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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第12話 ボスとの会見

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次の日の朝、赤い服を着た配達人が、シートを届けに来た。


シートは、学校のものよりやや大振りで分厚い。

旧型かもしれない。

画面に触れると、「昨日会った男の名は?」と表示される。

「ラジ」と入力すると、地図データと時間が表示される。

時間の数値が減っていってるのは、残り時間だからだろう。

ということは、5時間後か。

俺は、すぐに学校のシートを取り出し、欠席の連絡をした。

すぐに、一人で指定の場所へ向かう。

地図を見ると、歩いて30分くらいのところにある公園である。

俺は、ゆっくり歩いて目的地に向かった。

念のため、周囲1kmほどを、点ちゃんでチェックしながら。


目標の公園は、雑然とした通りの片隅にあった。

人通りは多いが、忘れられた空間、そう感じられた。

公園には、遊んでいる子供たちの姿も無く、閑散としていた。

灰色の服を着た太った男が一人、掃除用魔道具であろう、掃除機のようなものを動かしている。
頭にも、灰色の帽子をかぶっている。

「ご主人様ー、十人がこちらを見張ってるよ。 三人は獣人」

点ちゃんから、報告が入る。

しかし、誰もいないように見えて、十人も隠れているとは。

パルチザンの本領発揮というところか。

俺は、噴水脇のベンチに腰掛けた。

約束の時間が来て、シートから鈴の音がした。

気を付けていないと聞き逃すような、小さな音である。

ちょうど俺の近くで掃除していた男が、ちらりとこちらを見た。

次の瞬間、男が目の前にいた。

すでに、拳が俺の目の前にある。

ガーン

金属を殴ったような音が響く。

男は一瞬で、さっき居た辺りまで下がっていた。

痛そうに、手を撫でている。

丈夫な奴だな。 俺を殴って、ケガをしなかった人間は初めてだ。

今度は、ゆっくり近づいて来る。

「シローだな」

殴らなかった方の左手を、差し出してくる。

「ああ」

俺は、相手に合わせて、左手で握手した。

「ご挨拶だな」

「すまん。 強いと言われると、挑戦してみたくなってな」

コルナのせいか。

「で、あんたの名は?」

「ダンだ。 ここではなんだから、話せるところへ来てくれるか」

「いいだろう」

「しかし、本当に一人で来るとはな。 
度胸があるぜ」

俺は、一人じゃないからな。

『ご主人様ー、(^▽^)/』

頼りにしてるよ、点ちゃん。

「ああ、連れてってくれ」


ダンと史郎は、肩を並べて、裏通りに入っていった。

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ダンは、古道具屋のような店の前にくると、ドアを開けて入っていく。


お爺さんが、カウンターの後ろに座っていたが、二人はお互いに頷きあっただけだった。

俺も、彼らに合わせ、黙ってカウンターの後ろを通り抜ける。

二つドアをくぐり、積み重なった箱が置いてある部屋まで来る。

薄暗く、埃っぽい。

ダンは、無造作に積み重ねられた、箱の一つを横に動かした。

金属製のハッチが現れる。

彼は、独特のリズムで、それをノックした。

ハッチが上がると、女性の犬人が顔を出した。

ニッコリ笑うと、二人を中に招き入れる。

階段を降りると彫刻された木製の扉があり、女性がノックすると、それが開いた。

中は絨毯が敷かれ、立派な応接セットが置かれていた。

「ありがとう、ドーラ」

ダンがそう言うと、すらりとした犬人の女性が微笑んだ。

綺麗なしっぽを振りながら、奥の部屋に消える。

「改めて、自己紹介するぞ。 俺はダンだ」

「ああ、俺はシロー。 よろしく」

「お前のことは、コルナから聞いてる。 
あいつの評価通りかもしれんな、もしかすると」

コルナめ、一体何を話したんだ?

