上 下
104 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第6話 点ちゃんと入学試験2

しおりを挟む


実技試験が始まった。


受験生が立っているところから、20m~50mくらい離れた地面から、いくつかのポールがせり上がる。

高さは、1m50cmくらいだろうか。
ポールの先端には丸い板がついており、同心円が書かれている。

「では、自信がある距離で、ポールの前に並んで下さい。
この緑の線を、越えないように」

案内役の制服を着た女性が、足元の線を指さす。

20人の生徒は、各標的の前に移動した。

ほとんどの生徒が、30m~40mの距離を選んでいる。

「魔術を10回撃って、的に当たったものだけが得点となります」

なるほど、遠い的をイチかバチかで狙うか、近くの的を確実に狙うか。

まあ、俺の魔法に距離は関係ないから、50mのところに並ぶ。

50mのところに並んだのは、俺と赤い髪の少女だけだった。

「では、準備が出来た人から、始めてください」

俺たちの後ろには、遠見の魔道具を持った係員たちが椅子に座っている。
当たったか当たっていないかは、彼らが判定するのだろう。

『わ~い、楽しそう』

まあね。 点ちゃんにとっては、そうでしょうよ。

「私から先に行かせてもらうわ」

赤髪の少女は自信があるのだろう。
自分から的に向かっていった。

彼女が小さく呪文を唱えると、ゴルフボールくらいの火の玉が飛んでいく。

バンと音を立てて、的の左側に当たった。

少女は、ガッツポーズだ。

次の火の玉も、ほぼ同じ位置に当たった。

他の生徒から、歓声が上がる。

結局、彼女は、10発中8発を的に当てた。

生徒は、俺を除き全員が拍手していた。

だって、凄いのか凄くないのか、てんで見当がつかないんだもん。

「次、あなたどうぞ」

係員に促されて、緑の線の手前まで進む。

前の彼女をまねして、標的に向かって手を伸ばしてみる。

本当は、こんなことする必要なんかないんだけどね。

じゃ、点ちゃん。 いってみよう。

『はーい!』

的の辺りで、小さな音がした。

「あー、10回終わりました」

係員の顔色が変わる。

「あなた、まだ詠唱もしてないじゃない」

「でも、もう10回撃ちましたよ」

遠見の魔道具を持った審査員も、いくら魔道具を覗いてみても、当たっているかいないか、分からないようだ。

とうとう、審査員が的のところまで行って、ポールを床から外し、こちらまで持ってきた。

審査員達が、的に集まる。

「あー、やっぱり、当たってますね」

俺が的の中央を指さすと、そこに5mmくらいの小さな穴が開いていた。

「こ、これっ! 一つしか当たらなかったの?」

「いえ。 ここに10発全部当てました」

皆が、シーンとなる。

沈黙を破ったのは、赤毛の少女だった。

「そんなはずない! 
詠唱もせずに、どうやって10回も魔術を撃つのよ」

『ご主人様ー、10回撃ったよ』

分かってるよ、点ちゃん。

「どうやっても何も、実際に出来たんだからしょうがないでしょう」

俺が反論すると、少女の顔が髪と同じ色になった。

おいおい。 体に悪いぞ、それ。

「君。 とにかく、もう一回撃ちたまえ」

男性の係員が、場を収めようとする。

「今度も10回ですか?」

「ああ。 できるなら、10回と分かるように撃ってくれ」

随分な注文である。

点ちゃん、まただって。

『わーい!』

まあ、そうなるよね。

今回は、点ちゃんに、ある指示を出しておいた。

緑の線の手前に立ち、手を伸ばして、魔術を使う格好をする。

的から小さな音がする。

「はい、終わりました」

「えっ? もう?」

さっきはいなかった審査員が、呆れている。

また、一人が的を取りに行った。

皆が的に集まる。 
今度は、受験生まで集まって来た。

皆が的を見ると・・

(^ ^)

的の中心に、顔状に穴が開いている。

全員ポカーンとした顔をしている。

「最初から、そんな穴が開いてたのよ」

赤毛は、全く信じていない。

再び、やり直し。

的を調べると・・

(・_・)

「こんなこと、ありえない!!」

赤毛は、興奮のあまり涙を浮かべている。

再び、やり直し。

(`Д´)プンプン

今度は文字つきですか。

『ご主人様ー、まだー? もう飽きちゃった』

だよね。 最初の入れたら、すでに4回連続だもんね。

赤い髪の少女は、青くなっている。
赤くなったり青くなったり、君は信号機ですか。

みんな、疲れた顔をして、ぞろぞろと本来の自分の位置に戻っていく。

何なんだろうね~、これ。


全員の試験が終わり、少しするとまたシートがぴろ~んと鳴って、順位が表示された。

俺の名前は、一番上にあった。

まあ、これだけやっとけば、不合格はないでしょ。



自分のやり過ぎに気づかない、能天気な史郎であった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。 だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、 そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。 そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、 一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。 そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、 災厄級の存在となってしまう。 この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。 著作権は作者である私にあります。 恋愛要素はありません。 笑いあり涙ありのファンタジーです。 毎週日曜日が更新日です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎
ファンタジー
 人々を恐怖に陥れる存在や魔族を束ねる王と呼ばれる魔王。そんな魔王に対抗できる力を持つ者を勇者と言う。  そんな勇者を支える存在の一人として、聖女と呼ばれる者がいた。聖女は、邪な存在を浄化するという特性を持ち、勇者と共に魔王を打ち破ったとさえ言われている。  だが、代が変わっていく毎に、段々と聖女の技が魔族に効きにくくなっていた…… 今代の聖女となったクララは、勇者パーティーとして旅をしていたが、ある日、勇者にパーティーから出て行けと言われてしまう。 勇者達と別れて、街を歩いていると、突然話しかけられ眠らされてしまう。眼を覚ました時には、目の前に敵である魔族の姿が…… 人々の敵である魔族。その魔族は本当に悪なのか。クララは、魔族と暮らしていく中でその事について考えていく。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...