ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
上 下
57 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第55話 獣人世界へ  

しおりを挟む


ポータルがある鉱山都市へ向かう日の早朝、史郎は子供たちの寝顔を見てから、家を後にした。


ポータルまでは、ルルも同行する。

出発前に立ち寄るよう言われていたので、王城へ向かう。
城門の前まで来ると、門が開いて、騎乗した数名の騎士に率いられた、四頭立ての馬車が出て来た。

客車の窓が開き、女王陛下が顔を見せた。

「女王陛下、お早うございます」

「うむ。 これから散策だが、もし方向が重なれば、よろしく頼むぞ」

「ははっ」

俺は、念話で確認する。

『畑山さん。 これは、どういうこと?』

『散策に名を借りた、見送りね』

『よくレダーマンが許してくれたね』

『途中までだけどね』

女王は、従士に合図すると、客室のドアを開けさせた。

自分が先に乗ると、こちらにも乗るよう手招きする。

八人乗りだろうか。 

客車の中は、思ったより広かった。

向かい合ったシートの片側に女王が、もう一方に俺とルルが座った。

「こんな豪華なタクシーには、乗ったことないよ」

「ふふふ。 豪華さだけなら、自慢できるわね」

金糸銀糸で飾られた内装は、素晴らしかった。

シートの間には、テーブルがあり、お盆が乗っていた。

お盆には、水滴が付いたグラスが三脚置いてあった。

馬車が走り出したが、揺れはほとんどない。

テーブルの上のグラスも、ピクリとも動かなかった。

「すごいでしょ。 魔道具が、ふんだんに使ってあるらしいわ」

「はーっ、こりゃ、タクシーどころじゃないな」

俺が言うと、女王は誇らしげに胸を張った。

ルルも目を丸くして、室内を見回している。

「貴方がルルさんね。 
初めましてじゃないんだけど、ほとんど初めてのようなものね」

「はい。 お城に勤めておりました折、一度だけお目に掛かりました」

「こいつが、迷惑かけてない?」

「いえ、旦那さ・・シローさんは、とてもよくして下さいます」

「まあ、俺が城を追い出されてから、彼女には、ずっとお世話になってばかりなんだけどね」

「まあ、そうよねえ。 
でも、あの時から、二人がこうなるって、なんとなく分かってたかな」

「えっ! こうなるって?」

「それは、言わなくても分かってるでしょ」

ルルが、真っ赤な顔をして俯く。

ルルさん、それでは誤解を招きますよ。

「あなたも、こいつから解放されてほっとするわね」

「いえ、早く帰って来て欲しいです」

ルルが、俺の目を見る。

「あー、もう見せつけて。 
今の私には、あんたたち二人は毒だわ」

「毒ってねえ」

軽口を叩きあっていると、馬車が速度を落とす。

女王が、視線を窓から外へ向ける。

そこにあったのは、森だった。

「私の見送りは、ここまで。
この森はね、『霧の森』っていうんだけど、何か気づかない?」

「・・もしかして」

「そう、この世界に転移したときの森よ」

馬車から降りると、一行は、森の間を抜けて行く一本道の入り口で止まっていた。

「保安上の問題で、ここからは許可が出なかったの。
女王様って言ても、所詮そんなもんよ」

「いや、助かったよ。 ありがとう」

「じゃ、この二人の騎士と馬は貸すから・・・」

畑山は、急にしゃべるのを止め、森の方を見た。

史郎も警戒して、点ちゃんの準備をする。

騎士も、機敏に反応する。

「あなたたち、下がって待ってなさい」

彼女が、騎士に命令する。

「しかし、女王様、それは・・・」

騎士が反論しようとした瞬間、3mはある巨大な白い影が森から躍り出た。

「なっ! マ、マウンテンラビット!」

騎士達に、動揺が走る。

「鎮まれっ!」

女王の威厳ある一言で、騎士の乱れが、整ってくる。

彼女が白い巨体に近づくと、それは姿勢を低くして、甘えるように鳴いた。

きゅぅ~ん

女王は、ウサギの大きな頭に手を当てて、話しかけていた。

「ウサ子、会いに来るのが遅くなっちゃった。 ごめんね」


ええっ! これって、ウサ子ですか。

------------------------------------------------------------

畑山は、ついさっき、ウサ子からテレパシーを受け取った。


ウサ子は、ずっと会えなくて、寂しがっていたそうだ。

俺は、ルルと一緒に、念願のウサ子モフモフを体験させてもらった。

