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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第1話 少年と仲間たち
しおりを挟むポータルズ。
そう呼ばれている世界群。
ここでは、各世界がポータルと呼ばれる門で繋がっている。
ゲートとも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。
この門には、様々な種類がある。
最も多いのが、特定の世界へ飛ぶもの。
このタイプは、向こうに行った後、こちらに帰ってこられる利便性から、商業活動や外交をはじめ、一般市民の行き来にも使われる。
国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。
他に、一方通行のポータルも存在する。
このタイプは、前述のものより利便性が劣る。
僻地や山奥に存在し、きちんと管理されていない門も多い。
非合法活動する者、例えば盗賊や無許可奴隷商人の移動手段ともなっている。
また、まれに存在するのがランダムポータルと呼ばれる存在である。
ある日、突然町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。
そして、長くとも1週間の後には、跡形もなく消えてしまう。
そして、この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。
なぜなら、ランダムポータルは、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく、一方通行であるからだ。
子供たちが興味半分に入ることもあるが、その場合、まず帰ってくることはない。
多くの世界で、このケースは神隠しとして扱われる。
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ある少年がこのポータルを渡り、別の世界に降り立った。
少年の名は、坊野史郎という。
日本の片田舎に住んでいた彼は、ランダムポータルによって異世界へと飛ばされた。
そこには、地球の中世を彷彿とさせる社会があった。
違うのは、魔術と魔獣が存在していたことである。
特別な転移を経験したものには、並外れた力が宿る。
現地では、それを覚醒と呼んでいた。
転移した四人のうち他の三人は、それぞれ勇者、聖騎士、聖女というレア職に覚醒した。
しかし、彼だけは、魔術師という一般的な職についた。
レベルも1であったが、なにより使える魔法が「点魔法」しかなかった。
この魔法は視界に小さな点が見えるだけというもので、このことで彼は城にいられなくなってしまう。
その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通して、彼は少しずつ成長していった。
初め役に立たないと思っていた点魔法も、その「人格」ともいえる「点ちゃん」と出会い、少しずつ使い方が分かってきた。
それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。
この魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした、国王一味を壊滅させた。
安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が一味の生き残りに捉えられ、ポータルに落とされてしまう。
聖女は、獣人世界へと渡っていた。
後を追いかけ獣人世界へと向かった少年は、そこで新しい仲間たちと出会い、その協力で聖女を救い出すことに成功する。
しかし、その過程で、多くの獣人たちがさらわれて学園都市世界へ送られていることに気付く。
友人である勇者を追って、少年が今、赴こうとしている場所こそ、まさにその学園都市世界であった。
これは、そこから始まる物語である。
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独特の浮遊感の後、史郎の足が地面に着く。
そこは、広く明るい部屋の中だった。
狐人の少女コルナ、猫人の少女ミミ、狸人の少年ポルナレフ、そして、俺の四人は、ポータルを渡り、学園都市世界へとやって来た。
部屋は魔術灯によって照らされ、非常に明るいが、白い壁のせいか、どこか病院を思わせた。
片隅に白いテーブルがあり、白い服を着た3人の男が座っている。
皆が黒縁の眼鏡を掛けており、頭を七三分けにしているから、三つ子のように見える。
いや、表情が無い顔によって、マネキンが並んでいるようにすら見える。
突然、左側の男が立ち上がり、感情が籠らない声を出した。
「学園都市世界アルカデミアへ、ようこそ」
一語一語区切るように発声した男は、立ったままである。
俺は彼の前に行くと、名前を告げた。
「俺の名前はシロー、パンゲアから来た。
こちらは、コルナ、ミミ、ポルナレフだ」
「そちらの三人は、獣人ですね」
