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第二章 獣人世界グレイル編
第13話 調査依頼
しおりを挟む会議後、ギルド持ちで軽食が振舞われた。
皆、ベテランらしく落ち着いて食事をしている。
さすがに、酒を飲んでいるような者はいない。
食事が終わると、くつろいでいた雰囲気が、一気に緊張へと変わった。
ギルド前で隊列を整えると、調査隊は出発した。
すでに、陽は完全に落ち、夜になっている。
空は晴れており、大小二つの月が白銀色に輝いている。
それに照らされて、道は思ったより明るい。
各自の持っている、明かりの魔道具が必要ないほどである。
一時間ほど進むと、道の状態がやや悪くなってきた。
時折、荷馬車の上で、荷物が鳴る音がするようになった。
左手に大木が見えてきたところで、休憩する。
その木で、ケーナイの町からコネカ村までの、丁度半分だそうだ。
史郎は、敷物の上に座り、水の魔道具からコップに水を注いだ。
喉を潤していると、背後から人が近づく音がする。
振り返ると小柄な影が二つ、立っている。
雲間に隠れていた月が出ると、二人の顔が月明かりに照らされた。
「な、なんで?」
そこには、ミミとポルがいた。
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「なんでって、私たちはパーティーでしょ」
「・・・」
「ほら、ポン太も、何か言ってやりなさいよ」
「え、うん。 僕にもできることが、有るんじゃないかなって・・」
二人に、きちんと話さなかった、俺が悪かったな。
「銀ランク以上の依頼だったはずだが」
「ギルマスに話したら、特例で認めてくれたよ」
アンデめ。 一言、言ってくれたらよかったのに。
「そうか、連絡しなくて済まなかった」
結局、俺は謝った。
「パーティ=ポンポコリンとしては、こんなに割がいい依頼は見逃せないからね」
やはり、ミミはこの依頼を甘く見ているようだ。
「成功報酬が高いってことは、危険もあるってことだよ。
死んでしまえば、いくら報酬が高くても、意味は無いからね」
「だからこその、シローじゃない。
金ランクがいれば、なんとかなるでしょ」
「ミミ。 依頼に関して、その考えは感心しないぞ。
とにかく、次の依頼からは、必ず君たちと相談することにするよ」
「ほんと、頼むわよ。
油断ならないんだから」
点ちゃんと同じようなことを言うな、この子は。
『ご主人様ー、呼んだー?』
ああ、点ちゃん。
呼んだわけじゃないけど、もう少ししたら、力を貸してもらうかもしれないからね。
準備しておいてね。
『了解でーす』
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コネカ村についたのは、夜半も過ぎたころだった。
魔術灯で、辺りを照らしていく。
建物が殆どない。
本当に、ここが村なのか?
崩れ落ちた瓦礫の塊がそこかしこに見られるだけで、人の気配が無い。
いくつかの瓦礫から、細く煙が立ち昇っている。
冒険者の一人が、四つん這いになって地面を嗅いでいる。
やはり、犬人は嗅覚がすぐれているのだろうか。
男は立ち上がると、アンデに何か報告している。
アンデは手を打ち鳴らし、皆の注意を集めた後、分かったことを教えてくれた。
「やはり、襲撃を受けたようだ。
時間は、正午前から夕方だろうということだ。
襲撃者の人数は、10名以上。
これからの調査で、出くわさんとも限らん。
気を引き締めて掛かってくれ」
どうやって人数まで分かったんだろう。
今度あの人に聞いておこう。
史郎は、犬人族の鼻の良さに驚いていた。
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魔術灯を掲げ、村の中心から外へ、円を描くように調べていく。
人が住んでいた証がほとんど消えているため、何人が被害にあったかすらわからない。
アンデの話だと、50人は、いただろうとのこと。
手掛かりがない中、夜が白みかけていた。
その時、草むらでポルが小さな靴を見つけた。
薄明りの中、やっと、かすかな足跡を見つける。
たどっていくと、土地が少しくぼんだ所に5、6歳くらいの獣人の少年が倒れていた。
息はしっかりしているが、顔色が青いところを見ると、何かに噛まれたのかもしれない。
ミミが、魔術灯で体を調べる。
足首に、2cmくらい離れて2つ、赤い噛み跡があった。
「痺れサソリね」
このサソリは、乾燥地帯の草むらに生息し、二本の尾の先に、動物を痺れさせる毒針を持っている。
「麻痺用のポーションがあれば、いいのだけど・・」
用意していた白いポーションを渡すと、彼女はそれを少年の口に垂らした。
「これで、少しすれば良くなるはずよ」
彼女の言葉通り、10分ほどすると、少年が上半身を起こした。
魔術灯に照らされた俺たちの顔を、恐々眺めている。
「ぼ、僕を捕まえるの?」
「大丈夫、安心して。
君はコネカ村の子かい?」
「はい」
「村で、何があったの?」
「お昼ご飯を食べてたら、急にシンカさんちが燃え出したの。
その後、いっぱいお家が燃えちゃった」
「君は、どうしてここに?」
「お父さんが、逃げろって言ったから走ってたら、いつの間にか・・・
お父さん、お父さんは?」
「今、探してるところだよ」
「僕も探す!」
少年は立ち上がろうとしたが、ふらついて、すぐに、しゃがみ込んでしまった。
「今、沢山のおじさんたちが来て、探してるからね」
少年は、少しだけ安心したようだ。
