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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第2話 首輪
しおりを挟む貴賓室で待つ史郎たちは、やりたい放題していた。
マウシーが出て行った後、ミミはメイド服の女性に、お菓子やらジュースやら大量に持ってこさせた。
まあ、余ったら点ちゃん収納に入れとけばいいけど、ほどほどにね。
ポルは、やってきたお菓子やジュースをお腹いっぱい食べると、フカフカの大型ソファーにうつ伏せに寝そべって「こんなに幸せで、いいのでしょうか~」って言っている。
コルナはソファーの上で俺に胡坐を組ませ、その上に後ろ向きに座ってジュースを飲んでいる。
なんじゃ、この光景は。
点ちゃん1号に、乗ってるときみたいだな。
点ちゃんは、マウシーが残していった「ノ」の字形の口ひげに夢中である。
1時間ほどすると、やっと獣人保護協会から人が来た。
中年の女性と、若い男性の二人である。
二人とも、パリッとしたスーツのようなものを着こなしていた。
「失礼します。
獣人保護協会から来たマーサと申します。
彼は、技術者のトニーです」
俺が挨拶を返すと、トニーは、下げていたアタッシュケースから、輪投げに使う輪のようなものを3つ取り出した。
「ちょっと、調べさせてくれ」
俺はそう言うと、輪っかを手に取る。
点ちゃん、何か分かる?
『・・・脳の働きを、制御しちゃうみたい。
時間をかけて、記憶を書き換えるようになってる。
位置情報発信や、音声情報発信の機能も付いてるー』
なるほどね。 じゃ、シールドで覆っておくかな。
『ご主人様ー。 着けた後で、外しちゃう方が簡単だよ』
お、それもそうだ。
そっくりなものを、点魔法で作って着けておけばいいんだもんね。
「では、お願いしていいかな」
俺は輪っかを若い男に返した。
彼は、それをコルナの首元に持っていくと呪文を唱える。
カチリという音を立てて、首輪がはまる。
その後、ミミとポルにも首輪を着けると、二人はそそくさと帰っていった。
ハンカチで口元を押さえた、マウシーが入ってくる。
部屋の中をきょろきょろ見回しているのは、片方の口ひげを探しているからだろう。
「心ばかりのお詫びに、ギルドから宿泊施設を提供いたします」
彼はそういうと、地図と小さな布袋を渡してくる。
「ご用の際は、何なりと申しつけください。
では、失礼します」
彼は去り際まで、きょろきょろ辺りを探していた。
史郎たちは、お菓子やジュースを点ちゃんの中にしまい込むと外へ出た。
---------------------------------------------------------------------
外から見たギルドの建物は、全体が白い素材でできていた。
町は、驚くほど地球の都会に似ていた。
違うのは、まずビルの高さである。
遥か上方までの高層建築が林立している。
しかも、そのビルには、窓らしきものが無い。
ただ、のっぺりした白い壁面があるだけである。
文明でいうと、明らかに地球より進んでいそうだ。
通りを歩く人は少ない。
長さ2mくらいの卵型のカプセルが、道路の少し上を音もなく移動している。
移動用の魔道具だろう。
俺たちは、ギルドでもらった地図に沿って、目的地に向かった。
通行人の半分くらいは、色違いだが形が同じ服を着ている。
色違いのローブを羽織っている者も多い。
男女問わず、同じ形の様だ。
地球の町に比べて、驚くほど静かである。
地図が示す場所には、庭付きの大きな平屋があった。
シンプルな箱型で、やはり窓は無い。
途中、ほとんど庭がある家を見なかったので、この家は高級な住宅なのだろう。
もらった布袋の中に入っていたのは、二つの指輪だった。
一つをドアにかざすと、壁にパッと穴ができる。
中に入ると、一段下がって大きなワンフロアーがあり、その奥に扉がいくつかあった。
後ろを振り返ると、外の庭が見える。
どうやらマジックミラーになっているらしい。
茶色い、落ち着いた色の内装になっている。
天井全体が、光っている。
これが、照明器具だろう。
俺たちは、床と一体となったソファーに座った。
俺が指を立てて口に当てたので、皆黙っている。
点ちゃん、調べてくれる?
『おっけーでーす』
10秒もせずに調べ終わったようだ。
さすが点ちゃん。
『盗聴用が10、映像用が4、用途不明が2あったー』
じゃ、全部消しちゃってね。
『はーい』
指を口から話して頷くと、みんな、ほっとした顔をした。
「ぷはーっ」て言ってるのはポルか。 息止めてたんだね。
「とりあえず、盗聴なんかの機械は全部はずしといたよ。
首輪の効果で、ぼおっとしてないか?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。 ありがとう。
でも、なんともえげつないわね、この世界は」
コルナが指摘する。
盗聴器と一緒に、三人の首輪も外しておいた。
これは壊さずにおいて、点魔法の箱に入れて管理することにした。
「まあ、獣人をさらっている時点で、かなりやばい世界っていうのは分かってたけどね」
史郎は、この世界で一人の少年を探し出す困難に、改めて気づくのだった。
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