俺は頭に茶色い布を巻いているが、彼らは頭に何もかぶっていないから三角耳が剥き出しである。
それ以前にしっぽがあるので、獣人であるのは明らかだ。
「ああ、そうだが」
「獣人保護協会の許可証は、お持ちですか?」
「獣人保護協会?」
「お持ちでないなら、獣人がこの世界に入るのは許可できません」
獣人の三人が騒ぎ出す前に、俺は質問をぶつけた。
「なぜだ?」
「この世界の法律で、そう決められています」
感情の無い音声が、答えを返す。
「あなた、ちょっと待ちなさい」
コルナの声が、割り込んだ。
「まず、渡航許可証と身分証明書を確認するのが先のはずよ」
彼女は、落ち着いている。
「確かに、規則ではそうなっています」
今まで動かなかった、真ん中の男が応える。
俺は、背中の袋からマスケドニア王の渡航許可証と黒いギルド章を出した。
一番右側の男がそれを受け取り、確認している。
「王族の方でしたか。 では、こちらへ」
男は後ろも見ずに、真っ白な壁に向かっていく。
壁と見えたところが四角く開き、その向こうへ出ていく。
俺たちも、後を追った。
白い廊下を少し歩くと、左側の壁に木でできた扉があった。
周囲の無機質から完全に浮いた感じの扉を開くと、中は落ち着いた調度を備えた広い部屋となっていた。
奥にも木のドアがあるので、続き部屋になっているらしい。
部屋の真ん中に置かれた、大人数用の応接セットを指さされる。
「こちらで、お待ちを」
マネキン男はそう言うと、入ってきた扉から出て行った。
俺たちは、ソファに座る。
『三人とも、聞こえるか』
「「「えっ!」」」
『声を出すな。 この部屋は、盗聴されている』
『お兄ちゃん、これ何?』
『俺が使う、魔法の力だ』
『すごい!』『かっこいい!』
ミミとポルは、いつも通りのしまらない反応である。
『コルナは、獣人保護協会のことを知ってたの?』
『ええ、噂だけはね。
詳しいことは分かっていなかったけど、連れ去られた獣人とも関係があるみたいなの』
『人体実験されてる獣人がいることを考えると、ろくな団体じゃないな』
その時、立派な口ひげを生やした、小柄で痩せた男が入ってきた。
黒いローブに房が垂れた帽子をかぶり、まるで古めかしい学者の様である。
「私がここの責任者です。 マウシーと申します」
「シローです。 こちらは、コルナ、ミミ、ポルです」
男は三人の方をちらっと見たが、それだけだった。
「では、改めて渡航許可証と身分証明書をお願い致します」
俺は国王からの許可証とギルド章を、もう一度出した。
「ん? ギルド章? お前、冒険者か」
マウシーの態度が、急に変わる。
鼻の下の二枚の口ひげが、ぴょんと上にはねる。
「ええ、冒険者ですが。 それが?」
「しかも、鉄ランクじゃないか。
銅ランク以上じゃないと、身分証明書にすらならんぞ」
「あのー」
俺が説明しようとするが、奴は聞いていない。
「誰だ? こんな奴らを、ここに通してしまって。
後でランクを下げてやる」
ランクを下げる?
「あの、ここはギルドですか?」
「ふんっ。 答えてやる必要はないが、まあいいか。
ここは、アルカデミアの中央ギルドだ」
男が、ふんぞり返る。
「下郎、よくそのギルド章を調べよ」
怒っているのか、コルナの口調が元に戻っている。
「獣人風情が! 何だ、その口のきき方は。
鉄ランクのギルド章を調べてどうする」
「じゃから、よく見よと言うておる」
「どこから見ても鉄ランクの……」
なっ、なにっ! こ、これは!」
「やっと、気づいたようじゃな」
マウシーは、俺のランクが鉄ランクでは無いのに気づいたらしい。
ちなみにギルドランクは、下から、鉄、銅、銀、金、黒鉄(くろがね)となっている。
俺のランクは、黒鉄だ。
「くっ、黒鉄っ!!」
彼は、とたんに床に額を擦り付けて平伏した。
「どうか、どうか失礼をお許しください!」
この男、短時間で、どんだけ態度変わるの。
ま、見ている分には面白いけどね。
「どうする、シロー。
お主が今あったことをギルド本部に連絡すれば、こやつはすぐに馘じゃ」
まあ、そこまですることはないだろう。
すでに、ちょっとイジワルしちゃってるし。
ね、点ちゃん。
『ういういー』
面白い仕事だったから、ちょっと喜んでるな。
結構、チカってる。
「ああ、マウシーさんだっけ。
気にすることないよ。
ところで、獣人は獣人保護協会の許可が要るってホント?」
「はいっ。 許可が要ります」
「どうやったら、それが取れるの?」
「通常、獣人保護協会に出向いて許可をもらいます。
この度は、王族様の上、黒鉄ランク様ということで、教会から人を派遣してもらいます」
「ふ~ん、分かった。 早くしてね」
「はい、勿論でございます」
マウシーは、パッと立ち上がると、足早に廊下に出て行った。
やはり、落とし物には気づかなかったか。
『ご主人様ー。 これ、もらってもいい?』
変なもの欲しがるね、点ちゃん。
どうぞ、どうぞ。
『やったー!』
激しくぴょんチカしてるな。
こんなもの、どうするんだろう。
マウシーが土下座していた場所には、りっぱな口ひげが片方残されていた。
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