「ああ、そういえば、これ脱いだ方が説明省けるな」

ダンが深くかぶっていた帽子を脱ぐ。
下から出てきたのは、黒髪だった。

すでにミミとコルナから、彼のことを聞いていたので、驚かなかった。

俺も、頭の布を外してもよかったんだが、面倒くさいから放っておいた。

「黒髪の勇者だな」

「ああ。 7年ほど前になるか、この世界に転移した」

「日本のどこから?」

「北海道だ」

「へえ」

「お前は?」

俺は、中国地方のある県名を答えたが、彼は首をひねっていた。
まあ、目立たない県だからね。

「ダンは、どうしてパルチザンなんか、やってるんだ?」

「ああ、話すと長くなるが、きっかけは、さっきのドーラだ」

ダンの話は、次のようなものだった。


この世界に召喚されてすぐは、黒髪の英雄ということで、随分チヤホヤされていた。

ところが、ある日、この世界の移動手段、カプセルに乗って走っている途中で、道にフラフラ出てきたドーラをはねてしまった。

幸い彼女に大したケガはなかったが、このとき首輪が破損して、彼女は記憶を取り戻した。

看病していたダンは、余りのことに驚いたが、すぐに世話になっている研究者たちのグループに報告した。

しかし、彼らは、事を公にするどころか、隠蔽にかかった。

ドーラは、何度も命を狙われ、ダンがその度に彼女を助けた。

研究者たちは、ダンの命まで付け狙うようになった。

この研究者たちのグループは、「賢人会」といい、学園都市を実質支配しているそうだ。


「賢人会の研究者は、どこに住んでいるんだ?」

「それは、俺達も探っているところでな。 奴らの最高機密らしい」

「なるほどな」

「ところで、加藤は元気か?」

「ああ、元気だ。 心配してもらった暴走も、今のところはないよ」

「そうか。 一本気な奴だから、心配してたんだ」

「あいつが、いろいろ世話になった。 ありがとう」

俺は、頭を下げた。

「ふ~ん、やっぱり、ちょっと普通の勇者とは違うな、お前は」

「ああ、俺は、勇者でも何でもないからな」

「さっきのことから言うと、ちょっと信じられんがな」

公園で攻撃してきたことを、言ってるのだろう。

「ああ、そうだ。 加藤に、これ渡しといてくれ」

ダンは懐から、ごく薄いピンク色をした液体が入った、シリンダーを取り出した。

「これは?」

「髪の色を変える薬さ」

「ほう」

「これは、かなり薄めたものだから、髪の色くらいしか変わらんが、
原液は凄いぞ」

「どう凄いんだ?」

「原液は『モーフィリン』と言うんだが、姿形から、声まで変えてしまう」

「凄いな」

「俺達が、賢人会のアジトにたどり着けないのも、それが原因じゃないかと考えている」

「というと?」

「賢人会のメンバーは、学園都市にいる間はモーフィリンを使い、他人に成りすましているんじゃないかと考えている」

なるほど、それなら尾行も出来ないだろう。

「この世界に来たころは、賢人会のメンバーと会っていたと言っていたが、それはどうやった」

「黒髪の勇者は、ポータルズ世界で、ヒーローだからな。 
普通なら行けないところにも行けたし、政治を行う場にも呼ばれたことがある」

「そうか。 政治は、中央の行政区で行われてるのか」

「ああ。 賢人会のメンバーは、重大な決定をするときにだけ、行政区にやって来るようだ」

「なるほどな。 どこから来るかは、分からないわけか」

「そうだ」

すでに、史郎の頭には、学園都市攻略の青写真が出来上がりつつあった。

「俺達が手を結べば、何とかなりそうだな」

「パルチザンが、それなりの人数で何年も掛かって尻尾(しっぽ)もつかめないのに、一体どうやるつもりだ」

「計画が煮詰まったら、あんたに連絡する。 
この計画は、秘密保持が肝だ。
パルチザン内部でも、本当に信頼が置ける、最小限の人数にしか伝えるな」

「よし。 こちらは計画の中身を見てから、参加を決めるがいいか?」

「当然だ。 予定では、この件で俺の仲間とパルチザンは、一人も失われない」

「そんな夢のようなことが、できるのか?」

「ああ、できる」

「そんなことが出来るのは……英雄だけだな」

「ははは。 勇者でもないのに、英雄か?」

「ま、こちらは、お前任せだから、とにかく計画が出来るのを待ってるぞ」

「ああ、それと、実行には獣人の協力も必要だ。 
今から、信頼できる獣人を、選びに掛かっておいてくれ」

「わかった。 戦闘力が高いのがいいか?」

「いや、むしろ戦闘力が、皆無の獣人から選んでくれ」

「……大丈夫か?」

「ああ、基本的に彼らは、戦いの場に来させないからな」

「分かった。 じゃ、頼むぞ」

俺達が握手すると、ドーラが飲み物と軽食を持って来てくれた。

あたりさわりのない会話をしながら食事をしたが、ダンとドーラの仲の良さが伝わってきた。



二人を見て、アリストにいるルルのことを思い出す史郎だった。
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