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第二章 獣人世界グレイル編

第12話 奪う者たち

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コネカ村は、ケーナイから見て、南西に位置する、小さな犬人族の集落である。


典型的な農村で、豊かではないが、人びとは毎日食べていくには十分な恵みを大地から得ていた。

お昼時が過ぎ、昼寝をするものが多い時刻にそれは起きた。

突然、木を打ち鳴らすような音がしたと思ったら、村のいくつかの家から火の手が上がった。

藁ぶきの屋根は、いったん火が付くと、巨大な松明と化す。

飛んだ火の粉が周囲の家に降りかかり、火はあっという間に燃え広がっていった。

逃げ惑う人達を、輪にした縄が捕らえる。
縄を持っているのは、白いローブをかぶっている男たちだった。

「一人も、逃がすな!」

リーダーらしきローブがさけぶと、今まで隠れていた者も村に襲い掛かった。

10分もしないうちに、村人たちは、縄で繋(がれ、一か所に集められていた。

「この子は、まだ子供です。 許してください」

叫んでいる母親に、容赦なく鞭が飛ぶ。

気を失った母親は、ローブの手で、荷馬車に積まれる。

物陰に隠れていた村人が、ローブの一人に鍬で殴り掛かる。

攻撃をするりと躱したローブは、持っていた槍を村人の胸に突き立てた。

「反抗するものには、容赦するな」

槍を男から抜き取りながら、男は良く通る声で宣言する。

村人が振るった鍬に払われた、フードの下から現れたのは、白い頭髪を持つ、獣人の顔だった。

人より、ゴリラに近い面相をしている。

しかし、その目には知性と、冷酷な光があった。

男は、一際小柄なローブに近づいていく。

手を胸に当て、礼を示してから報告をする。

「ソネル殿、任務完了でございます」

小柄なローブは、小さく頷くと、次の命令を出した。

「すぐに、出発してもらえる?」

聞こえてきたのは、女の声だった。

「はっ」

大柄な獣人は頭を下げると、すぐに部下に下知を出した。

「直ちに、出発せよ」

繋がれた村人を載せた馬車が、すすり泣く声や嗚咽の声を漏らしながら、次々と南へ動き出す。

最初に火の手が上がってから、30分も掛かっていない。

恐らく彼らは、何度もこのような任務をこなしてきたのであろう。


後には既に燃え落ち、燻る家の瓦礫と、放置された農具が残されているだけだった。

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その日、史郎は、ギルドの掲示板の前で、次の依頼を物色していた。


初回任務は、思わぬ収入をもたらしたが、それでも、かなりの赤字だった。

安定した収入を得るには、コンスタントに依頼をこなしていくしかない。

舞子が見つかるまで、どれほど時間が掛かるか分からない以上、まずは収入の安定が必要だった。

入り口から、息を切らせた冒険者が駆け込んでくる。

「ま、またやられた! 今度は、コネカ村だ」

ギルド内にいた冒険者たちが、ざわつく。

「またか! どうなってるんだ」

「防衛隊は、何してるんだ」

「コネカ村・・お、俺のばあちゃんがいる村だ・・」

俺は、何か良くないことが起きているのは分かっていたが、よそ者の自分が出しゃばってもいけないと思い、様子をうかがっていた。

「報告を聞こう」

奥からアンデが出て来ると、報告を持ち込んだ冒険者を連れて奥に引っ込んだ。

しばらくたって、アンデと男が出てくる。

「みんな、聞いてくれ。 また何者かによる襲撃があったらしい。
調査依頼を出すから、銀ランク以上は、なるべく参加してくれよ」

アンデは、俺の方をちらっと見て頷いた。

なるほど、ここは手伝って欲しいってことだな。

「すぐに、会議を始めるから、パーティーリーダーは手分けして、メンバーに声かけてくれ」

少しすると、受付のお姉さんが、急いで作った依頼書を壁に張り出した。
銀ランクの討伐依頼コーナーである。

ということは、戦闘になる可能性があるということか。

今回は、ポルとミミは、お留守番だな。



討伐内容  コネカ村の調査

必要討伐数 無し コネカ村で起ったことを調べる

   場所 ケーナイ南西のコネカ村
   
   報酬  一人につき銀貨20枚

   期限 無し  

  <<注意>> 調査隊の出発までに、申し込むこと



調査だけで、銀貨20枚か。 
これは、かなり危険な任務だな。

俺は、すでに手伝う気になっていたが、命の危険があるようなら、任務放棄も辞さないつもりだ。

舞子の捜索という目的がある以上、ここでつまずくわけにはいかない。

しかし、困っている獣人たちを黙って見捨てることも出来ない。

アンデに参加を告げると、自分の部屋に一旦戻った。

砂漠に近いということだから、水の魔道具は必要だろう。

靴の中に砂が入らないための砂除けや、砂から目を守るゴーグルも必要かもしれない。

テーブルの上に必要なものを、用途ごとに分類して置くと、それぞれ点魔法で収納していく。

もちろん、俺にしか見えない点魔法の文字で、但し書きを付けるのは忘れない。

「武器・防具」 「食料・調理器具」 「砂対策」 「着替え」

こうしておけば、必要な時に必要なものが、すぐ取り出せる。

水の魔道具と金属製のコップは、使いやすいように腰のポーチに入れる。

忘れ物が無いか確認すると、部屋を出て大部屋に向かう。

ここで、今回の任務に向けた打ち合わせが行われる。

部屋に入ると、すでに席の3分の1くらいが埋まっていた。

彼の姿を見たアンデが、声をあげる。

「じゃ、始めるぞ」

この打ち合わせを通して、史郎は、大陸南部の猿人族が砂漠を越えて北の部族を襲っている事実を知った。

すでに、いくつかの部族が滅んでいること。

その滅んだ部族の一つが、狸人族であること。

最近起こっている襲撃は、その手口からして、猿人族のものではないと思われているが、疑いは捨てきれないこと。

猿人族の背後に、人族の存在があるらしいということ。

それは、猿人族が魔道武器をよく使う事実からの推測であること。

なるほど、最初町に来た時に、武器屋でけんもほろろの対応をされたのは、こういう理由があったのか。

「よし、各パーティーは、リーダーの指示に従ってくれ。
すぐに出発するぞ」

既に日は落ちかけていたが、夜通しの強行軍を行うらしい。
まあ、事態の緊急性を考えたら、当然の判断だろう。

ただ、夜からの調査となると、危険がさらに増すのは間違いない。



史郎は、気を引き締めるのだった。
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