あー、くつろぐわ~。

あまりに長いことモフっていたので、畑山に呆れられてしまった。

「あんたねえ。 今日が何の日か、分かってるの?」

分かってますよ。
分かってますがね、この手が止まらないのですよ。

「いい加減にしなさい!」

とうとう、女王様に叱られてしまった。


彼女は、俺とルルに騎士二人と馬二頭を付けてくれた。

二人がそれぞれ、騎乗した騎士の後ろに乗ると、女王は大きく手を振ってくれた。

畑山が、俺の目を見る。

俺も、彼女の目を見て頷いた。


加藤と舞子は、任せろ!


俺は心の中で叫ぶと、騎士の背に体を預けた。


-------------------------------------------------------------

騎士達が御す、馬二頭は、一時間ほどで鉱山都市に着いた。

余り高くない鉱山の山肌を覆うように、町が広がっている。

馬を降り、騎士に礼を言うと、俺とルルは歩いてギルド支部へと向かった。

この町のギルド支部はとても小さく、小屋と言っていいようなものだった。

内部も小さなカウンターが一つあるだけで、狭い壁には全面、依頼が貼られている。

受付で、キャロからの手紙と女王の許可証を見せると、中にいたおばさんが、慌てて飛び出してくる。

なんと、彼女が、この支部のギルドマスターだった。

二軒隣の建物に駆け込むと、背が低い少年を連れてくる。

その子の案内で、ギルドの裏口から続く階段を、どんどん上って行った。

階段は、やがて洞窟の中を通り、そして、通り抜けると、ひらけた場所に出た。

振り向くと、岩の隙間から向かいの山が見える。

かなりの高度まで登って来たらしい。

鉱山の山頂が近いはずである。

広場の奥には、祭壇のようなものがあり、それがポータルだった。

少年は、もう一度、手紙と許可証を確認すると、ポータルを指さした。

俺は、ルルの方を向くと、その手を取った。

「ルル・・」

彼女が、俺の手を、ぎゅっと握り返す。


史郎は、思わずルルを抱きしめるのだった。

------------------------------------------------------------

史郎がポータルの向こうに姿を消した後も、ルルはしばらく、その場に立っていた。


案内役の少年が身振りで促すと、やっと歩き出した。

小屋のようなギルドまで降りて、裏口をくぐる。

なんと、そこにはマックがいた。

ハピィフェローの面々もいる。

「お帰り!  奴は、無事ポータルを渡ったかい?」

ルルが頷くと、みんなが歓声を上げる。

「おじさま。 どうして、ここに?」

「ギルドから、お前を護衛する任務を受けてな。
依頼主は、リーヴァス兄貴だ」

驚いた顔をするルルに、マックが説明する。

「別れはシローとお前の二人だけで、ってのも依頼の一部でな」

「みなさん・・ありがとうございます」

ルルは、ここにいる人達だけでなく、今回のことで働いてくれた、全ての人に感謝した。

「あとな、史郎から、これを預かってるぜ」

マックは、背中に担いだ袋から、青い箱を取り出した。

「あ、シローさんの・・」

ルルには、その箱が点魔法で作ったものだと、すぐに分かった。

手の上に載せ、箱に触れると、箱は静かに横に滑って消えた。

残されたのは、封筒と薄紫色の花だった。

「セイレンの花だな」

マックがつぶやく。


手紙には、次のように書かれていた。



ルル。 君が、これを読んでいるとき、俺はもう獣人世界にいるだろう。

いつか、聖騎士の森で、二人花を摘んだのを覚えているかい。

あの時、俺はその意味も知らずに、君の髪にこの花を挿してしまった。

今、もう一度、この花を捧げたい。



愛するルルへ



ルルは、嬉しくて嬉しくて、何度もその手紙を読み返したかったが、涙で文字が見えなくなり、諦めた。

シローが帰ってくるときは、セイレンの花で髪を飾り、彼を出迎えよう。


「みんな、帰るぞ!」

「「おーっ!」」
 
家までの旅路が、決して寂しいものにはならない。



マックとブレットたちの元気な声は、そう約束しているかのようだった。

-------------------------------------------------------------------

第1シーズン「冒険者世界アリスト編」終了。  
第2シーズン「獣人世界グレイル編」に続く。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...