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第二章 獣人世界グレイル編
第10話 獣人の歴史
しおりを挟む長が舞子に話したのは、次の様なものだった。
昔、この大陸には、獣人たちが共存していた。
それぞれの種族が自分たちに適した土地に集まって住み、種族間の交流も盛んだった。
争いは、ほとんど起こらなかった。
それは、細長い大陸の中央辺りに大きな森が広がっていて、そこに神獣が棲んでいたからである。
神獣はテレパシーを使い、各部族の長と交信することができた。
いや、神獣と交信できる者だけが、長として選ばれた。
神獣はとても強く、そして賢かった。
時には争いを引き起こそうとした者もいたが、神獣の叡智と、手足のように働く部族長たちの前に、なす術もなく敗れ去った。
変化が訪れたのは、300年程前である。
大陸中央の森が、少しずつ消え始めた。
消えたところは草原や砂漠となり、神獣が棲めない環境となった。
200年前には、中央の森のほとんどが姿を消し、同時に神獣も姿を消した。
それに付け込むように勢力を伸ばしたのが、大陸南部に住んでいた猿人族だった。
猿人は、普通なら通れないはずの、危険な砂漠を渡る術を持っていた。
砂漠を通って他の地域に現れては、略奪や殺人を繰り返した。
南部近くに村がある他種族は、早々に姿を消した。
犬人族の中には、このようなことが起こったのは、他世界からの魔道具の普及が原因だとする考えが生まれた。
この考えに賛同して、北部の山間部に隠れ住んだのが、長たちの祖先だそうだ。
「それで、なぜ、聖女のことを、このように扱うようになったのですか?」
「200年前、多くの神獣様が聖女に救われたそうです。
そして、神獣様が姿を消す前に、各部族の長にテレパシーでお告げをしたたということです」
「お告げ?」
「『我われは、聖女に救われた。 もし再びこの地に聖女が現れるようなことがあれば、これを敬い奉れ』 そういうお告げだったそうです」
聖女を敬う原因が、そんなに昔のお告げにあったなんて。
舞子は、見えない大きな力によって、自分が動かされているような気がするのだった。
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