「他に、何か見なかった?」
「えーと、見たことない人が、たくさんいた」
「どんな格好をしてたの?」
「そんな白い服を着てた」
少年が、俺のローブを指さした。
「顔は、見なかった?」
「一人だけ、見たよ」
「どんな顔してた?」
「猿人だった」
「えっ! 猿人、見たことあるの?」
「村長が、絵を描いてくれたの。
これが猿人だから、絶対近づいちゃダメだって」
証拠を残さないように、徹底していた襲撃者だが、思わぬところからボロが出たようだ。
史郎たち三人は、明け始めた空の下、少年を連れて村に戻った。
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少年の証言は、冒険者たちに衝撃を与えた。
以前からこういうことが度々あり、迷信深い人々は、神隠しとして済ませてきたそうだ。
猿人の関りも疑われてきたが、彼らの仕業なら後に死体が残るため、謎の消失事件として扱われてきた。
「これは、ケーナイだけで処理するレベルを超えてるな」
アンデの言葉が、事件の重大性を示していた。
「至急、部族長会議に諮らねばならん」
彼は、そう言うと、撤収の合図に取り決めていた遠吠えをした。
捜索で疲れた顔の冒険者たちが、ぞろぞろと帰ってくる。
暗闇での調査は、通常の何倍もエネルギーを奪う。
皆、やっと捜索が終わり、ほっとしているようだ。
俺は、ポルにあげた水の魔道具も使って大量の水を出し、それを沸かして香草茶を点てた。
「あー、生き返るな~」
「こりゃ、助かるぜ」
「兄ちゃん、ありがとよ」
乾燥した空気の中で長時間働いたので、喉も乾いていたのだろう。
皆、瓦礫の上に座って、美味しそうにお茶を飲んでいる。
アンデが、そんな俺を見て、話しかけてくる。
「ふーん、お前。 普通の人族と、ちょっと違うな。
なんというか、偉ぶらないな。 金ランクなのによ」
「いや、お茶を点てるのは、趣味みたいなものだから」
「まあ、ありがとよ。 皆の顔、見てみな。
捜索から帰ってきた時と、別人みたいだぜ」
「まあ、少しでも役に立てたら、それで良かったですよ」
アンデは、史郎を見て何度か頷いていた。
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調査の結果が出たこともあり、帰り道、皆の足取りは軽かった。
ただ、見つかった少年は、父親どころか、村人全員が消えていたことでショックを受けていた。
力なく涙を流す彼は、俺とポルが交互に背負って、町まで帰った。
町に帰ると、少年は重要な証人ということもあり、ギルド預かりということになった。
アンデは、ギルド間で使われる通信の魔道具で、大陸北部の部族長達に連絡を取ったそうだ。
俺たちのパーティーは、捜索後、一日休みをとった後は、連日、小さな依頼をこなしていた。
ある日、ギルド二階の居室から階下に降りると、アンデが声を掛けてきた。
「おい。 一週間後に、部族長会議が決まったぞ」
「ああ、そうですか」
俺は、なぜ彼が、そんな話題を振ってきたのか分からなかった。
「お前も、出席してくれ」
「え?! 何で、俺が?」
大体、俺は、獣人でもないのだが・・
「まあ、ある部族長の意向もあってな。
どうしても断れないから頼むぞ」
どうして、どこのギルドマスターも、こう強引かねえ。
「しかし、俺は人族ですし・・」
「だからよ。 人族として、出席してくれ」
「え? 人族として・・ですか?」
「場所は、狐人族のところになるから、三日後には、ここを発ちたい」
「しかし、俺は、パーティーメンバーへの責任もありますし・・」
あの二人を野放しにしておくのは、あまりにも危険である。
「だから、ポンポコリン(笑)に、指名依頼を出しとくぜ」
ああ、そうきますか。
これは、ちょっと断れそうにないな。
「とにかく、他の二人に話してみます」
「頼むぜ。 今回の会議は、下手すると、この大陸の行方を決めかねんからな」
アンデはそう言うと、カウンターの向こうへ入っていった。
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「え? 旅行ですか?」
「やった! 旅ができる!」
ポルとミミの反応は、思った通りというか、全く緊張感を欠くものだった。
「旅かー、冒険者らしいなあ」
「お土産、何にしよう」
「まだ、どこに行くかも言ってないのに、お土産は無いだろう。
それから、これは遊びじゃなく、依頼だぞ。
しかも、指名依頼だ。
遊び半分なら、この町に残ってくれ」
俺は珍しく厳しい口調で、のほほんとした彼らに冷や水を浴びせようとした。
「し、指名依頼! すごい! 夢みたいだ」
「ねえ、どこに行くの? 着ていく服、考えなきゃいけないし」
どうやら、彼らには無駄だったようだ。
「三日後には、狐人族領に向けて発つぞ」
「あー、あそこは食べ物が美味しいそうよ」
ミミは、キラキラした目をしている。
ポルは、短剣を持って、クルクル振り回し始めた。
エア短剣だが。
二人に緊張感を求めるのは諦めて、とりあえず指示を出しておく。
ミミは、両親からきちんと許可をもらうこと。
食材の買い出しを忘れないこと。
ポルは、自分の剣と防具のメンテナンス、三人共有の荷物の確認。
まあ、二人に浮足立ってふらふらされると困るから、とりあえず忙しくさせておくことにした。
狐人領への旅路が心配な、史郎であった。
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