をこそげとり、各自の皿に置いていく。
肉の上から、さらにつけ汁を掛けたみんなは、一斉(いっせい)にかぶりつく。
「うわっ! うまっ」
「おいしーっ」
ミミとポルは、歓声を上げながら食べている。
コルナとテコは、黙々と食べている。
真剣な表情が、ちょっと可愛い。
加藤と俺は、馬鹿話の合間に肉を焼き、食べる。
皆が、喉が渇いた頃を見計らって、キンキンに冷えたジュースを出してやる。
点魔法で作ったコップの底に水魔術を付与し、コップ自体の温度が下がるようにしてある。
皆は、点ちゃん収納のジュースの在庫が無くなるまで、飲み尽くした。
泉の水がものすごくうまいのに気づいて、俺はもっぱらそっちを飲んでいた。
お腹が一杯になったので、皆眠くなったようだ。
俺は、点魔法で自立型のハンモックをつくり、木陰に設置していく。
ハンモックには、風魔術と水魔術が付与してあり、涼しいそよ風が吹き上げるようになっている。
皆は、それに横になって、気持ちよくお昼寝している。
まさに、くつろぎの図である。
その間に俺は、バーベキューサイトの後始末に掛かる。
食事の後で、その場所を汚して立ち去るのは、アウトドアマンの沽券にかかわるからね。
豚は、処理が難しい部位を処分し、塩を厚めに塗って、点ちゃん収納に納める。
点ちゃん収納は、収めたものが普通に腐るから、気を付けておかなくてはいけない。
3時間ほどして、眠っている皆を起こす。
「こんなに気持ちよく寝たのは、初めて」
それが、共通の意見だった。
点ちゃん。 みんな、すごく喜んでるよ。
『フフフ。 そう言ってもらえて、よかったですよ、ご主人様』
ピカッ
おおっ! 久しぶりのピカ来たーっ。
初めて見た皆は、すごく驚いてる。
まあ、人の身体が光れば、誰でも驚くよね。
しかも、かなり強い光だからね、今回のは。
「だ、大丈夫なんですか?」
ポルが、心配してくれる。
「ああ。 光るのは、俺の魔法がレベルアップした証拠だから」
「で、レベルいくらになったの?」
ミミが、聞いてくる。
点ちゃん、レベルどうなった?
『レベル12です。 新スキルは、付与:重力ですね』
重力かー、ブラックホールとかできるのかな?
「レベル12だよ」
「えっ!? 魔術のレベルって最高で10までじゃないの?」
「ああ。 そうらしいけど、俺の点魔法は特別みたいなんだ」
「さすが、お兄ちゃん」
コルナが、また腕に抱き着いてくる。
加藤が、意味深な顔で、こちらを見ている。
おい、誤解してるぞ。
こうして、俺たちの一日だけのバカンスは幕を閉じた。
山脈施設の調査のことをすっかり忘れている、のんびり史郎であった。
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