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第二章 獣人世界グレイル編

第14話 狐人族領への旅

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史郎達が、狐人領へ向けて出発する日が近づいた。


今までで一番の遠出になるので、俺は十分準備をした。

点ちゃんとも、いろいろ打ち合わせておく。

とりあえず、ミミとポルには、点を二つずつ付けておく。

『ご主人様ー』

何だい、点ちゃん。

『最近、私のこと、忘れてませんかー』

ぎくっ。

そ、そんなことないよ。

『だって、この前の捜索だって、私を使えば、あっという間でしたよ』

・・・そういえば、そうだね。
まあ、でも、あの時は、ギルドメンバーも仕事してたからね。
点ちゃんに頼むと、彼らの仕事が無くなっちゃうじゃない。

『ホントにそんなこと、考えてました~?』

ぎくっ。

点ちゃんは、物凄く役に立つからねー。

『えー、そんなことないですよ。 フフフ』

ところで点ちゃん、舞子に付けてた点は、どうなったの?

『ポータルを通る時に、力を失ったようです』

あーあ、あれが使えてたら、一発で見つかるのにね。

『舞子さんと一緒に、ポータルへ落ちた人に付けてた点も、力を失ってますから。
ポータルとポータルの間に、私を無効化する何かがあると思われます』

なんで、点ちゃんは大丈夫だったの?

『私を生み出したご主人と一緒なら、ポータルを通っても大丈夫みたいです』

なるほどね。

俺の中の点ちゃんと、誰かに付けた点ちゃんは、少し違いがあるわけか。

あ、そうそう。 
今まで試してなかったけど、世界を越えて念話することはできないの?

『それも、先ほどと同じ理由で無理みたいです』

残念。  
それが出来たら、ルルや子供たちとも話せるのに・・

でも、この世界に来ても、点ちゃんと一緒だったのは心強いよ。

『へへへへ』

点ちゃん、ありがとうね。

ピカッ

うはっ! 久々に、来たー。

体を、まぶしい光が包む。
なかなか、光が収まらない。
収まるどころか、さらに光が強くなる。

点魔法のレベルアップがあると、なぜか俺の身体が光るのだ。

目を閉じていても、耐えられないくらい眩しくなった瞬間、光が収まった。

今回のは、特に凄かったね。

点魔法、レベル10か。
どんなことが、出来るのかな?

点ちゃん?

あれ? 点ちゃんが、応えない。

点ちゃん、聞いてますかー。

・・・


なんだ、これ。 ど、どういうこと?


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点ちゃんがいなくなったことは、史郎に想像以上のダメージを与えた。


