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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第3話 学園地区

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史郎たちは、四人でギルドに来ていた。 


三人の首元には、点魔法で作った偽物の首輪が付けてある。

ギルドの建物は大きいのに、受付の窓口は一つしかない。
壁の依頼を見ると、ペット探し、引越しの手伝いなどで、採集依頼も討伐依頼も無い。
変わったところでは、家庭教師の依頼がある。

どうやら、この町のギルドは、便利屋のようなことだけしているらしい。

俺は、ベテランっぽく見えるギルドメンバーに話しかけてみた。

「こんにちは」

「ああ、新人かい?」

「いえ、別の世界から来たばかりで」

「ああ、なら調子狂っただろう。
 他の世界とはちょっと違うからな、ここのギルドは」

「ええ、依頼を見て、ちょっと驚いたところです。
ところで、俺は黒髪の少年を探す依頼を受けて、この世界に来たのですが、何か心当たりはないですか」

「黒髪? ギルドには、いねえな。
そいつの年は?」

「17です」

「なら、学園にいるんじゃねえか?」

「学園ですか」

「まあ、学園って言っても、数限りなくあるから、そのどこにいるかは分からねえけどな」

「いえ。 それでも助かりました。 
ありがとうございました」

「この世界じゃ、学園に属してない若者は、人と見なされねえからな」

「そうなんですか」

「ああ。 そりゃもう、獣人扱いだぜ」

そこで彼は、俺の後ろの三人を見た。

「おっと、こりゃ、余計なこと言っちまったな。 
じゃ、人探し、うまくいくといいな」

彼が席を立つとき、初めて左手が義手であると気づいた。

「ありがとうございました」


史郎は、そう言って頭を下げた。

-----------------------------------------------------------------

他の三人が依頼の紙をチェックしている間に、史郎は受付の女性から情報を引き出すことにした。


まず、カウンターにギルド章を出す。

若い受付の女性は、ちょっとびっくりしたようだが、すぐに平常心を取り戻した。

「いらっしゃいませ。 ご用件は、何でしょうか」

「人を探してるんですが」

「何か、その方の特徴はありますか」

「17才の少年で、黒髪です」

「17才なら学園にいるはずです。 
黒髪なら、すぐに見つかると思いますよ」

「しかし、学園は無数にあると聞きましたけど」

「魔道具、錬金術、魔術など、地区によって大きく分かれていますから、分野が分かれば、探すのは可能だと思います」

「そうですね……魔術の学区は、どこになります?」

「魔術だと、A地区ですね」

「地図は、ありますか?」

「はい、ございます」

地図は、精緻に書かれたものだった。

場所をタップすると、その付近が拡大される。


目的のものを手に入れたので、俺はA地区へ向かうことにした。
「俺は、これから友人を探しに他の地区へ行くけど、みんなはどうする?」

「私は、ちょっと町をぶらついてみる」

コルナがそう言うと、ミミとポルがコルナの手を取る。

二人とも、コルナと一緒に行きたいらしい。

「分かった。 じゃ、何かあったら、念話で連絡してくれ。 
気をつけてな」

「お兄ちゃんも、気を付けてね」

借りている家の鍵でもある指輪を、コルナに渡しておく。

ギルドを出ると、地図を片手に、俺は目標のA地区に向かって歩き始めた。

ギルドがある地区は南にあるD地区で、中央の行政区を挟んで、北側にあるのがA地区の学園区である。

しかし、いくら歩いても、中央区にすらたどり着かない。
のっぺりした白いビルが並ぶ、同じような風景が続くだけである。

よく地図をみると、縮尺の倍率がものすごく小さい。
なんと、100万分の1の地図だった。

計算してみると、中央区まで、まだ200km以上ある。

俺は、空から探すことにした。

人気がないビルの間に入り、点ちゃん1号を出す。
乗り込むと、一気に上昇させる。

高層ビルの林をあっという間に抜け、空へ上がる。
さらに上昇させ、大陸全部が見えるところまで来た。

大陸は、ナスビのような形をしており、大きな山脈で二つに断ち切られていた。

東側は都市群で、西側は緑に覆われている。
東側全部が学園都市とすると、信じられないほどの規模である。

俺は高度を下げ、A地区が視認できるところまで降りる。

高いビルの頂上に、一気に着陸した。

頂上には柵らしいものもなく、人は誰もいない。

俺は階下へ降りるハッチ型のドアを見つけると、点魔法でロックを解除し、中に入った。

エレベーターらしきものを見つける。
円筒形のチューブで、扉に大きく番号が書いてある。
157とあるので、ここは157階なのだろう。
扉に触れると、数字の色が変わった。

少し待つと、音もなくドアが消えたので中に入る。

上方を見ると、何も見えない。
床だけがある構造のようだ。

下に降りる感覚が終わると、扉が開く。
一階に着いたようだ。
外ではカプセル型の乗り物が走っている。

俺はビルから外へ出ると、道沿いに学園らしいものを探して歩いた。

同じ服装を着た子供たちが出入りしている建物を見つけた。

学校だろう。

一人の少年を呼び止め、尋ねてみる。

「君、済まないが、A地区で一番大きな学園はどこだい?」

「ああ、それでしたら、この道を500mほど行ったところですよ」

「ありがとう」

少年が俺の頭に巻いた布に興味を持ち始めたのが分かったので、足早に立ち去る。

目的地は、すぐに見つかった。

他のビルは道に沿って立っているのに、その部分だけは50mほど奥に入ったところに建っている。
前のスペースは、噴水付きの花壇になっている。

建物は、ものすごい規模を誇っていた。
端が見えないほど、5階建てくらいの高さの建物が続いている。

俺は、やっと入り口に着くと、受付のような所へ向かった。

窓口は5つもあり、多くの人が並んでいる。

中には、首輪が付いた獣人を後ろに立たせている者もいる。

俺は、列の後ろに並んだ。

30分ほどで、順番がくる。

ポータルを出てすぐ会った男たちと同じような、無機質な表情の若い女性が受付をしていた。

「次の方」

「こんにちは。 俺は冒険者でシローといいます。
この学園に友人がいるはずなんですが、探してもらえますか」

「申し訳ありません。 
学生の情報は、一切、外部に漏らせない決まりになっています」

まるで、ロボットのように感情がこもらない声である。
もしかすると、本当にロボットかもしれない。

「そうですか……学園に入学するには、どうすればいいのですか」

「入学は、常時受け付けています。 
今、手続きをされますか?」

「お願いします」

俺は、王からの紹介状を出し、自分の名前を書いた。
出身地は、アリストにしておく。

「では、入学試験は3日後となります。 
朝9時までに、ここへ来て下さい」

女性は、さっき渡した紹介状を返してきた。

「では、手続きはこれで終わりです。
紹介状は、3日後も必要です」

女性はそれだけ言うと、全く抑揚が無い声で「次の方」と言った。



史郎はビルの間に入り、点ちゃん1号で借りている家まで戻った。
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