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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第7話 試験結果と違和感
しおりを挟む受験後、史郎が家に帰ると、ポルとテコが少し疲れたような顔をしていた。
まあ、一日中家の中にいるから、飽きちゃったんだろうね。
俺は、二人を庭に呼んだ。
一目では獣人と気づかれないように、テコはフード付きローブを羽織っている。
点ちゃん1号に乗せて、一気に空へ上がる。
テコは、目を丸くしている。
学園を探すために上空からこの世界を調べたとき、目を付けておいた場所に向かう。
大陸北東の海上に浮かぶ群島である。
上空から人が住んでいないのを確認した後、島に降りる。
目の前には、真っ白な砂浜とコバルトブルーの海が広がっている。
「うわーっ!」「すごい!」
二人は服を脱ぐと、一直線に海へ飛び込んでいった。
まあ、点ちゃん付けてるから、海生のモンスターに襲われても大丈夫だしね。
大型の魔獣がいないのは、すでに上空から調べてある。
俺たちは、海で泳いだり、近くにあった古い難破船を調べたりして、暗くなるまで遊んだ。
家に帰ると、コルナがおかんむりだった。
「一体、どこ行ってたの!
お兄ちゃんとポルはともかく、テコがいなくなったら心配するでしょ!」
あちゃ~、島で念話しとけばよかったよ。
ポルが島で泳いだことをミミに話して、余計に叱られている。
「あんた達だけ遊んでたの!?」
史郎とポルは、ミミとコルナの前に正座させられ、長いことお説教された。
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次の日、赤い制服を着た男が、受験で使ったものに似たシートを持ってきた。
どうやら、地球の郵便配達のような仕事をしているらしい。
男は俺にシートを渡すと、サインを求めてから去っていった。
シートに触れると、名前と受験番号が表示される。
それに指で軽く触れると、ローブを来た老人が画面に現れた。
「シロー君、合格おめでとう。
私は、学長のターランだ。
君は特待生として、我が学園に入学することになった。
授業料、学費共に免除となる。
寮に入りたいなら、それも無料だ。
詳しい説明は、明日学園で行う。
9時に受付に来てくれたまえ。
では、そのときに会おう」
メッセージが終わると、画面は黒に戻った。
俺はコルナ達に、学園の調査に向かうことを告げた。
「私たちは私たちで、やることがあるから」
コルナは、何か心に決めた計画があるらしい。
史郎は彼女にテコの世話を頼むと、次の日に備えて早めに寝た。
-------------------------------------------------------------
次の日、史郎は予定の9時ぎりぎりに、学園の受付に到着した。
スーツのような服の上から、黒いローブを羽織っている女性が俺を待っていた。
「シローさんですね?」
20台後半だろうか。
落ち着いた雰囲気の女性である。
俺は、黙って頷いた。
「私は、スーシェといいます。
この学園の教師です。
今日は、あなたを学長のところまで案内する係を、言いつかっています」
教師が、わざわざ一生徒を案内する?
俺は、警戒感を高めた。
早足に歩くスーシェの後をついていく。
受験会場を越え、どんどん奥に進むと、突き当りの扉に触れる。
中は、いつか見た、この世界のエレベーターになっていた。
扉の数字が5になり、俺たちは外に出た。
端が見えない長い廊下には、赤い絨毯が敷き詰められている。
降りてすぐ目の前の扉の前で、スーシェが呪文を唱える。
きっと、ノック替わりだろう。
扉は音もなく内側に開いて、史郎達は中に入った。
-------------------------------------------------------------------------------------
部屋は20畳はあり、壁の三面は書籍で埋まっている。
残った一面は、外の景色が見渡せた。
山頂に雪を頂いた、この大陸の中央山脈が見える。
まさに絶景である。
その景色を背に、昨日映像で見た老人が座っていた。
思っていたより小柄だ。
うりざね顔をしている。
髪が後退したのか、額がやけに広い。
肌の色は青白くて、あまり健康そうには見えない。
「シローさんを、お連れしました」
そう言うと、スーシェは扉の横まで後ろに下がった。
「おお! 君がシロー君か。
この学園へようこそ」
ターラン学長はそう言うと、革張りの椅子から立ち上がり、俺の前まで来た。
手を差し出しているのは、握手しろということだろう。
俺は仕方なく、その手を握った。
しかし、一介の学生に対する対応ではない。
王族としての証明書が利いているのか、黒鉄の冒険者であることが伝わったのか。
とにかく、そういったことは相手に任せて、今は情報を引き出すのに集中しよう。
「シローと言います。
よろしくお願いします」
『ご主人様ー』
なんだい、点ちゃん。
『この部屋って、いろんな種類の探知機がいっぱいあるね』
なるほどね。 ただ挨拶してるだけじゃないんだね。
「本来、入試で一番の君が新入生挨拶をするべきだが、今回はコーネリアがその役をすると、以前から決まっていてね」
「コーネリア?」
「ああ、今回の入試で2番だった子だよ。
赤髪の目立つ子だから、見知っているかもしれない」
ああ、信号機ちゃんか。
『ご主人様ー、それはひどいんじゃない?』
だって、最後は点ちゃんも、ちょっと怒ってたでしょ。
『でも、ご主人様といっぱい遊べたから』
そうだね、また遊ぼう。
『わーい!』
俺が点ちゃんと話している間、学長はいろいろ学園について説明してくれていたらしい。
聞いてませんでした。
どうも、すみません。
「……ということなんだ。
では、よろしくお願いします」
俺は最後の所だけ聞いて、何とか反応した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、スーシェ先生。
シローさんを、待機部屋までご案内して差し上げて」
「はい。 シローさん、こちらへどうぞ」
どうも、この世界は居心地悪いな。
くつろぎを邪魔する匂いが、プンプンする。
同じく5階の一室に、案内される。
部屋は、学長の部屋と同じくらいの広さがあった。
内装、家具共に学長室より豪華である。
な、なんじゃこりゃー!
俺は、心の中で突っ込んでおいた。
これではギルドで、マウシーが案内した部屋と同等以上である。
つまり、生徒なのに、なぜか国賓待遇以上?
「このお部屋は、シローさん専用となります。
ご自由にお使いください」
どうなってんのこれ?
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