いつも一緒にいた友達が、突然いなくなる。

それは、こんな気持ちなのだろうか。

強い喪失感は、俺から気力を奪っていった。

俺が元気をなくした理由が分からないミミとポルは、自分たちが、はしゃぎすぎたのが原因かと思い、大人しくしている。

アンデも心配して、体調が優れないなら、町に残っていいと言ってきた。

狐人族領への旅を、心待ちにしている二人のことを思うと、そうもいかない。

俺は終日部屋にこもり、ベッドに横になっていた。

俺にとって、点ちゃんの存在が、これほど大きくなっていたなんて・・


なぜ、点ちゃんは、いなくなったのだろう。

俺が、あまり相手をしてやらなかったせいか。

ポータルを通った影響が、後から出たのか。

レベルが上限に達したことで、消滅してしまったのか。


特に、最後の考えは、史郎の心を苛んだ。

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狐人領へ向け、出発する日が来た。


俺は、ふらふらと、階下へ降りて行った。

「おい、無理するな。 
途中で倒れられると、かえって迷惑だぞ」

アンデが、心配してくれる。

俺は、それに答える余裕もなく、首を左右に振った。

「おい。 お前たち二人が、シローをしっかりサポートしろよ」

アンデが、ミミとポルに話しかけている。

「うん、わかってる」 「はい、気を付けます」

二人は、いつにないほど真剣な顔をしている。
パーティーリーダーの俺がこんな状態では、自分たちが、しっかりするしかないと考えているのだろう。

「じゃ、行くぞ」

ギルマスのアンデ、二人のギルド職員、俺たち三人の六人が旅のメンバーである。

犬人族の族長は、高齢のため、今回の族長会議ではアンデがその代理を務めるそうだ。

この世界では、前いた世界より、ギルドの力が強いのかもしれない。


旅は途中雨で一日遅れとなったが、魔獣も出ず、平穏なものだった。

幹線道路を利用したこともあるのだろう。
道の状態もよく、一団は順調に距離を伸ばした。 

その中で、遅れがちにフラフラ歩いている俺を助けてくれたのは、ミミとポルである。

俺は、パーティーメンバーの有難さを痛感していた。

何とか元気づけようと話しかけて来る、ポルに応えてやることはできなかったが、旅程の最後の頃には、しっかりした足取りが戻ってきた。

狐人族領が近づくと、景色は、草原から森へと変わり始めた。

森の中に、特徴ある家々が見え始めた。

おとぎ話に出てくるような小さな家は、屋根がコケのようなもので出来ている。

窓には、ちらちら人影が見える。 狐人だろう。

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最初の狐人は、柵のようなものの前に立つ、兵士だった。

犬人に比べると小柄だが、見るからに俊敏そうである。

剣もレイピアに近い、細身のものを差している。

頭には、三角耳が出るようにあつらえた、革の帽子をかぶっている。

「こんにちは。 通行証を、見せてもらえるかな」

男は、礼儀正しく話しかけてきた。

ギルド職員が、六人分の手続きを行う。

犬人族の長からの委任状を見せると、慌てて柵の中に入っていった。

すぐに、あきらかに文官とわかる、布の帽子をかぶった狐人の男を連れて出てきた。

「こんにちは。 ようこそ、狐人族領へ。
私が案内役を務める、ホクトでございます。
どうぞ、こちらにおいでください」


史郎たちは、文官に案内されて、柵を越え、町の中に入った。

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町は、人族や犬人族のものとは、かなり異なっていた。


どこにでも大きな木が生えており、その木に寄り添うように、家が建てられている。

道は、木々を縫うように、蛇行して作られている。

森に埋もれた町、という感じである。

俺たちは、ひときわ大きな木が林立する地区へと入っていった。

町は、落ち着いている中にも活気があり、多くの狐人が行き来していた。
人々は、前を合わせた、着物のような服を着ており、皆、帽子をかぶっている。

犬人族や、人族が珍しいのか、一行は、かなり注目を集めている。

家と家との間隔が、次第に広くなり、それにつれて、一つ一つの家が大きくなってきた。

そして、大木が二列に並んだ道までやって来た。
その並木の間を歩いていくと、天を突くような、巨大な木が現れた。
その根元を取り巻くように、白壁の建物が立っている。

建物は、折り重なるように建てられており、それがこの国の建築技術の高さを物語っていた。

その建物に続く門を潜る。

白壁は近くでみると、絶壁のように、そそり立っていた。

「壮観でございましょう。 
我が領地、自慢のお城でございます」

自慢するだけはある。 
城という既成概念が、打ち壊されるほどのインパクトだ。

白壁の一部が奥に引っ込み、四角い空間を作った。

一行は、その空間の中へと招き入れられた。

白壁の内側は、通路となっており、壁の反対側には半透明なガラスがはめ込まれた壁面が続いている。

この白壁と、ガラスの間の、曲線を描く回廊を進んでいく。

前方に現れた、木製の大きな扉が開くと、その中には大きな空間が広がっていた。

上を見ても、天井が見えない。


差し渡し50mはありそうな広間の奥に、大きな椅子が置いてあり、そこに小さな狐人の少女が座っていた。
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