70 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第13話 調査依頼
しおりを挟む会議後、ギルド持ちで軽食が振舞われた。
皆、ベテランらしく落ち着いて食事をしている。
さすがに、酒を飲んでいるような者はいない。
食事が終わると、くつろいでいた雰囲気が、一気に緊張へと変わった。
ギルド前で隊列を整えると、調査隊は出発した。
すでに、陽は完全に落ち、夜になっている。
空は晴れており、大小二つの月が白銀色に輝いている。
それに照らされて、道は思ったより明るい。
各自の持っている、明かりの魔道具が必要ないほどである。
一時間ほど進むと、道の状態がやや悪くなってきた。
時折、荷馬車の上で、荷物が鳴る音がするようになった。
左手に大木が見えてきたところで、休憩する。
その木で、ケーナイの町からコネカ村までの、丁度半分だそうだ。
史郎は、敷物の上に座り、水の魔道具からコップに水を注いだ。
喉を潤していると、背後から人が近づく音がする。
振り返ると小柄な影が二つ、立っている。
雲間に隠れていた月が出ると、二人の顔が月明かりに照らされた。
「な、なんで?」
そこには、ミミとポルがいた。
-----------------------------------------------------------
「なんでって、私たちはパーティーでしょ」
「・・・」
「ほら、ポン太も、何か言ってやりなさいよ」
「え、うん。 僕にもできることが、有るんじゃないかなって・・」
二人に、きちんと話さなかった、俺が悪かったな。
「銀ランク以上の依頼だったはずだが」
「ギルマスに話したら、特例で認めてくれたよ」
アンデめ。 一言、言ってくれたらよかったのに。
「そうか、連絡しなくて済まなかった」
結局、俺は謝った。
「パーティ=ポンポコリンとしては、こんなに割がいい依頼は見逃せないからね」
やはり、ミミはこの依頼を甘く見ているようだ。
「成功報酬が高いってことは、危険もあるってことだよ。
死んでしまえば、いくら報酬が高くても、意味は無いからね」
「だからこその、シローじゃない。
金ランクがいれば、なんとかなるでしょ」
「ミミ。 依頼に関して、その考えは感心しないぞ。
とにかく、次の依頼からは、必ず君たちと相談することにするよ」
「ほんと、頼むわよ。
油断ならないんだから」
点ちゃんと同じようなことを言うな、この子は。
『ご主人様ー、呼んだー?』
ああ、点ちゃん。
呼んだわけじゃないけど、もう少ししたら、力を貸してもらうかもしれないからね。
準備しておいてね。
『了解でーす』
-------------------------------------------------------------
コネカ村についたのは、夜半も過ぎたころだった。
魔術灯で、辺りを照らしていく。
建物が殆どない。
本当に、ここが村なのか?
崩れ落ちた瓦礫の塊がそこかしこに見られるだけで、人の気配が無い。
いくつかの瓦礫から、細く煙が立ち昇っている。
冒険者の一人が、四つん這いになって地面を嗅いでいる。
やはり、犬人は嗅覚がすぐれているのだろうか。
男は立ち上がると、アンデに何か報告している。
アンデは手を打ち鳴らし、皆の注意を集めた後、分かったことを教えてくれた。
「やはり、襲撃を受けたようだ。
時間は、正午前から夕方だろうということだ。
襲撃者の人数は、10名以上。
これからの調査で、出くわさんとも限らん。
気を引き締めて掛かってくれ」
どうやって人数まで分かったんだろう。
今度あの人に聞いておこう。
史郎は、犬人族の鼻の良さに驚いていた。
-----------------------------------------------------------------
魔術灯を掲げ、村の中心から外へ、円を描くように調べていく。
人が住んでいた証がほとんど消えているため、何人が被害にあったかすらわからない。
アンデの話だと、50人は、いただろうとのこと。
手掛かりがない中、夜が白みかけていた。
その時、草むらでポルが小さな靴を見つけた。
薄明りの中、やっと、かすかな足跡を見つける。
たどっていくと、土地が少しくぼんだ所に5、6歳くらいの獣人の少年が倒れていた。
息はしっかりしているが、顔色が青いところを見ると、何かに噛まれたのかもしれない。
ミミが、魔術灯で体を調べる。
足首に、2cmくらい離れて2つ、赤い噛み跡があった。
「痺れサソリね」
このサソリは、乾燥地帯の草むらに生息し、二本の尾の先に、動物を痺れさせる毒針を持っている。
「麻痺用のポーションがあれば、いいのだけど・・」
用意していた白いポーションを渡すと、彼女はそれを少年の口に垂らした。
「これで、少しすれば良くなるはずよ」
彼女の言葉通り、10分ほどすると、少年が上半身を起こした。
魔術灯に照らされた俺たちの顔を、恐々眺めている。
「ぼ、僕を捕まえるの?」
「大丈夫、安心して。
君はコネカ村の子かい?」
「はい」
「村で、何があったの?」
「お昼ご飯を食べてたら、急にシンカさんちが燃え出したの。
その後、いっぱいお家が燃えちゃった」
「君は、どうしてここに?」
「お父さんが、逃げろって言ったから走ってたら、いつの間にか・・・
お父さん、お父さんは?」
「今、探してるところだよ」
「僕も探す!」
少年は立ち上がろうとしたが、ふらついて、すぐに、しゃがみ込んでしまった。
「今、沢山のおじさんたちが来て、探してるからね」
少年は、少しだけ安心したようだ。
