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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第14話 最後の一かけら
しおりを挟む史郎は、自分が組み上げた獣人解放計画の青写真を、再三チェックしていた。
悪くない計画だが、何かが足りない。
その何かが、はっきりしないのが問題だった。
このまま実行すれば、中途半端に終わる恐れがある。
そして、それは、相手から付け込まれる余地があることを意味していた。
しかし、このまま手をこまねいていても、事態が悪くなるばかりである。
どこかで、実行に踏み切る必要がある。
俺は、この状態の青写真を、パルチザンのダンに見せることにした。
どうせ、彼らは、こちらの計画を見てから参加を決めるわけだから、現地に明るいからこそ出てくるアイデアも期待できた。
寮から、この住居へ住まいを移した加藤が、奥から出てくる。
「ふぁ~、こう動かないと、体が鈍っちまうな」
「そのうち、嫌というほど働かせてやるさ」
「おいおい、ほどほどにしてくれよ」
「まあ、どうなるかは、状況次第だ。
ああ、そうだ。 加藤、ダンから、これ預かってるぞ」
俺は、点ちゃん収納から、シリンダーを取りだした。
中には、薄いピンク色の液体が入っている。
「ああ、悪いな」
加藤は、シリンダーを開けて、中を確かめている。
「ああ、そういえば、お前は計画の中で黒髪ってことになってるから、それ、今は使わないでおいてくれ」
「ん? どういうこと?」
「お前には、黒髪の勇者をやってもらう」
「え? そのままだが……」
「お前、演技とかできないだろう。 だから、素のままで行ける役割を考えたんだぞ」
「うーん、感謝していいのか、どうなのか」
加藤が、頭をひねっている。
「ははは、難しく考えるな。 普通にしとけばいいぞ」
「まあ、それならいいが。 今更、勇者に戻らないといけないとはね」
そこに、外から帰ってきたミミが通りかかった。
「今日は、タイタニック料理無いの?」
みんなにタイタニックの話をしたら、そこの料理に、こんな変な名前が付いてしまった。
「休日まで、学園に行かないよ」
そこで俺は、ミミが普段しない行動を取っているのに気付いた。
加藤の体を、クンクンと嗅いでいるのだ。
「ミミ、何してるの?」
「ポルの匂いがする」
「あー、加藤。 ポルと抱きあったりしたか?」
「誰がするか! ポルは男の子だぞ」
「まあ、でも、それもあり得ると思ってな」
「いい加減にしろ。 怒るぞ」
ミミは、加藤が持っている、髪染めの液体を嗅いでいる。
「ポルの匂いがするのは、これみたい」
「ポルの匂いって、どんな匂いだ?」
「う~ん、なんて言ったらいいかな。 お日様に干した布団のような、と言ったらいいのかな」
「あいつ、髪染めと同じ匂いがすると知ったら悲しむな」
「でも、少しだけ、違う匂いもするのよね」
ミミは、考え込んでいる。
俺は面白くなって、コルナも呼ぶことにした。
念話で話すと、自分の部屋から出てくる。
「コルナ、この液体からポルの匂いがするらしいんだけど、君も嗅いでみてくれないか」
「また、お兄ちゃんは。 こんなことのために、ウチを呼んだの?」
不満を言いながら、それでも容器を嗅いでくれた。
「ああ、確かにポルっぽい匂いがするわね」
「でしょ。 正確にいうと、ポルが汗をかいたときの匂いね」
さすが、獣人。 俺達では、ありえないほど鼻が利く。
「そう言われてみれば、確かにポルの匂いだね」
ああ、そうだ。 一番頼りになる存在を忘れてたぞ。
「ミミ、ポルとテコを呼んできてくれ」
「テコは、お昼寝中で、ポルもそれに付き合ってるよ」
「構わない。 とにかく起こしてきてくれ」
奥から、欠伸をしながら、ポルがやってくる。
彼に手を引かれているテコは、寝ぼけまなこだ。
「テコ、これ嗅いで。 何の匂いがするか当ててごらん」
俺が言うと、テコは目を擦りながら、シリンダーに鼻を近づけた。
その瞬間、彼は、ビクッとして動かなくなった。 尻尾が、太くなっている。
「こ、これは、何?」
「髪を染めるための液体だよ」
「なんで、血の匂いがするの?」
「えっ!? ポルの匂いじゃないのか、テコ?」
「ポルさんの匂いと、血の匂いが混ざってるよ」
一体、どういうことだ。もしかすると・・
俺の勘が正しければ、これが計画の最後の一片になるかもしれない。
加藤からシリンダーを取り上げ、天井の明かりに透かして見る。
史郎の思惑とは関係なく、物言わぬ液体は、ガラス越しに静かにたゆたっていた。
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