上 下
43 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第41話 勇者の立場

しおりを挟む


マスケドニア王城では、勇者と国王の謁見が行われていた。

国王の落ち着いた態度と、こちらの体の奥にまで入ってくるような声に、
加藤は、王としての大きさを見せつけられていた。

場所は王の間ではなく、別室である。
上品な調度に囲まれるようにして、向かい合わせの椅子が3脚ある。

そこに、王、勇者、軍師の姿があった。

「よくぞ、おいでになられた。 勇者殿」

王が、勇者に話しかけた。

「ここまでのお心遣い、ありがとうございます」

加藤が、いつもになく神妙である。
お礼の言葉は、自分を籠にのせ、王城まで連れて来てくれたことに対してである。

「しかし、アリスト王が、辺境の一村を勇者に討たせようとしたとは、直にあなたから聞いておらねば、到底、信じられぬところであった」

「恐らく、勇者が我国を攻めた、という既成事実を作りたかったのではないでしょうか」

軍師が、さすがの予想をする。

「恐らくそうではないか、とシローも言ています」

「おお。 彼、シローといったか。 
この度の亡命の計画も、彼が立てたということだったが」

「はい、その通りです」

「なかなか面白い男だと思っておったが、これほど優秀だとはな」

「いつもは、ぼーっとしてるんですがね」

それを聞いていた史郎が、思わず念話で伝える。

『お前にだけは、言われたくないな』

「勇者殿が、わが国で大手を振って歩けるように、何か手を打ちたいところよ」

「陛下、表敬訪問という形をとってはどうでしょう」

軍師が提案する。

「さすがに、それは変ではないか。
 開戦の宣言が出た後だぞ」

「ここは、亡命ではないという表明が大事であって、辻褄が合うかどうかは、考えなくともよいと思います」

「なるほど。 言われてみればそうじゃな。
では、さっそくそのように取り計らってくれ」

「はっ」

「勇者殿も、ここを我が家と思い、くつろいで下され。
最初は外出できませんが、こちらでよきように考えますゆえ」

「分かりました。 そうさせてもらいます。 
あ、そうだ。
これは、お願いなのですが、介添えとしてミツを付けてもらえませんか」

「ミツというと?」

「このたび功があった、例の配下でございます」

「おう、そうであったか。 ショーカのところのあの者か。
それはよい。 ぜひ、そうして差し上げよ」

「はっ、御意に」

「では、後ほど歓迎の宴にお招きするゆえ、それまで湯あみでもしてくつろいで下され」

「ありがとうございます」

「では、ショーカ。 後は任せたぞ」

王が出て行き、加藤はショーカに客室を案内された。

「では、しばしおくつろぎを」

一人になると、さっそく史郎と連絡を取る。

『ボー、聞いてるか』

『ああ。 聞いてるぞ』

『王への対応は、あんなものでよかったか?』

『上出来だよ』

『畑山さんに、聞かれなくてよかったよ』

今回は、史郎と加藤の間だけに念話の回線を繋いである。

『そうだな。 ところで、お前、ミツさんをどうするつもりだ』

『ど、どうするもなにも。 友達なだけだよ』

『もう、その段階は越えていると思うがな』

『お、俺はこういうことに慣れてないから、どうすればいいか分からないんだ』

『あれだけやっておいて、慣れてないはないだろう』

史郎は、ダートンでの二人のイチャイチャを思い出していた。

『そ、そういえば、お前、聞いてたな』

『聞いてたぞ』

『・・・』

史郎は見ていなくても、加藤の顔が真っ赤になっていくのが分かった。
こういう時、親友というのは不便である。

コンコン

控えめなノックがある。

加藤がドアを開けると、ミツが立っていた。

「お世話をするように、申し付かっております」

「ミツ、そんな他人行儀は止めてくれ」

「でも、ユウ・・」

「あ、ちょっと待ってて」

加藤は寝室に入ると、史郎に話しかけた。

『ボー。 一生のお願いだ』

『分かってるぞ』

『まだ、何も言ってないけど』

『念話を切ればいいんだろ?』

『な、なんで分かった?』

『お前なぁ、どんだけの付き合いだと思ってるんだ。 
幼稚園からだぞ』

『とにかく頼むよ』

手を合わせる、加藤の姿が見える。

『気にするな。 もともと、そのつもりだったからな』

『ありがとうな』

『食事の前には念話を入れてくれ。 
宴で話されることは、ぜひ聞いておきたい』

『分かった』

『じゃ、切るぞ』

加藤が居間に戻ると、ミツは感慨深げにテーブルの上に活けられた花に触れていた。

「待たせたね」

ミツは、強く首を横に振った。

「その花が何か?」

「ええ・・ 私は、小さなころから修行と任務にあけくれていたので、ユウとこのように話せるようになって、なにか別の自分になったようで・・」

「俺も、こんな気持ちになったのは、初めてなんだ。
ミツと一緒に、もっといろんなことがしてみたい」

「ユウ‥ユウ・・」

ミツは加藤の胸にすがると、嗚咽を漏らした。



加藤は、彼女の腰に手を回すと、さらにぐっと自分の方に引き寄せるのだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

優しさを君の傍に置く

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:587

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:38

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:145

【R18】伯爵令嬢は悪魔を篭絡する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

悪役令息なのでBLはしたくないんですけど!?

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:553

黄金郷の白昼夢

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:73

先輩の旦那さんってチョロいですね~♪

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

生まれながらに幸福で

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...