「他に、何か見なかった?」
「えーと、見たことない人が、たくさんいた」
「どんな格好をしてたの?」
「そんな白い服を着てた」
少年が、俺のローブを指さした。
「顔は、見なかった?」
「一人だけ、見たよ」
「どんな顔してた?」
「猿人だった」
「えっ! 猿人、見たことあるの?」
「村長が、絵を描いてくれたの。
これが猿人だから、絶対近づいちゃダメだって」
証拠を残さないように、徹底していた襲撃者だが、思わぬところからボロが出たようだ。
史郎たち三人は、明け始めた空の下、少年を連れて村に戻った。
------------------------------------------------------------
少年の証言は、冒険者たちに衝撃を与えた。
以前からこういうことが度々あり、迷信深い人々は、神隠しとして済ませてきたそうだ。
猿人の関りも疑われてきたが、彼らの仕業なら後に死体が残るため、謎の消失事件として扱われてきた。
「これは、ケーナイだけで処理するレベルを超えてるな」
アンデの言葉が、事件の重大性を示していた。
「至急、部族長会議に諮らねばならん」
彼は、そう言うと、撤収の合図に取り決めていた遠吠えをした。
捜索で疲れた顔の冒険者たちが、ぞろぞろと帰ってくる。
暗闇での調査は、通常の何倍もエネルギーを奪う。
皆、やっと捜索が終わり、ほっとしているようだ。
俺は、ポルにあげた水の魔道具も使って大量の水を出し、それを沸かして香草茶を点てた。
「あー、生き返るな~」
「こりゃ、助かるぜ」
「兄ちゃん、ありがとよ」
乾燥した空気の中で長時間働いたので、喉も乾いていたのだろう。
皆、瓦礫の上に座って、美味しそうにお茶を飲んでいる。
アンデが、そんな俺を見て、話しかけてくる。
「ふーん、お前。 普通の人族と、ちょっと違うな。
なんというか、偉ぶらないな。 金ランクなのによ」
「いや、お茶を点てるのは、趣味みたいなものだから」
「まあ、ありがとよ。 皆の顔、見てみな。
捜索から帰ってきた時と、別人みたいだぜ」
「まあ、少しでも役に立てたら、それで良かったですよ」
アンデは、史郎を見て何度か頷いていた。
--------------------------------------------------------------
調査の結果が出たこともあり、帰り道、皆の足取りは軽かった。
ただ、見つかった少年は、父親どころか、村人全員が消えていたことでショックを受けていた。
力なく涙を流す彼は、俺とポルが交互に背負って、町まで帰った。
町に帰ると、少年は重要な証人ということもあり、ギルド預かりということになった。
アンデは、ギルド間で使われる通信の魔道具で、大陸北部の部族長達に連絡を取ったそうだ。
俺たちのパーティーは、捜索後、一日休みをとった後は、連日、小さな依頼をこなしていた。
ある日、ギルド二階の居室から階下に降りると、アンデが声を掛けてきた。
「おい。 一週間後に、部族長会議が決まったぞ」
「ああ、そうですか」
俺は、なぜ彼が、そんな話題を振ってきたのか分からなかった。
「お前も、出席してくれ」
「え?! 何で、俺が?」
大体、俺は、獣人でもないのだが・・
「まあ、ある部族長の意向もあってな。
どうしても断れないから頼むぞ」
どうして、どこのギルドマスターも、こう強引かねえ。
「しかし、俺は人族ですし・・」
「だからよ。 人族として、出席してくれ」
「え? 人族として・・ですか?」
「場所は、狐人族のところになるから、三日後には、ここを発ちたい」
「しかし、俺は、パーティーメンバーへの責任もありますし・・」
あの二人を野放しにしておくのは、あまりにも危険である。
「だから、ポンポコリン(笑)に、指名依頼を出しとくぜ」
ああ、そうきますか。
これは、ちょっと断れそうにないな。
「とにかく、他の二人に話してみます」
「頼むぜ。 今回の会議は、下手すると、この大陸の行方を決めかねんからな」
アンデはそう言うと、カウンターの向こうへ入っていった。
-------------------------------------------------------------------
「え? 旅行ですか?」
「やった! 旅ができる!」
ポルとミミの反応は、思った通りというか、全く緊張感を欠くものだった。
「旅かー、冒険者らしいなあ」
「お土産、何にしよう」
「まだ、どこに行くかも言ってないのに、お土産は無いだろう。
それから、これは遊びじゃなく、依頼だぞ。
しかも、指名依頼だ。
遊び半分なら、この町に残ってくれ」
俺は珍しく厳しい口調で、のほほんとした彼らに冷や水を浴びせようとした。
「し、指名依頼! すごい! 夢みたいだ」
「ねえ、どこに行くの? 着ていく服、考えなきゃいけないし」
どうやら、彼らには無駄だったようだ。
「三日後には、狐人族領に向けて発つぞ」
「あー、あそこは食べ物が美味しいそうよ」
ミミは、キラキラした目をしている。
ポルは、短剣を持って、クルクル振り回し始めた。
エア短剣だが。
二人に緊張感を求めるのは諦めて、とりあえず指示を出しておく。
ミミは、両親からきちんと許可をもらうこと。
食材の買い出しを忘れないこと。
ポルは、自分の剣と防具のメンテナンス、三人共有の荷物の確認。
まあ、二人に浮足立ってふらふらされると困るから、とりあえず忙しくさせておくことにした。
狐人領への旅路が心配な、史郎であった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる