69 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第12話 奪う者たち
しおりを挟むコネカ村は、ケーナイから見て、南西に位置する、小さな犬人族の集落である。
典型的な農村で、豊かではないが、人びとは毎日食べていくには十分な恵みを大地から得ていた。
お昼時が過ぎ、昼寝をするものが多い時刻にそれは起きた。
突然、木を打ち鳴らすような音がしたと思ったら、村のいくつかの家から火の手が上がった。
藁ぶきの屋根は、いったん火が付くと、巨大な松明と化す。
飛んだ火の粉が周囲の家に降りかかり、火はあっという間に燃え広がっていった。
逃げ惑う人達を、輪にした縄が捕らえる。
縄を持っているのは、白いローブをかぶっている男たちだった。
「一人も、逃がすな!」
リーダーらしきローブがさけぶと、今まで隠れていた者も村に襲い掛かった。
10分もしないうちに、村人たちは、縄で繋(がれ、一か所に集められていた。
「この子は、まだ子供です。 許してください」
叫んでいる母親に、容赦なく鞭が飛ぶ。
気を失った母親は、ローブの手で、荷馬車に積まれる。
物陰に隠れていた村人が、ローブの一人に鍬で殴り掛かる。
攻撃をするりと躱したローブは、持っていた槍を村人の胸に突き立てた。
「反抗するものには、容赦するな」
槍を男から抜き取りながら、男は良く通る声で宣言する。
村人が振るった鍬に払われた、フードの下から現れたのは、白い頭髪を持つ、獣人の顔だった。
人より、ゴリラに近い面相をしている。
しかし、その目には知性と、冷酷な光があった。
男は、一際小柄なローブに近づいていく。
手を胸に当て、礼を示してから報告をする。
「ソネル殿、任務完了でございます」
小柄なローブは、小さく頷くと、次の命令を出した。
「すぐに、出発してもらえる?」
聞こえてきたのは、女の声だった。
「はっ」
大柄な獣人は頭を下げると、すぐに部下に下知を出した。
「直ちに、出発せよ」
繋がれた村人を載せた馬車が、すすり泣く声や嗚咽の声を漏らしながら、次々と南へ動き出す。
最初に火の手が上がってから、30分も掛かっていない。
恐らく彼らは、何度もこのような任務をこなしてきたのであろう。
後には既に燃え落ち、燻る家の瓦礫と、放置された農具が残されているだけだった。
------------------------------------------------------------
その日、史郎は、ギルドの掲示板の前で、次の依頼を物色していた。
初回任務は、思わぬ収入をもたらしたが、それでも、かなりの赤字だった。
安定した収入を得るには、コンスタントに依頼をこなしていくしかない。
舞子が見つかるまで、どれほど時間が掛かるか分からない以上、まずは収入の安定が必要だった。
入り口から、息を切らせた冒険者が駆け込んでくる。
「ま、またやられた! 今度は、コネカ村だ」
ギルド内にいた冒険者たちが、ざわつく。
「またか! どうなってるんだ」
「防衛隊は、何してるんだ」
「コネカ村・・お、俺のばあちゃんがいる村だ・・」
俺は、何か良くないことが起きているのは分かっていたが、よそ者の自分が出しゃばってもいけないと思い、様子をうかがっていた。
「報告を聞こう」
奥からアンデが出て来ると、報告を持ち込んだ冒険者を連れて奥に引っ込んだ。
しばらくたって、アンデと男が出てくる。
「みんな、聞いてくれ。 また何者かによる襲撃があったらしい。
調査依頼を出すから、銀ランク以上は、なるべく参加してくれよ」
アンデは、俺の方をちらっと見て頷いた。
なるほど、ここは手伝って欲しいってことだな。
「すぐに、会議を始めるから、パーティーリーダーは手分けして、メンバーに声かけてくれ」
少しすると、受付のお姉さんが、急いで作った依頼書を壁に張り出した。
銀ランクの討伐依頼コーナーである。
ということは、戦闘になる可能性があるということか。
今回は、ポルとミミは、お留守番だな。
討伐内容 コネカ村の調査
必要討伐数 無し コネカ村で起ったことを調べる
場所 ケーナイ南西のコネカ村
報酬 一人につき銀貨20枚
期限 無し
<<注意>> 調査隊の出発までに、申し込むこと
調査だけで、銀貨20枚か。
これは、かなり危険な任務だな。
俺は、すでに手伝う気になっていたが、命の危険があるようなら、任務放棄も辞さないつもりだ。
舞子の捜索という目的がある以上、ここでつまずくわけにはいかない。
しかし、困っている獣人たちを黙って見捨てることも出来ない。
アンデに参加を告げると、自分の部屋に一旦戻った。
砂漠に近いということだから、水の魔道具は必要だろう。
靴の中に砂が入らないための砂除けや、砂から目を守るゴーグルも必要かもしれない。
テーブルの上に必要なものを、用途ごとに分類して置くと、それぞれ点魔法で収納していく。
もちろん、俺にしか見えない点魔法の文字で、但し書きを付けるのは忘れない。
「武器・防具」 「食料・調理器具」 「砂対策」 「着替え」
こうしておけば、必要な時に必要なものが、すぐ取り出せる。
水の魔道具と金属製のコップは、使いやすいように腰のポーチに入れる。
忘れ物が無いか確認すると、部屋を出て大部屋に向かう。
ここで、今回の任務に向けた打ち合わせが行われる。
部屋に入ると、すでに席の3分の1くらいが埋まっていた。
彼の姿を見たアンデが、声をあげる。
「じゃ、始めるぞ」
この打ち合わせを通して、史郎は、大陸南部の猿人族が砂漠を越えて北の部族を襲っている事実を知った。
すでに、いくつかの部族が滅んでいること。
その滅んだ部族の一つが、狸人族であること。
最近起こっている襲撃は、その手口からして、猿人族のものではないと思われているが、疑いは捨てきれないこと。
猿人族の背後に、人族の存在があるらしいということ。
それは、猿人族が魔道武器をよく使う事実からの推測であること。
なるほど、最初町に来た時に、武器屋でけんもほろろの対応をされたのは、こういう理由があったのか。
「よし、各パーティーは、リーダーの指示に従ってくれ。
すぐに出発するぞ」
既に日は落ちかけていたが、夜通しの強行軍を行うらしい。
まあ、事態の緊急性を考えたら、当然の判断だろう。
ただ、夜からの調査となると、危険がさらに増すのは間違いない。
史郎は、気を引き締めるのだった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる